そんなつもりではなかったけれど


※Rー15くらいの描写あります。

ーーべつに、嫌だってことはないんですよ?


自分の布団や枕じゃないと寝られない、なんてことはなく朝までぐっすり寝てました。お布団がくっ付いていて離れなかったことには驚いたけれど、凌統様が「心の準備くらいはさせてやるよ」という慈悲をくれたので、昨日はただただ添い寝のような感じで寝ただけだ。…今日からは、分からないけれど。
朝から地元の魚介類を惜しみなく使った豪華過ぎる朝餉を頂き、お腹がいっぱいになる。幸せだ…その後はそれぞれの部屋に用意されているという庭をのんびり歩いていた。…色々と規模が大きすぎない??


「…空気が美味いな。自然に囲まれてるからか?草木を植えれば民も少しは気分が安らぐかも知れないな…進言してみるか」


凌統様はお仕事を休むつもりは少しもないらしい。気になることがあればそこに向かい、色々調べてから私の元に帰って来る。本来であれば文官である私も共に考えなきゃいけないだろうけど、それを凌統様が快く思わないんだよね…凌統様は籍を入れた後、私には文官を辞めて欲しいらしい。家で待っていてくれ、と言われたけれど……戦場に居て欲しくないんだろうな、きっと。最近では鍛錬することもあまり好ましくは思ってないだろう。いつか師匠達にも直談判する時が来るのかな…来ないと良いけど…


「卯琅、浮かない顔してどうした?何か気にかかることでもあったか?」
「いいえ、何も?」
「…そうか?」
「そうですよ。あっ、凌統様、鯉が泳いでますよ!可愛いですね!」
「なかなかに綺麗で肉付きも良いし、良い飯貰ってるんだろうな」
「肉付きって……まあ、そうかも知れませんね!あら、小さい鯉も…親子、ですかね?」
「多分な。……いつかは、俺達もあんな風になりたいな」
「、そう、ですね…」


さらりと言われた言葉に思わず反応が遅れてしまう。うう、恥ずかしい…照れている私にくすりと笑みを零した後、そっと手を握られる。所謂ーー…恋人、繋ぎというやつに。それに再び照れていれば、今度は耐えきれなかったのか凌統様が大きな声で笑い出す。て、手汗とか大丈夫だよね…!?


「ふ、卯琅は相変わらず可愛いなあ。これ以上のこと、とっくにしてるのに慣れてないのか?」
「…な、慣れませんよ…!凌統様みたいに、経験豊富じゃないんですから…!!」
「ばーか、俺だってアンタが初めてだよ。良い感じになった相手が居なかった訳じゃないけど、心まで欲しいと思ったのはーー…卯琅だけだ」
「ミ°」
「それどうやって発音してんだ?可愛いけど」
「か、かわ…!?さ、さっきから甘々過ぎません…!?嬉しいですけど!!供給過多なんですが!?」
「あー…誰も居ないから、かもな。俺達以外、誰も居ない。だからか…我慢が、出来ない」
「…凌統様…?」
「卯琅に、触れたい。くっ付いて居たい。話したい……そんなことしか、考えられないんだ。重いよな、こんなの」


照れ臭そうに笑った後、自嘲気味に小さく呟く。乱暴に綺麗なお髪を掻き乱すのは辞めて欲しいけれど、これはきっと今言うことではないのは分かっている。…ああ、何て可愛いくて可哀想な人。ドクン、とさっきとは違う意味で胸が昂る。こんな些細なことで重い、なんて……私は、それ以上の気持ちを、貴方に抱いているのに、ね?


「ーー…そんなの、私も一緒ですよ」
「…卯琅?」
「私だって、貴方に触れたいし、くっ付いて…いっぱいお話したいです。…私以外の女の子と、話して欲しくない。師匠達は別ですけど、姫様とかにさえ…最近、やきもちを妬いてしまうんです。私のーーだ、旦那様なんだぞって」
「…俺だって、卯琅が彼奴にーー…甘寧に絡むの、嫌だ。勿論、俺が彼奴を嫌ってるからだって言うのは分かってるが……俺以外の男と仲良くするな」
「…はい。凌統様も、必要以上に姫様達とお話しないで下さいね?」
「ああ、約束する。可愛い嫁からの頼みだからな」
「ひぇ」
「また照れてるのか?本当に卯琅は可愛いな…喰いたいくらいだ」
「い、いいいい今はお昼ですから!!」
「夜なら良いのか」
「…もう、凌統様のえっち…」


さっきまでの雰囲気は何処に行ったのか、凌統様が真顔になって迫って来たので思わず顔を逸らしてからそう言葉を紡げば、凌統様は深く長い溜息を付いていた。あ、呆れられてしまったのかな…!?そう思って凌統様の方に視線を向ければ、何だか天を仰いでいて困惑してしまう。心なしか顔も赤いような…?


「卯琅」
「は、はい…?」
「それ、反則な」
「…反則、ですか?」
「あ〜〜…顔を傾けるんじゃないよ、あざと過ぎないか?卯琅、そんな仕草俺以外の男にするなよ」
「良くは分からないですけど…私は凌統様以外にはするつもりない、ですよ?」
「…生殺しかよ……卯琅、昨日は逃してやったけど今日は無理だから覚悟決めといてくれ」
「…覚悟、ですか?」
「そ。今夜はーー…絶対に抱くからな」
「ーー…えっ」


力強く宣言されたことに対して一瞬理解出来なかったけれどーー…理解出来た途端、ボンッと身体中の体温が上がったような気がする。だ、だだだだだ抱くって…!?そ、添い寝かな?抱き枕にす「抱き枕とかにしたい訳じゃないからな、…分かるだろ?」…こ、心読まれた…!?


「こ、心の準備させてくれるのでは…!?」
「気が変わった」
「変わらないで下さいよう!」
「卯琅が煽るからいけないんだろ?俺は我慢しようと思ってたんだぜ?」
「煽ってません!」
「…そんなに嫌か?」
「嫌だったらえっちな下着なんて持って来な……アッ」
「へぇ〜〜?何だ、案外乗り気だったんだな。全部照れ隠しか、可愛い奴」
「ち、ちが…!わ、なくもない、です、けど…!!」
「そうだよなあ、卯琅は声出ちゃうからシてなかったもんな〜〜恥ずかしそうに声抑えてる卯琅も可愛いしクるけど、やっぱり可愛い声で啼いて欲しいし……たーくさん、愛し合おうな♡」
「ぴっ、その撫で方、嫌です…!!」
「ん〜〜?普通に、撫でてるだけだろ?」
「〜〜っ!!凌統様の、意地悪…!!」


ツー、と腰を撫でられ耳元で甘く囁かれて思わず反応してしまう。よ、夜だって言ったのに〜〜!!冷静に考えれば突き飛ばせば良かったのだけれど、焦り過ぎてひたすらあわあわしていたら、くすくすと耳元で笑われる。うう、息が擽ったい…!!


「…本当は今すぐに布団に行きたいが、夜だって言われたから今は我慢するよ」
「…い、意地悪しません…?」
「しない、ように気を付ける。絶対とは言えないが……信用、出来ないか?」
「…何だかんだ言って凌統様は私の嫌がること、しないので……信じて、あげます」
「…そっか。優しい嫁で助かる」
「あう……そうやって優しく囁くのやめてくれません…?心臓に悪いです」
「…本当に卯琅は付き合う前と性格変わったよなあ、付き合う前は俺の方がたじたじだったのに」
「それ、は……叶う訳、ないと思ってたのと…振り向いて、欲しかったんです…」


ーー…一目惚れ、だったから。両親にお前が士官する孫権様だよ、って紹介されたあの日ーー…奥に控えていた凌統様の姿に私は一目で恋に落ちた。「恋はね…雷が走るような激しい感覚になるのよ」なんて冗談混じりで教えてくれた母親と同じような恋の落ち方だった。あの人と仲良くなりたい、愛されたいー…そんなことばかり考えていたから、ガンガン攻めていってたけど…母親からこの人!!って決めたら攻めなきゃダメよって言われてたし……いざ結ばれたら、どうして良いのか分からないんだ。そこまで聞いておけば良かった…


「やっぱり卯琅はそういうとこ義母さん似だよな、義母さんも義父さんに一目惚れして攻めに攻めて結ばれたら照れ屋になったんだっけ?そんなとこも可愛いって義父さんに惚気られたからな」
「…うう、お恥ずかしい…」
「何でだ?それほどーー…俺が好き、ってことだろ?」
「…好き、というか…あ、愛してます、よ」
「ーー…っ」
「凌統様の顔が、声が、性格が、…とても、大好きなんです。愛おしくて、堪らない……そんな人に、振り向いて貰えたってことが……嬉しくて、幸せで、夢みたいだって、思ってしまうんです…」
「…夢じゃないさ」
「ふふ、分かってますよ。でも、振り向いて貰えるなんて、思ってませんでしたから。…あの男への、復讐しか見えてなかった貴方に届くと思ってなかったんです」
「あ〜〜…そう、だな。あの時は散々酷いこと言ったよな…甘寧への憎しみしか見えてなかったから…呂蒙さんに一発貰ってなかったらまだ気付けてなかったかもな」
「…目が、変わりましたもんね。あの時の凌統様は、甘寧と心中するんじゃないかってくらい生き急いでるように見えましたから」
「彼奴と心中なんてする訳ないだろ!?…まあ、言ってる意味は、分かる。親父を殺した彼奴も、彼奴を受け入れた殿も…全部憎かったからな。まだまだ青臭いガキだった俺は、周りに当たりまくった。俺を心配してくれてた卯琅にもキツく当たったよな」
「そんなこともありましたねえ……まあ、私は下心ありきでしたから勘付かれたのかと気が気じゃなかったんですけどね」
「下心?」
「ええ。ーー…復讐心である執着を、私に向けてくれないか、と。私、何もかも憎いという感情を隠していなかったあの瞳に、魅入られたんですよ。悪い女でしょう?」


家族を奪われて、その仇を自分の上司が受け入れるーー…どんなに苦痛だっただろう。同じ思いをしたことがない私は、間違っても分かるよ、なんて言ったらいけない。分かる訳、ないんだから。“もう何も信じられない”そんな感情を隠そうとしないあの瞳は、もう吹っ切れてしまった今は見れないのが少しばかり惜しいけれど、今の輝かしい瞳も好きだから無問題だね!


「…そんな強かな面、初めて知ったんだが?」
「隠してましたから。…嫌でしょう?絶望してたあの時の瞳が好きだなんて。アッ、勿論今の瞳も好きですよ!?凌統様に嫌いなとこなんてありませんから!!」
「分かった分かった。…あー…なんかその、擽ったいな。あの時の感情を、まさか受け入れて貰えてるなんて…思ってもなかったし」
「?凌統様の人生を他人が否定するのはおかしくないですか?誰だって身内を殺した人が味方になったら良い気しませんもん」
「…卯琅でも、そう思うか?」
「…私は凌統様のような経験をしていないので、軽々しくそうだとは言えませんが……まあ、多分凌統様と同じ感情を抱くか……後追い、しますかね」
「っ」
「後追いの場合…あの人の仇を殺してから私も死ぬ!みたいな選択肢もあるかも知れませんけど…私は何もせずに自死を選びますかね。だって、仇を殺したらその仇が身内を追い掛けたような感じになりません?私と身内の間に他人なんて入れたくないです」
「ーー…」
「大切な人を手に掛けるような人に何を言われても痛くも痒くもないですし!寧ろ私の身内殺しといて何綺麗事抜かしてんだ?ってなりますよ!」
「…そう、だよな…」
「…凌統様?何で泣きそうな……えっ、変なこと言いまし……沢山言いましたね、?どれが刺さっちゃったんです…!?」


話し過ぎたかなー、なんて思いながら顔を上げれば、凌統様の目に薄い膜が張られていて思わずびっくりしながら声を荒げてしまう。えっえっ、どれがいけな……どれもいけないな??あわあわしながら凌統様の背中を摩っていれば、凌統様がぷるぷる震えながら小さく「…有り難う」と言葉を紡いだので思わず固まってしまう。……お礼言われるようなこと、したっけ?


「…凌統様?」
「…卯琅を、好きになって良かった。俺を好きで居てくれて有り難うな」
「ええ…?」
「…俺を、俺の気持ちを否定しないでくれて有り難うな。偶に言われてたんだ、復讐なんて虚しくなるだけだからやめろって。…どうせ還って来たりなんか、しないんだからって」
「ーー…はあ??失意の凌統様にそんなことを言う愚か者が居たんですか?そんなの凌統様の勝手じゃないですか。凌統様の気持ちは凌統様だけのものです。誰かに口出し出来る権利なんてないと言うのに…」
「…そういうとこ、本当好き」
「えっ」
「…甘寧のことは嫌いだし、許せない。…殿のことは嫌いじゃないが、彼奴を受け入れたことは絶対に許せない。…こんな汚い感情、棄てろって言わないでくれるのは卯琅と呂蒙さんだけだよ」
「…汚くなんてないですよ、当然じゃないですか。だって貴方は、奪われた側なんですから」
「…本当に優しいなあ、卯琅は。……頼むから、俺を置いて逝かないでくれよ」
「勿論です。これ以上貴方を泣かせたくないですからね!凌統様も老衰するまで逝かないで下さいね?まあ、後追いますけど!」
「…そっか、責任重大だなあ」
「凌統様の居ない世界に意味なんてないですから当然ですね!」


私の世界は、凌統様と出会ったあの時からずーっと…凌統様だけしか、見えていないのだから。私のこの汚くて重い感情を、凌統様は受け入れてくれるかな?無理強いはしたくないけれど…受け入れてくれたら、良いなあ…


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