朝から一悶着

何だか騒がしい。まだ眠気と戦っている中、抱いたのはその感情だった。まだ少し眠いんだがなぁ…再び意識を手放したくても、小声でやってる口論はますます激しくなる。…口調からして、長谷部と鶯丸かな。ああ、鶯丸は起きたのか。頭痛くなければ良いんだが。長谷部が来たのは近侍だからだろうな、なんて考えながら意識を覚醒させる。ぱち、と目を開けた時、目に飛び込んで来たのは赤。…妙に生暖かいと思っていたが、体温か。悪いことしたなぁ、と思いながら私は口を開く。



「ーーおはよう、朝から元気だな」
「!?あ、主!おはようございます!!」
「おはよう、主。昨晩は迷惑を掛けたみたいですまなかったな」
「ああ、おはよう長谷部。気にするな鶯丸。良く眠れたか?」
「ああ、お陰様で。…夢見が良かったのは久しいな」
「…そうか。またいつか昼寝でもしようか。此処は日当たりが良いし、気持ち良さそうだ」
「主のお誘いなら断わる訳にはいかないな、取って置きの昼寝スポットを紹介しよう。夜を共に過ごすのは昨晩限りか?」
「何だ、私と寝たいのか?まあ、たまになら構わないよ」
「感謝する、主」

「鶯丸は調子に乗るな!!主、そんなジジイの戯れを聞く必要はありませんよ!!昼寝は許可しても、夜は許可しませんからね!」


ベリッと引き剥がされる。さっきまでの温もりがないのは少々寂しいが、仕方がないな。うん、しょうがないんだ。そう無理矢理自分を納得させ、うーんと伸びをする。身体の調子は悪くない。が、相変わらず鼻は集中しなければいけないな。耳も少し聞こえにくくなっているようだ。この流れだと、跳躍力にも支障が出ていそうだ。…朔の日め、忌々しいにも程がある。小さく溜息を付き、涼しい顔の鶯丸に食って掛かる長谷部の間に割って入り、喧嘩は終わりだ、と声を掛けた。私の言葉に、鶯丸は知らん顔をし、長谷部は困ったような表情を浮かべる。…仕方がない奴だな。


「長谷部、何がそこまで気に入らないんだ?私は気にしないと言ってるだろう」
「主はもう少し気にして下さい!!貴女は女性なんですよ!?男女が共に夜を過ごすなど…!!」
「俺は手を出さないぞ?流石に同意がないとなぁ」
「黙れ鶯丸!!欲情しないと心の底から誓えるのか!?絶対に手を出さないと誓えるか?!」
「…絶対、とは言い切れないが、主を泣かせたくはないからなぁ。多分大丈夫だ」
「その多分が信用出来ないんだ!!良いですか、主。男は皆狼なんです、油断したら食べられてしまいますよ。自衛して下さい」
「長谷部、確かに私は女だし体も強くはないし、純粋な力勝負では勝てないだろう。だが、私は妖怪だぞ?取って喰おうとするならば、返り討ちにしてやるさ。なあに、伊達に今まで生きていないさ」
「…貴女のその自信は一体何処から出て来るんですか?」
「勘と…今までの経験かな。私だって色々と壮絶な道を歩いて来たんだぞ?アルビノは狙われやすい。親しく接してた人が本当は私を狙ってたなんて良くある話さ」
「…っ、そ、そんなことが…」
「…いつかは話してくれるんだろう?」
「楽しい話じゃないぞ?聞きたいなら話しても構わないが」
「主の話が聞きたいんだ。俺ばかり聞いて貰っていては不公平だろう。家族なんだからな」

「…そうか、じゃあ機会があればな」


物好きだなぁ、なんて思いながら了承すれば、鶯丸は心底嬉しそうに笑いながら、いつ話してくれるんだ?時間ならいつでも作ろう、と言って来るので、またいつかな。と笑いながら濁せば、明らかに不満そうな顔をするが、無理強いはしないらしい。助かるな。俺も話を聞きたい、ですと控え目に言って来た長谷部には、夜、誰かと寝ても良いか?私も今まで1人だったから寂しいんだと答えれば、たまになら構いませんよ、と渋々ながらも許可が下りた。何だ、やっぱり話せば分かるんじゃないか。今夜は長谷部にお願いしようかな、と言えば貴女は危機感を持って下さい!!と叱られた。解せぬ。
そんなやり取りをしながら食堂に向かえば、既にほとんどが揃っていた。皆におはようと言いながら左文字の方に座る。真っ先に膝の上に乗って来た小夜の頭を撫でながら私は口を開く。


「おはよう、小夜。よく眠れたか?」
「おはよう、姉様。僕はちゃんと寝れたけど姉様は大丈夫…?鶯丸さん、ずっと離れなかったんでしょう?」
「ん?大丈夫大丈夫。いやあ、誰かと一緒に寝るのは落ち着くな。ほとんど初めてに近いからなぁ」
「…貴女は初めてが多いですね。今夜は私達と一緒に寝ましょうか。鶯丸に先を越されたのが納得いきませんので…」
「…江雪兄、初っ端から喧嘩を売らないでくれよ。まあ、一緒に寝るのは大歓迎だけどな。布団とかもう1組あるのか?」
「?何を言ってるんですか、主。誰かと一緒の布団に入れば良いじゃないですか。僕とか小夜とか兄上とか」
「…成程なぁ、やっぱりそうか。じゃあ小夜と寝ようかな」
「!!…姉様がどうしてもって言うなら寝ても良いよ」

「っ…!!ああ、お願いするよ、小夜」


私の言葉に、甘えん坊な姉様を持つと困るよ、なんて言う小夜だが、頬は緩んでるし、桜が舞っている時点で説得力に欠ける。ああ、何て可愛いんだろうか。ちらりと江雪と宗三を見てみれば、彼等もまた小夜の可愛いさに悶えていた。うんうん、これは悶えない方がおかしいよな。視界の隅で歌仙も流れ弾を貰ったらしく悶えていた。慌てて和泉守や堀川が世話していたが、歌仙のそれは小夜の可愛いさにやられただけだからなぁ、水とかは要らないと思うぞ。話を聞いたのか今剣や五虎退にも一緒に寝ようと誘われたので、朔の日が終わったら是非と言えば、二振りとも心底嬉しそうに笑う。ああ、可愛いなぁ、癒される。


「姉様、その朔の日はどうするの?僕は霊とかそう言うのに強くないけど…宗三兄様と江雪兄様なら強いよ」
「へえ?宗兄と江雪兄はそんなに強いのか?」
「まあ、僕は青江よりかは劣りますけど…除霊なら任せて下さいね」
「…貴女に危害は加えませんから安心して下さい」
「ふふ、朔の日対策はバッチリだから安心してくれ。…まあ、一番居て欲しい一振りは居ないんだけどね」
「私と江雪さんと太郎さんと宗三くんと青江の五振りで警備しようかと思っているんだけど、やはり不安かい?」
「いや、寧ろ心強い。…誰かと一緒に寝ても良いか?」
「勿論構わないよ、誰かご指名はあるかな?」
「…小夜」
「…本当に甘えん坊さんだね、仕方ないから一緒に寝てあげるよ」
「…主は左文字を離したくないんですね」

「しー。…それは秘密な?」


唇に指を当て、しーと言えば、太郎はくすりと微笑みながら頷いた。兄弟なんだ、やっぱり一緒が良いだろう。引き離すのは可哀想だ。私の真意が分かったのか、江雪と宗三の二振りからおかずを分けて貰った。…別におかず目当てだった訳じゃないんだけどなぁ…まあ、有り難く貰っておこう。今回の厨当番は粟田口だったらしい。美味しいですか?と聞いて来た五虎退の頭を撫でながら美味しいよと言えば、五虎退は嬉しそうに笑う。うん、可愛い。


「そういや、大将は卵焼きって何が好きだ?甘いのとかしょっぱいのとか」
「私は好き嫌いが特にはないからなぁ…薬研達が作るのなら何でも好きだよ」
「っ、大将には敵わねぇな。今度はだし巻き作るから楽しみにしててくれ」
「お、それは楽しみだ。そう言えば、魚はどうやって調達してるんだ?」
「ちょっと距離があるんだけど川があるんだよー、そこで釣りをしたり、お魚屋さんで買ったりしてるよ!」
「へえ、魚を捕まえるのは得意だからいつか連れてってくれ」
「勿論だよ!あるじさんと一緒に出掛けられるなんて嬉しいし!」
「お暇な時があれば街に行くのはどうでしょう。色んな出店がありますよ」
「街に行く時があれば言って下さい、お伴します」
「有り難う、頼りにしてるよ。ん、厚。私に何か付いてるか?」
「あ、いや……やっぱり大将は少し痩せ過ぎてる気がして…肉料理増やさないとなぁって思ってたんだ」
「…そんなに痩せてるか?まあ、ロクな食生活をしてないのは確かだが…」
「…姉様、昨日より細い気がする。お菓子いっぱい食べたりした方が良いんじゃない…?」

「1日で変わる訳ないだろ。…んー、甘い物も普通に食べてはいるんだがなぁ」


あまり太らない体質らしい。そう言えば、乱や姐さん、清光が羨ましいと呟く。…かごめや珊瑚にも言われたなぁ、それ。まあ、逃げ回る為にはお腹いっぱいになる訳にはいかないからな…そのせいもあるかも知れないな。そう呟けば、江雪が失礼しますよ、と言ってから私を後ろから抱き締める。小夜がやっぱり痩せてるよね?と聞けば、痩せてますね…確実に昨日より細いです。と呟き、ご飯を大盛りにされた。…マジか…抗議的な目線を送れば、江雪は困ったように笑いながら私の頭を撫でる。


「主、そんな顔をしないで下さい…私達は貴女が心配なんです…」
「それは分かるけど…いきなり大盛りにする必要あるか?」
「此処は侵入者は滅多に来ません。バグが起きたりしなければ平気です。…もし、貴女を狙う愚か者が来たら、消してあげます。だから、お腹いっぱい食べて良いんですよ」
「…はは、戦いは嫌いじゃないのか?」
「貴女を失なう方が嫌ですから…」
「…ん、了解した。お腹いっぱいに食べられるのは嬉しいな。ああ、安心してくれ。仕事に支障は出ないくらいに制御はするからな」
「…いえ。きっと仕事もそんなにないと思いますし、あっても俺が何とかしますよ。主はまず、自分の身体を標準にして下さい」
「あ、食べた後お昼寝しましょう。そうしたら少しは肉が付きますよ。子守唄でも歌いましょうか?」
「…あー、昼餉を食べたらお願いしようかな。宗兄の子守唄、楽しみにしてる」
「献立も考え直す必要があるね。パソコンを使って色々調べようかな。歌仙くん、手伝ってくれるかい?」
「勿論だよ、燭台切。主も何か食べたいものがあれば言ってくれ。パソコンの操作は長谷部に聞いたら良いよ。主からのリクエスト、楽しみに待ってるからね」

「有り難う、歌仙。何かあれば宜しくな」


長谷部も宜しくなと言えば、長谷部は主命とあらば喜んで、と嬉しそうに笑う。そんな長谷部が気に入らなかったらしい宗三が嫌味を言うのを制止しつつ、大盛りのご飯を食べる。…ご飯が甘いなんて初めてだな。やっぱりこの本丸は素晴らしい場所だ、と改めて思い知らされる。…失いたくないよなぁ、やっぱり。自慢の主だと言って貰えるようにーー頑張ろうか。まずは自分の身体からだな…体重計とかあるかな、私はそう思いながら次々に差し出される食事に手を伸ばしていたーー…
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