核心に近付く


ーー青だからって仲間意識持たなくて良いんですよ?

たっぷりの睡眠が必要だと思い知ってから二日後、昨日は丸々一日寝ていた。起きようとしたら凌統さんにお布団の中に連れ戻されたり、呂蒙さんに読み聞かせされたりとかなり過保護にされた。そろそろ動きたい。そういえば主もなかなか戦場に出してくれなかったなあ、後で小夜兄や宗三兄様が自分が出るから出すなって直談判してたって聞いたんだけどね。私だって刀剣女士なんだもん、真島さんからかなり厳しく鍛錬付けて貰ったし、やらなくては鈍ってしまう。鈍るのはやだなあ…ただ、資源がないからあまり無理をするのは褒められたことではないよね。そこだけはちゃんと覚えておかないと…
体力も問題ないくらいになったから、そろそろ魏に行ってみようかという話になった。本当は行かせたくないみたいだけど、話は通した方が良いって孫堅様が言ったから皆渋々頷いてたなあ…まあ、その孫堅様も渋い顔をしていたけど。郭嘉さんって人には近寄るんじゃないぞって言われたけど何でだろ?あ、因みに今回のお供も凌統さんと甘寧さんで、相変わらず凌統さんに抱っこされてます。切実に歩きたい!


「良いかい、鈴ちゃん。孫堅殿も言ってたけど、郭嘉には近寄っちゃだめだからな。向こうから近付いて来た時は必ず逃げるんだよ」
「は、はあ……何か問題でもあるんですか?」
「節操なしなんだよなあ、彼奴。喋ったらややこを孕むとかそんな噂もあるし、避けた方が身のためだぜ」
「ひぇ、しゃ、喋っただけで…!?」
「ま、俺がずっと抱えてるから問題ないよな」
「離すんじゃねぇぞ」
「当たり前だろ」
「…ん?何か目の前に凄く綺麗な人が居ますよ。魏の人ですかね?」
「目の前?誰も居ないけど」
「……ちょっと待て、確かに随分と前の方に人影みたいなの見えっけどよ、あれか?あれが見えるのか?」
「索敵は得意なので!」


どやあとどや顔しながら言えば、微笑ましいものを見るような優しい顔をした凌統さんと甘寧さんに頭を優しく撫でられた。…嘘じゃないんですけど!?どんな奴なんだ?と言われたので改めて視線を向ける。ししおーさんみたいな金髪に細い人。それでいて全体的に青と白を基調とした服に身を包んでるような、と言った瞬間ーー…凌統さんの腕に力が入り、甘寧さんがまじかよ、と小さく呟く。…この反応は、まさか。


「…もしかして、郭嘉さんだったり?」
「…金髪で細いってのが嫌な予感しかしないね。甘寧、回り道するぞ。裏道から入ろう、遠回りにはなるが鈴ちゃんを関わらせたくない」
「同感だな。幸い気付かれてはねぇようだし、回り道するなら今だな」
「…気付かれてない、ですかねぇ…」
「「え」」
「…私、青い髪ですし凌統さんは赤い服ですし、甘寧さんは上半身裸ですし…見付かるな、と言う方が難しいんじゃ…」
「せめて服着て来いよ!!!!」
「…正直悪かった…」
「…向かって来てますよ、どうします?」
「走って逃げるしかないな…甘寧、いけるかい?」
「当たり前だ!鈴、舌噛むんじゃねぇぞ」
「はーい」


私は返事をしてから凌統さんの背中に腕を回して(勿論届いてないけどね…)抱き着く。この方が凌統さんも走りやすいだろうからね。凌統さんと甘寧さんは顔を見合わせ、同じたいみんぐで地面を蹴り出す。舌を噛みそうになるのを堪えながらこっそり顔を覗かせれば、恐らく郭嘉さんであろう人はぱちくりと瞬きを数回繰り返したあと、ゆっくりと口を動かす。必要になるからと真島さんから教わった読唇術で解読しようと目を凝らしてーー…に、げ、ら、れ、ちゃ、っ、た、か、な……逃げられちゃったかな!?危ない人でした!?思わず腕に力が入り、凌統さんのぐ、って声が聞こえた。ご、ごめんなさいいいいい!!
何とかその場を離れて、私達は裏道から裏口へと入る。やけに青が目立つ…落ち着くかも、じゃなくて!!


「凌統さん、さっきはごめんなさいいい!!」
「あー、良いって良いって。鈴ちゃん、意外と力強いんだな」
「政府に顔見せしに行った時、隅々まで実験されそうになったのを見た小夜兄…あ、私を救ってこの身体を与えてくれた本霊さんなんですけどね、その刃が自衛は出来た方が良いからって打撃をかなり鍛えたんです」
「政府って奴等はこんな幼いガキに手を出すのか!?腐ってやがるぜ…!んで?さっきは何にビビったんだ?」
「刀剣男士に見目が良い刃はいっぱい居ますけど、やっぱり男なんで唯一の刀剣女士である私が興味深かったんじゃないですかねえ。…実は読唇術が使えるんですけど、あの人逃げられちゃったかな、とか言ってて…怖かったです…」
「それってつまり…考えるのはやめとくか。読唇術も使えるのかい、鈴ちゃんは凄いな…ってその口調は…」
「…郭嘉、で決まりだろうな。おかしいぜ、文を送ったら荀ケを出迎えさせるって書いてあったは…「おや、凌統殿に甘寧殿?」お、噂をすれば何とやらだな!荀ケ、入口に郭嘉が居るなんて聞いてねぇぞ!」
「郭嘉殿、ですか?…実は今朝から仕事を放ったらかしで探していたんです。それで出迎えが遅くなり…申し訳ありません。夏侯惇殿」
「皆まで言わんでも分かっている。郭嘉は俺が連れ戻す。荀ケはさっさと孟徳に会わせに行け。淵が見張ってはいるが時間の問題かも知れん」
「はい、分かりました。逃がさないでくださいね」
「当然だ。……まあ、ゆっくりしていけ」


眼帯の人(後で夏侯惇さんだと教えて貰った)は少し表情を緩めた後、ぽん、と遠慮がちに撫でてから入口の方に向かって行く。どことなく不器用な印象を受ける彼は光世さんを思い出させる。このままではすれ違ってしまう為、右回りで行った方が良いですよ!と声を掛ければ、夏侯惇さんは驚いたように振り返った後、手を挙げる。これは分かってくれたのかな…優しそうな人は荀ケさんと言うらしい。凄く良い匂いがします…何の匂いだろ…みっちゃんもたまにこんな匂いしてたなあ、いつだっけ…思い出そうとしていれば、いつの間にか大きい扉がある部屋の前に居た。え、心の準備がまだなんですけど!?


「失礼します、殿。凌統殿と甘寧殿をお連れしました」
「うむ、構わぬぞ」
「お、来た来た。おお、お前が文に書いてあった迷子か?小せえなあ、息子にもこんな時期があったなあ…」
「失礼します。急な申し出を受けて貰ってすまないね」
「近えぞ、夏侯淵!鈴がビビるだろうが!」
「甘寧さん!?私は大丈夫ですから!ええと、文の内容は分からないですけど鈴です。宜しくお願いします」
「ほう、礼儀もしっかりとしているのだな、曹操という。綺麗な青だな、地毛か?」
「俺は夏侯淵だ、宜しくなー!確かに綺麗だよなあ!海みたいな色だ!」
「地毛ですよー。海、ですか?」
「あれ、鈴ちゃん行ったことないのかい?」
「多分…?親は山の方が好きでしたし…」
「そいつは勿体ねえなあ!よし、今度海に遊びに行こうぜ!海は綺麗だぞー!」
「それでしたら丁度魏と孫呉の間にある海なんてどうでしょう。彼処はあまり知られていないようで人も少ないですし、落ち着けると思いますよ」
「流石は荀ケだな、良い提案だ!楽しんで来いよー」
「わっ。…えへへ、有り難うございます」


息子さんのお世話で慣れてるのか、夏侯淵さんは力加減が絶妙だ。気持ち良いなあと思いつつふにゃりと笑えば、夏侯淵さんは女の子はやっぱり可愛いなあと嬉しそうに笑いながら頬をつつく。これは可愛いさに陥落しちゃったかな?小夜兄が可愛いのは当然だから仕方ないよね!小夜兄は神様であり天使である最高のお兄ちゃんだからね!本霊さんもお兄ちゃんって呼ばないと悲しそうな顔するし…そこもまた可愛い…小夜兄最高…罪深いし、そんな可愛い神様に愛された私って幸せ者だわ…


「鈴、家族と会えずに寂しくはないか?」
「…寂しくない、と言えば嘘になります。やっぱりお兄ちゃんが恋しいですから」
「うむ、だとしたら我等に出来ることは早急に探し出してやることだな。魏も力を貸そう。して、最後に見たのはどんな姿だったのだ?」
「…どんな、ですか。…沢山の火に、囲まれてました。怪我をしていたと、思います。…絶対に安全だと、言われていたのに」
「…戦に巻き込まれたのか。絶対に安全だってのは誰から聞いたんだ?」
「一番偉い人、ですかね?仕組みは良く分からないんですけど、結界を張ってるので敵には見付からないみたいなんです。…まあ、攻め入られた訳なんですけどね。よりによって強い人達が出払っていた時だったので……みんな、大丈夫かなぁ…」
「大丈夫だって。鈴ちゃんの家族なんだろう?信じてやりなよ」
「凌統の言う通りだぜ!暗いことを考えるな!まあ、難しいだろうけどな」
「…強い人達が出払っていた所に攻め入る、というのが気になりますね。間者でしょうか」
「…荀ケもそこがやはり気になるか。時期が良すぎるのが気になるところだな」
「…間者……うーん…怪しい人は居なくもないんですよねぇ…」
「「心当たりあるのかよ!!」」
「息ぴったりだな…それで?一体誰なんだい?」
「主と上の人の間に入っていた担当さん、ですかね。あの人…たまに気持ち悪かったので」


あの探るような視線を思い出し、思わず自分の体を抱き締める。そんな私の反応に、凌統さんはぎゅーと抱き締めてくれた。…落ち着く…言いたくないだろうけどどんな風に気持ち悪かったんだ?と悲しそうな表情で聞いてきた夏侯淵さんの言葉に、私は頑張って思い出そうとする。…黒髪で前髪が長くて目が見えなくて、たまに鼻息が荒くてはあはあ言ってたような…?そこまで言ったら、凌統さんにそっと頭を撫でられた。顔を見上げれば、凌統さんは笑顔で口を開く。


「忘れろ」
「え」
「良いかい、誰よりも真っ先にそんな変質者のことは忘れるんだ。鈴ちゃんは良い子だから出来るだろう?」
「何で鈴の周りはこんな連中ばかりなんだ!!教育に悪いだろうが!」
「…こんな連中ばかり、とな?一人ではないのか…?」
「うわぁ……良く此処まで良い子に育ったなあ…鈴を育てた兄貴は凄いんだな」
「小夜兄は最強で最高なんです!…変質者って、優秀な部分もあったんですよ?ただ、その……女の人と話すのが苦手だっただけでして…」
「必死で庇う必要なんてありませんよ、鈴殿。…考えたくはないですが、その戦いの混乱に乗じて鈴殿に変なことするつもりだったのかも知れませんね」
「…荀ケよぅ、俺も薄々そうじゃねぇかなあとは思ってたけどよ…」
「荀ケを責めるでない。…返してやりたいのは山々なのだが、その担当とやらと話をしてみなければ結論は出来んな。よし、鈴。絵は描けるか?似顔絵を描いて探してみよう。担当とやらは見付けたらまずは一発殴らなくてはな」
「え」


流石にそれは過激過ぎなんじゃ、と言おうとしたけれど、曹操様の言葉にこの場に居る全員が頷いたので私はお口ちゃっくする。…まあ、気持ち悪いって最初に言ったのは私だから仕方ないのかな…でも、嘘は言ってないからなあ……ああ、そうか。言われて気付いたけど担当さんが歴史修正主義者と組んでたのは聞いたことがないわけではない。実際にその裏切りによってなくなった本丸だってあるみたいだし。…あの人も、そうだったのかな。だとしたら、一発くらいは殴っても許されるはず。や、殴らないとだめだよね?あと、似顔絵かあ…


「…絵は、苦手なんです。描いても分からないと思います…」
「ほう?得意そうだがな。逆に何が得意だ?」
「うーん…狩りと料理ですかね?好きなことなら畑仕事も加わりますけど虫は嫌いです」
「へー、狩りが出来るのか!そいつは凄いなあ!俺も弓でなら狩り出来るから今度一緒に行こうな!」
「畑仕事でしたら私が借りてる畑に是非遊びに来て下さいね」
「…孫呉より魏に来ぬか?心配なのは郭嘉だが…まあ、夏侯惇に目を光らせて貰えば大丈夫だろうからな」
「絶対にだめだからな!!鈴ちゃんは俺が責任持って保護するって決めたんでね」
「本当にあんたは噂通りにすぐに人を引き抜こうとしやがるな…!!鈴は絶対に渡さねえからな!」


曹操様からの誘いに断わるまでもなく、凌統さんと甘寧さんがすぐに断わってくれた。そんな二人に対して曹操様は残念だと言っていたが、顔が残念そうじゃないんだよなあ…諦めてなんかやらないって顔してない?ちらっと夏侯淵さんと荀ケさんの方を見れば、二人とも困ったように笑ってから明後日の方向に目線を逸らす。…これはやっぱり諦めてない奴だよね?自分達じゃ止めれないからってことだよね?夏侯惇さあああん!!
あ、似顔絵は荀ケさんが描いてくれました。めっちゃそっくりだし小夜兄可愛い…帰る時は荀ケさんお手製の漬物まで頂いてしまった…到り尽せりで有り難い限りだなあ…とても美味しかったです!