愛しいということ
ガンガンと頭が痛い。そう言えば宴会だったな…呑み過ぎてしまったか。そこまで考えるのに、少し時間が掛かってしまった。三日月ほど歳を食ってるつもりはないが、歳を取るのもなかなか嫌なものだな…そんなことを考えながら、明かりを付けようと手を伸ばそうとしてーー俺ははて、と手を止めることになる。可笑しい、此処は俺の部屋の筈。同室は鶴丸の筈だろう…?
(…この、甘い匂いと柔らかいのはなんだ?)
枕か?洗濯当番はーー堀川、だったか。切国の布を奪おうと色んな手を使っていたことを思い出す。あれはなかなか愉快だった。切国にとっては怖かっただろうがな。堀川には勝てないんだから、これで学べば良いんだが…切国は自分に自信がないみたいだからなぁ、せっかく別嬪なのに勿体無いことだ。別嬪と言えば、主もかなりの別嬪だったな。あれは下衆い言い方をすれば、上玉と言った所だろう。そんなことを考えながら目を開ければ、白が視界に飛び込んで来る。なんだなんだ、俺は酔い潰れて鶴丸にでも抱き付いて居るのか?柔らかいしな。起きたら謝らなければな…と思いながら視線を上げ……俺は絶句する。
「ある、じ…!?」
スースーと寝息を立てているのは主で、俺は主に抱き付いて潰れていたようだ。何て失礼なことをしたんだ、俺は…!!どうすれば良い、どうすれば許して貰える、この人以外が主になるなんて今は考えられない…敵以外を斬るのは、もう嫌だと言うのに…!!取り敢えず主を抱き締めている腕を離し、何があったのかを考える。思い出せ、頼むから…!主がやっぱり審神者にならないと言い出したら大変だろう?!テンパる頭はちゃんと回転してくれない。どうしようどうしようと考えていれば、不意に手を握られる。暖を取ろうとしたのか…?
「…うぐ…だいじょーぶ、だいじょーぶ」
「…主?」
「わたしが、あなたをーーまもる、よ」
「!…随分と頼もしい主だな」
「…うぐ…あい、してるよ」
「っ!?」
「……さむい……」
「わ、分かった分かった!引っ張らないでくれ!」
静かにそう言った後、俺は主に引き寄せられ、再び目覚めた場所に戻る。む、胸が…!!バクバクと心臓が高鳴っているのが自分でも分かるくらいだ。暑い、ひたすら暑い。俺はどうしたら良い。このまま寝ていて良いのか?いや、良い訳がない…!無論、手を出すなんて邪なことは考えてはいないが、生理的現象は仕方ないだろう…?何で人間になってしまったんだ…分からないことだらけだ。そんなことを考えていれば、不意に頭を撫でられる。え、と思って目線を上げれば、薄目を開けた主と目が合い、俺は目を見開くことになる。
「あ、主!?起きたのか…?すまない、色々迷惑を掛けた。謝罪したい。どうか、審神者を辞めるなんて言わないでくれ…!」
「…んふふー」
「…え?」
「…鶯丸はころころ表情が、かわっておもしろいなぁ?」
「…寝惚けてるのか。良かった…」
「…鶯丸の目はきれいな黄緑色だなぁ、宝石、みたいだ。たかそう…」
「主…売ろうとしないでくれ。褒めていて落とすんだな、君は」
「…だいじだいじ…」
「そうだな、目は大切だ。…主の目も、宝石みたいだ。ルビー、みたいだな」
「…鶯丸の方が、きれーだよ。すき」
「っ…!?」
「うぐ、だいすき。あまり、かかえこむなよ、ばか」
「っ〜〜!褒めるか罵るかのどちらかにしてくれ…」
心底心臓に悪い。主は言うだけ言った後、再びスヤスヤと寝息を立てている。…小悪魔だな、本当に。…正直、主の声で名を呼ばれるのは心地良い。鈴のような、優しい声色。心が、穏やかになる。無償の愛を、与えてくれる。主が紡ぐ、好きも大好きも愛してるも…全てが俺を満たしてくれる。ーー嗚呼、何て心地良いことなんだ。左文字は、この人からいつも大好きと、愛を囁かれるのか。
(ーーずるい)
江雪も宗三も、前の主からあんなにも愛されていたじゃないか。これ以上愛されたいと望むのか?顕現され、尽くそうと思っていた主に身長が小さいからと罵倒され、要らないと言われた俺には愛を与えてはくれないのか?三日月も切国も、望んでないのは分かってはいるがーー羨ましかった。あの立場が、本当に喉から手が出るほどに欲しいと思っていた。…妬ましかった、本当に。そんな仲間に邪な感情を抱いていた俺を…この人は愛してると、言ってくれた。
「…俺も、貴女を愛してる」
主、貴女を信じても良いか?今はまだ、左文字より下で良い。でも、いつかは…貴女の一番に、なってみたいものだな。そっと手を伸ばし、頬を撫でる。…柔らかい。主、貴女を慕い続けると誓わせて欲しい。守らせてくれ、俺に。俺を守ると言ってくれた貴女を、守らせてくれ。…ああ、これが愛しいということか。何とも言えない…幸せな気持ちだ。
今はただ、温もりに甘えさせて貰おう。近侍は確か…長谷部だったか。長谷部の怒号が目覚めというのもなかなか良いかも知れないな。
(今夜は、良い夢が見れそうだ)
久しいな、悪夢を見なくて良いと言うのは。俺はくつりと笑みを零し、自分の腕を主の背中に回す。ぎゅ。と力を入れれば、主の体温を感じる。…心地良い。安眠効果がありそうだな、と思いながらもまずは謝罪をしなければいけないな、と思いながら目を閉じる。顕現されてから約半年……幸せだと、初めて感じた夜だった。
(初めて芽生えた独占欲)
(俺に、存在理由をくれた人)
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