全ての始まり

ーー貴女の顔を見た時、ずぅっと忘れたことなかった親友が私に勧めて来たあの日を思い出したの。

ちゅんちゅんと鳥のさえずりを聞きながら、私は目を開ける。ーー良かった、私はまだこの世界に居ていいらしい。なんのこっちゃって人だらけだろうからまずは説明させて欲しい。皆は前世って信じる?·····まあ別に無理に信じて欲しいとは言わないけれど。私には前世の記憶がバッチリある、1回死んだ記憶だ。·········まあ死んだの“だろうな”って感じだけど。
生前、私はしがないOLだった。生きる為に精一杯だった、生きる為にやりたくない仕事をして、ほっぺが攣るくらい愛想笑いを浮かべていた。気に入られるために媚びるのに精一杯だった。あの日も、いつもと同じだった。いわゆるサービス残業をしていた、いつものように。終電ギリギリだった、作るのが大変でコンビニ弁当を買っていた。近くだから温めて貰って、家に着いて服を脱いだ瞬間ーー·····ぷつん、と意識が途絶えた。多分その時に私は死んだのだろう。下着姿でご飯食べようとしてたことには触れないでね。


「·····ゆーちゃん、怒ってるだろうな。でもね、今幸せなんだ」


思い出すのは両親じゃなく、私の為に泣いて笑って怒ってくれる大事な親友ーー柚希の顔。もしかしたら、私が死んだことに1番ショックを受けているのはあの子かも知れない。両親はーー·····多分、大丈夫だろう。私が居てもいなくても、あの人達の1日は何も変わらない。自分“が”良ければ良いって人達だったから。お互いに仕事人間で、仕事だけしていたかった。親·····まあ、私から言ったらおじいちゃんおばあちゃんが結婚しろだの孫が見たいと色々言ってきて“仕方なく”私を作ったのだと聞いた。その発言を聞いた時、私はやっぱりなあって思っただけだったんだけど、おじいちゃんおばあちゃんはかなりショックを受けた顔をしていたっけ。


「ーー心音、起きたのかい」
「ーーおはようございます、惣右介さん」
「ああ、おはよう。·····何か嫌な夢でも見たのかな?悲しそうな顔をしている」
「え、·····悲しかった、のかも知れない」
「·····そうかい。今日は仕事休むかい?ギンには話を付けておくよ?僕も仕事終わらせたばかりだし、一緒に休んでー「隊長会議あるの知ってるからね?」·····知っていたか·····」
「そんな顔しないでよ、大丈夫だから」


聞いてゆーちゃん。私ね、何故かあの大好きなBLEACHの世界に転生したみたいなの!しかもね、あの藍染惣右介がね、私の後継人なの!!私も虚圏行けるのかな〜とか思ってたらなんか裏切るの辞めちゃったんだよね、私が天に立つモードの藍染好きだったんだけど。まあ、それはおいといて、藍染はなんかめちゃくちゃ優しいんだ、過保護って言って良いくらい。必要以上に構ってくれようとするから、雛森ちゃんにはちょっと嫌われてるんだよね·····藍桃も普通に好きだけど、やっぱり日桃がいいなあ〜〜あの2人の関係性ってやっぱりいいよね!
·····だからね、ゆーちゃん。大丈夫だよ、私今すっごい幸せなの。死んでから幸せになれちゃった。だからね、仮に泣いていたとしたら·····もう、大丈夫だよって伝えたいなあ。


「朝ごはん出来ているけれど、·····食べれるかい?」
「え、作ってくれたの?」
「ああ、たまたま早起きをしてしまってね。心音がちゃんと食べてるか気になってしまって」
「過保護過ぎだよ··········でも、惣右介さんの料理好きだから嬉しい」
「!!!ま、毎日作りに来ようか!?」
「それは大丈夫」
「·····そう、か··········」
「私の料理も、食べて貰いたいし?」
「!!楽しみにしてるよ」
‪(いやちょろいな)‬


これがあの藍染惣右介だよ、びっくりだよね。まあ正直、この感覚にはやっぱり慣れない。でも、藍染が私の為にって色々世話焼いてくれるの嬉しいんだ。ほとんどずぅっと私1人の時間が長かったからまだ一緒に暮らすのには抵抗あるけれど、そんな私の事情を知ってめちゃくちゃでかい、隊長格が住むくらいのお屋敷を建てられたのにはびっくりしたけど、ずっと一緒に居たいっていう気持ちを我慢して、私の意思を尊重してくれる藍染のこと、大好きなんだ。
だからね、神様。親不孝者だし、親友泣かせだしなんなら孫不幸者でもあると思うけど。もう少しだけ、この幸せの沼に浸らせてください。ちゃんと、満足してみせるから。


「·····ああ、そういえばなんだが。心音はまず流魂街の見回りをしてから来て欲しいって吉良くんが」
「·····吉良副隊長?市丸隊長じゃなくて?」
「ああ、·····昨日から行方不明らしくて」
「え︎︎゛····················それ、私も参加した方がいいやつじゃ·····?」
「僕もそう言ったんだけど、流魂街の長老にね、心音を呼んで欲しいと頼まれたんだんだって、名指しで」
「·····名指しで?三席である私を?わざわざ?」
「ああ··········あの人はなかなか癖がある人でね、でも彼の持つ情報は護廷十三隊にとってなくてはならないものだ。·····分かってくれるね?」
「·····なんか菓子折でも買ってから行きます」
「そうだね、それが良いかも知れない。はい、お小遣い」
「あるから大丈··········惣右介さん???金額多くない?」
「君がよく言う推しに課金ってやつ、僕がしちゃいけないとは言われてないからね」
「·····ヴッ、顔が良い」
「ははっ。ほら、冷める前に食べておくれ。僕も少し吉良くん達を手伝ってくるから」
「·····はぁい」


私の反応に藍染は楽しそうに笑ってからポンポンと頭を撫で、外に出て行った。·····ギン、もしかして乱菊のとこに居るんじゃないのかなあ、なんて思いながら私は顔を洗ってうがいをしてから食卓に着く。今日はパンの気分だったらしい、フレンチトーストとサラダとコーンスープと果物入りのヨーグルト。あの藍染が私の為に作ってくれたというBLEACHヲタクからしたら嬉しすぎるファンサを噛み締めて、いただきます、と手を合わせてから口に運ぶ。·····うっま、朝から甘いものが食べれて幸せだ。


「·····長老、何の用だろう」


私個人としては全然話せるタイプの人なんだけど、何かと敬遠されやすい長老さんに渡す菓子折りを考えながらもくもくと食べ進めていく。なんだっけ、最近新しく出来た団子屋のみたらし団子食べたいとか言ってたっけ。それを買っていけば喜んでくれるかなあ。他にも目星しいものあれば買って行こうかな。ご馳走様、パチンと手を合わせてから洗い物をして歯磨きをしてから身支度を整えて私は外に出る。あまり待たせるのも悪いし、最初から瞬歩で行こうかな。私は軽く肩を回してから地面を蹴る。長老の用件はなんだろうなあと思いながらーー·····


「長老〜〜!御巫です、お待たせしました!!」
「おお、心音!待っておったぞ」
「急ぎでした?」
「いいや、心音はいつも早いから助かっておる」
「それは僥倖。·····あ、これお土産です、後で食べてください」
「おお、わざわざすま·····これは!あの団子屋じゃないか!!買えたのか!?」
「ええまあ。私ほら、二番隊が欲しがるくらいの脚ですから」
「そうじゃったの··········いやあ、これは嬉しい誤算じゃ。そうそう、心音に頼みがあってな。まぁ、正確にはワシからではないんだがの」
「·····たしかに、知らない気配を感じますけど」
「おお、流石心音じゃ。居間に居るから会いに行ってやってくれるか?ワシは茶を入れてくるでの」
「はぁい、ゆっくりで良いですからね?」


私の言葉に長老はにっこりと笑ってから団子が入った箱を嬉しそうに抱える。よっぽど嬉しかったらしい。心なしかスキップを刻むような足取りで台所に向かった長老を見送ってから、私は居間へと足を進める。·····今まで感じたことがない霊圧、最近この流魂街に流れ着いたのかな?死んだ事実が受け入れられない、元の場所に戻して·····関連ではないなあ、静か過ぎるし。そんなことを思いながら私は居間へと続く襖の前に立ち、トントンと軽く小突いてから口を開く。


「長老に呼ばれた三番隊第三席御巫心音です。中に入っても宜しいですか?」
「ぁ、は、はい!!」
「失礼します」


許可も得たし、安心して襖を開く。部屋の中に居たのは赤地に白い水玉模様、下の方は青生地で·····あれは雪の結晶、だろうか。そんな綺麗な着物を着た、これまた可愛いらしい雰囲気のお嬢さんが座っていた。緊張しているのか不安なのかはたまた両方か。震える手をぎゅっと握り締めてからそっと顔を上げる。そんな彼女の瞳を見た瞬間、私は目を見開く。耳に蘇るのは楽しそうに笑いながら話すゆーちゃんの声。


「私の推しカプがね、すっごい尊いの!女の子は恋雪って言ってね、花の形の瞳と雪の髪飾りが特徴的なの!」

ーーそのまま、じゃないか。今私の目の前にいるのは、その特徴を持つ可憐な乙女だ。温厚で心優しく、でも逆プロポーズとかしちゃう大胆さを兼ね備えていて·····正攻法では勝てないからと、毒を使われて命を落とした悲劇の娘。そんな彼女が、今、私の目の前にいるーーー·····ひくり、と自分の喉が引き攣る。


「は、はじめまして!私、恋雪と申します。この度はお忙しいのに時間を作ってくれて有り難うございます·····!」
「·····ああ、いえ。改めて御巫心音と申します。·····ええと、私のことは長老からですかね?」
「は、はい!頼りになって親身になって下さる方を紹介して欲しいとお願いしましたら、御巫さんを紹介して頂きました。·····あの、」
「·····なんでしょう?」
「夢物語、と思って頂いても構いません。それでも、御巫さんにお願いしたいことがあるんです」
「話を聞きましょう」
「·····ありがとう、ございます·····」


よほど緊張していたのだろう、私の言葉に恋雪さんはホッとしたように微笑む。めちゃくちゃ可愛い〜〜·····これはゆーちゃんが推すの分かるわ、儚い系大好きだもんなあの子。まるで分かっていたかのように長老が入って来て、私の前と恋雪さんの前にお茶を置き、長老は恋雪さんの傍に座ってからポン、と彼女の背中を叩く。·····こういうとこ、好きなんだよなあ長老の。伊達に数十年生きてないわ、総隊長とほぼ同期だっけ?そんなことを考えていれば、恋雪さんはお茶を1口飲んで口を潤わせてからそっと口を開く。


「·····私の大切な人を、止めて頂けないでしょうか」
「ふむ、大切な人、とは」
「狛治さん··········ええと、私の旦那様です」
「·····止めて欲しいというのは、?」
「·····彼は、怒りで我を忘れて、記憶を奪われて、化け物になってしまいました。·····鬼、と呼ばれているそうです」
「·····聞いたことがない存在ですね」
「それは、そうかも知れません。·····私も、つい最近知りましたので」
「·····なるほど」
「狛治さんは、本来はとても優しい方なのです。あんな、·····罪のない人を襲ったりなんか、しない人なんです·····!」
「·····恋雪ちゃん、心音は大丈夫だ。焦らなくてもちゃんと話を聞いてくれる。自分の気持ちを素直に、正直に伝えなさい」


長老がなんか私のこと褒めてくれてるけど、私の視線は恋雪さんから離れない。その話、すっごく知ってる。なんでかって?大好きで大事な親友の推しカプだからだ。健気で可憐な乙女に想われたのは、上弦の参と呼ばれている強者だ。いやまあ、最初から上弦の参ではなかったけれど。優しいけれど不器用な少年だったらしい、でも恋雪さんと彼女の父親が毒で亡くなってしまってから復讐の鬼に取り憑かれてしまった、そんな哀れな男の話だ。·····元々長老の頼みだし、断わるつもりなんてなかったけれど、推しカプだからなあ、ゆーちゃんの。絶対失敗出来ないじゃん、するつもりもないけどさ。


「お金は、遅くはなりますがいくらでも払います。だから·····!!お願いします、狛治さんを助けてください·····!!」
「あ〜〜·····要らないよ、お金」
「·····へ??」
「でも、依頼はちゃんと受ける。そんなに頼まれたら断わるのも忍びないし」
「·····最初から断わるつもりなかったじゃろ」
「ま、長老からの頼みだし?あとはまあ」
「はい·····?」
「·····君の笑顔、見たくなったからさ」


本当に綺麗に笑うらしいもん、彼女。止め方なんて分からないけど、まあ根気強さや粘りは誰にも負けない自信しかないからねえ。なんだっけ、煉獄さん?を、助けれるかも知れないし。猗窩座を止められたら。だとしたらまあ、頑張るしかないよね。でもまあ·····


ーー鬼滅の刃とクロスオーバーって、まじですか?


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