準備をしましょう
楓の家に着き、やはり勝手に抜け出して来たらしいりんは楓に叱られて居たが、私の存在に気付き、楓は目を丸くする。りんは嘘を言ってはなかったよ、と告げれば更にびっくりしたような顔をしていた。扉が開き、振り向けばそこには犬夜叉とかごめの姿が。どうやらりんが居ないのに気付いた楓が犬夜叉達に捜索を頼んだらしい。かごめはりんの姿に安心したような表情を浮かべていて、犬夜叉は何故か私に向かって来る。どうした?撫でて欲しいのか?と聞いてみれば、血の匂いがすると言われ、髪を掻き上げられた。…見付かったか。りんにバレ泣きそうになられ、楓に叱られつつ、かごめに治療される。…大袈裟だなぁ…
「薺様の嘘つき…!怪我はしてないって言ったのに〜っ!!」
「薺様にこれほど深い傷を負わせるなど…!…私が懲らしめて…!」
「ちょ、楓ばあちゃん!?」
「…楓じゃ返り討ちになるだけだろ。薺が怪我をするくらい手練れなんだろ、やめとけやめとけ」
「犬夜叉、そもそもお前が気付かなかったら良かった話なんだが…?」
「けっ、そんなに血の匂いを纏わせてるお前が悪いんだろうが!隙見せ過ぎなんだよっ!!」
「ふむ、善処しよう。…そんなに匂いするか?」
「おー。…知らない匂いもするな、誰だ」
「ーーなあに、ちょっとした知り合いさ」
くすりと笑いながら言えば、犬夜叉はムスーっとしながらプイっと顔を逸らす。そんな犬夜叉に苦笑いを零してからそっと手を伸ばし、頭を撫でる。やめろーっと言う声を無視しながらモフる。…ああ、犬夜叉のこの毛並みもまたモフり甲斐があるというもの。そんな私にかごめはくすくす笑いながら、絆創膏を貼ってくれた。1日あれば塞がるぞ、と言ったが、ばい菌が入っちゃうでしょ!と叱られてしまった。解せない。
「ああ、忘れるとこだった。楓、私は暫く出掛ける、留守を頼む」
「は?…別に構いませんが…旅、ではなさそうじゃな?」
「うむ。…奈落の奴が干渉していた場所があってな、退治はしたが最猛勝がまだ居るかも知れん。小さい子も居るし封印しときたい。札を何種類か貰えるか」
「奈落が…!!分かりました、準備しましょう」
「楓様っ、手伝います!!」
「…確かに奈落の匂いも少しだけするな。瘴気でも浴びたのか?」
「充満していたからな、仕方がないだろう。本当はかごめに来て貰いたいんだがーー今はまだ避けた方が良さそうだ」
「…何かあったのね?薺ちゃんがそんな顔をするんだもの、分かるわ」
「そんなに変な顔をしているか?慕われているからな、笑えなきゃ困る」
「ーー悲しそうな顔してるわ。桔梗と一緒に鬼蜘蛛の世話を焼いてたからって薺ちゃんが気にする必要はないわ!」
「…鬼蜘蛛が奈落になる道を選んだのは鬼蜘蛛自身だ。責任を感じる必要はねぇよ!」
犬夜叉にバンッと背中を思いきり叩かれ、かごめにぎゅーっと抱き締められる。…吹っ切れた、つもりでいたんだがなぁ…どうやら私はまだ吹っ切れていなかったらしい。…あの時、桔梗を鬼蜘蛛から引き離していれば、鬼蜘蛛を治療しなければ、…奈落は存在しなかっただろうし、犬夜叉と桔梗も引き離されることもなく、かごめも平和な世界を過していたはずだ。…私が、鬼蜘蛛に気付かなければ、彼の存在を桔梗に知らせなければ。…審神者とやらも、長谷部も一期も傷付かずに済んだのに。ーー自分が、どうしようもないくらいに疎ましい。
「…私が、彼等を救ってやらねばならない。奈落の被害を受けて、身体共に傷を負っている。私が何とかしなければーー…」
「薺、そんなに抱え込むんじゃねぇよ。お前は悪くない!無理すんなよ、頼むから…!!」
「…薺ちゃんは優し過ぎるわ…それに、私は薺ちゃんに感謝してるのよ?貴女が居なければ私は犬夜叉に出会わなかったんだもの」
「…かごめ…」
「確かに家族に会えないのは寂しいし辛いわ。でも、私にとっては犬夜叉に会えない方がもっと耐え難いの!薺ちゃんが鬼蜘蛛を見捨てれば私は犬夜叉に逢えなかった。それは事実でしょう?」
「…そう、だな。犬夜叉と桔梗は結ばれていただろう」
「そんなこと…っ!!ない、とは言えねぇけど…!!」
「良いのよ、犬夜叉。…だからね、私は犬夜叉とこうして一緒に時を過ごせることが凄く嬉しいの。そりゃあ大変なこともあったわよ?でも、今が幸せだから全然苦じゃないわ!」
「ははっ……かごめは強いなぁ、助かるよ」
「ーー奈落が居なかったら私も殺生丸様と出会えなかった筈だもん、私も薺様に感謝してる!!有り難うっ、薺様!」
「りん……私こそ有り難うな」
「薺様は少々考え過ぎる。もう少し気楽に考えたらどうだ?」
「楓…ははっ、そうだな。楽観的に考えなければ疲れてしまうな」
「ったくよー…また倒れたらどうすんだよ?俺達側に居ないんだぞ。まあ、駆けつけるつもりでは居るけどよ、あんま無理すんじゃねーぞ!」
「ーー肝に命じておく」
ーー私は幸せ者だな。思わずくすりと笑みが零れる。笑顔で居なければ、五虎退達が心から笑えないな。奈落云々については…今は忘れよう。私に対する罪は忘れないが、今は五虎退達が心から笑えるようにすることだけを考えよう。…歌仙辺りになら話しても良いかもな、聞いてくれそうだ。犬夜叉も私の妖気に何かあればすぐに来そうだし、倒れないように気を付けよう。
楓とりんがお札と私が倒れた時の為の対処法が書かれているノートをまとめてくれた。傷薬なんかもあるが…主に使うのは私だろうな。お札を簡単に見ていれば見慣れないお札があり、手に取ってみる。
「楓、この札は何に使うんだ?」
「これは時空移動の札じゃ。まあ、薺様に何かあればすぐに反応するように細工は施してあるがーー基本的には移動の札じゃな。此方からでも移動先からでも移動が出来る」
「へえ……桔梗か」
「桔梗姉様は昔から薺様を心配していたからな…使ってくれ。薺様は既に時空移動が出来るから必要無いかも知れんが…我々がすぐに助けに行けるように、な」
「…ああ、使わせて貰う」
「これがあれば祠からじゃなくても行けるね!」
「そうだな…御神木でも使わせて貰おうか。加護が貰えそうだ」
「良いんじゃねーか?俺達もすぐに行けるし」
「薺ちゃん、あまり無理しないでね、無理したら引っ叩くから!!」
「分かった分かった。…だから、泣かないでくれかごめ。旅に出るようなものだろう?」
「…うっ…!だって、まだ奈落の痕跡があるんでしょう…!?奈落にとって薺ちゃんが弱点であるように、薺ちゃんにとっても奈落が弱点みたいなものなのに…!」
「…ちゃんと体が弱いことは伝えるよ。無理も可能な限りしない。信じてくれ、かごめ。綺麗な顔を見せてくれ。お前には笑顔が似合うよ」
頬をするりと撫でながら言えば、かごめにパンッと平手打ちされた。痛い……どうやら照れたみたいだな。ヒリヒリと痛む頬を抑えながら、私はかごめの頭を撫で、犬夜叉の毛並みをモフり、りんとハグをし、楓と握手を交わしてから、用意された荷物を持って私は御神木の方に向かう。どうやら見送ってくれるらしい。着いて来てる足音に嬉しく思いつつーー寂しくなる。ああ、私はこんなにも此処での生活が気に入っていたのか。今更思い知った。
暫く歩くと、御神木の前に辿り着いた。まるで私がしようとしていることを後押しするかのように優しい風が吹く。…考え過ぎだろうか。
「犬夜叉、私に何かあっても無闇に手出しはするなよ」
「けっ、何かがあっちゃ困るんだよ!!…薺に怪我させたら、いくら薺が大切にしたい奴でも俺は斬るぜ」
「…そうか、加減はしてくれよ。かごめ、犬夜叉をリードしてやってくれ」
「分かってるわ。私じゃなきゃ犬夜叉は止められないもの」
「頼りにしてる。楓、お前も若くはない。無理だけはしないでくれ」
「まだまだ現役じゃ、薺様こそ無理はなさるな」
「…気を付ける。りん、楓を頼むぞ。殺生丸には、そうだな。ありのままのことを話してくれて大丈夫だ。邪見には愚痴を聞いてやれなくてすまないと伝えてくれ」
「…うん…っ!!怪我、しないでね…たまには帰って来るんでしょう…?」
「無論だ。様子見に来るつもりだから、だらけてたらお仕置きだからな?」
「…えへへ、気を付けるね」
「ああ、気を付けろ。ーーそれじゃあ、行って来る」
私は御神木に札と結界を張り、御神木に飛び込む。かごめ達と行ってらっしゃい!と言う声に後押しされ、私は前を向く。私に何が出来るかなんて分からない。封印することしか出来ないかも知れない。でも、封印することで彼等に笑顔が戻るなら、心から笑えることか出来るなら、それはそれで素敵じゃないか。数々の札が入った風呂敷をぎゅっと握り締め、キラキラと輝く道を進んで行く。ーー五虎退、今無性にお前に会いたい。遅くなってごめんな。許してくれ。
そんなことを考えていれば、淀みながらも眩い光を放っている空間を見付ける。多分彼処が本丸だろう。さあ、今から行くよ、なんて言いながら、私はその空間へと飛び込んだーー。
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