真名を明かす
夕餉の時間、今日の夕餉当番は引き続き伊達組だったらしい。昼餉から朝餉まで連続でした方が覚えるんじゃないか、という光忠の意見だそうだ。取り入れるには取り入れるが負担ではないか?ん?その日と翌日の朝まで非番なら構わない?そうか、なら、それも取り入れてみるか。歌仙、と名前を呼ぶ前に歌仙は既にメモしていた。この近侍有能過ぎではないか…?因みに明日の昼餉担当は堀川率いる誰かと洗濯担当は歌仙率いる誰かになっている。詳しくは明日決めるつもりだ。うん?指名はありかって?あー…連続しないように気を付けて、私か長谷部、その日の近侍に申請してくれれば検討するよ。ああ、そうだ。
「明日の近侍、石切丸頼んだぞ」
「ああ、朔の日だからね。任せておいてくれ」
「明日の私は多分、普通の人の子より脆くなると思う。石切丸と長谷部には目を光らせて貰うことになるかも知れん、構わないか?」
「勿論だよ。君に怪我なんてさせない」
「拝命させて頂きます。ご安心を、虫1匹すら見逃しませんから」
「ん。小夜と宗兄と江雪兄と青江と太郎も私の目の見える範囲に居てくれ」
「勿論だよ、姉様」
「ふふ、貴女に手を出すのがどれほど愚かなのかを身をもって教えてあげなければいけませんねえ」
「主に手を出す輩に和睦の道はありません…」
「任せておくれよ。幽霊だって斬っちゃうからね」
「お任せ下さい…主は石切丸と長谷部から離れてはいけませんよ」
「分かってる。明日の出陣はどうする?仲間を見付けることを最優先にするか?」
「そうだね…明日は天気が良くないようだし、出陣と畑当番はなしにして、馬当番と炊事当番、洗濯は部屋干し専用の部屋に干す形にしたらどうかな」
「何だ、天気悪いのか。石切丸に任せるよ」
「有り難う、じゃあそうしようか」
「すまんな、同田貫。戦は1日待ってくれ」
「あ?別に構わねぇよ。鍛錬はしても良いんだろ?獅子王、久し振りに手合わせしようぜ」
「ん?別に良いけど、仲間を見付けてからだな!」
「よし、なら明日の手合わせは同田貫と獅子王だな。他もやりたければ進言してくれ」
歌仙、とちらっと視線を向ければ、鍛錬と書かれた場所に同田貫と獅子王の名前が書かれた。仕事が早いな…実は今日も宴だったりする。私の初陣祝いだそうだ。誉を取った愛染にはご馳走が用意されている。歌仙に夕餉当番に愛染用に何か別の物も一品拵えてくれと伝えるようにお願いしたからな。キラキラ目を輝かせながら、お好み焼き、とやらを頬張る愛染は可愛いらしい。現世に行った時に気に入っていたそうだ。現世か、私も行ってみたいものだな。
「あ、主さん!!俺、願い事決まった!」
「そうか、何を望む?」
「一緒に昼寝したいんだけど…ダメかな」
「…私は構わないが、そんなので良いのか?欲がないな」
「あー…うん、あの、さ。虎の姿の主さんを抱き枕とかすんのは流石に悪いよな、って思ってさ…」
「…それは流石に…主は女性だからね…「別に構わないよ」え、主!?」
「誉の褒美なんだ、それくらい望んでも構わないさ。潰さないでくれよ?」
「お、おう!!絶対に潰さない!」
「えーー、絶対にダメだと思ってたのに。ね、ね、俺も誉取ったら同じことお願いしても良い?」
「勿論だよ、蛍丸。私に出来る範囲なら何でもしよう」
「…主はんは甘い方やなあ、まあ、…頑張りまひょ」
「え、国明がやる気出してるの珍しー」
「明日槍でも降るんじゃね?」
「え」
「高速槍は勘弁してくれよ、明石。…それで、主よ。いつになったら明かしてくれるんだ?」
「…これはまた、意外な奴からの台詞だな。長曽袮も興味があったのか?」
「そんなに意外か?まあ、この本丸には居ないだろうさ。主の真名を知りたくない輩なんてな」
「しんめい…?はあ!?ちょ、貴女は何を考えてるんです!?小夜、貴方からも何か言って下さい!」
「無理だよ、宗三兄様。姉様は既に決めてるみたいだから…」
「あるじさま、しんめいをあかすのですか?せっかくゆうえつかんにひたれたのにざんねんです」
「主よ、真名を明かすということは我らと最後まで居ると誓うと約束するのか?」
「すまないな、今剣。ああ、…私は君達を他の審神者なんぞに渡したくないからな。もし、この歴史修正主義者との戦いよりも私の命に終わりが来たらーー連れて行くつもりだ。例え地獄だとしてもな」
「…主君のお側に居られるなら、地獄ではないですね!天国です!」
「…ずっと側に置いといてくれんのか?居なくなったりしないか?」
「しない、絶対に。寧ろ側に居て欲しいよ。君達の側は心地良いからな」
「それはこっちのセリフだって!!いやあ、やっぱり主さんは最高だな!」
「名は?主、君の名前は何だ?」
「お前はブレないな、鶯丸…知りたくない奴は耳を塞げよ。薺、だ」
「…薺、良い名だな。君に相応しい名だ。響きが良い」
「響き…?相応しい名かは分からんが、私も気に入ってるよ」
両親も、産まれも、何も知らないし分からない。でも、1つだけ分かるのがあった。薺という、私の名前。名を呼ばれることの素晴らしさを、私は知っている。だからこそ、私が彼等の名前を呼ぶように、彼等からも呼ばれたいと願ってしまった。薺、薺、と嬉しそうに私の名を紡ぐ鶯丸に、何やら擽ったいような感覚を覚える。そんなに嬉しいか?と問い掛ければ、鶯丸はふわりと笑みを浮かべる。
「嬉しくない筈がない。ずっと名前を知りたいと思っていた。今剣や岩融、左文字はヒントすらくれなかったから五虎退に聞こうとしたら一期一振に攻撃されるしで散々だったがーーそうか、薺というのか。可愛い名前だな」
「はは、少し褒め過ぎじゃないか?」
「そんなことはないさ、大包平にも伝えたいくらいだ。…うん。明日の内番、何かやらせてくれ」
「は?!き、君がそんなこと言う日が来るなんてな…驚きだぜ…」
「サボってはいけませんよ、鶯丸殿」
「薺の役に立ちたいからな、休憩は挟むがサボりはしない。構わないだろう?」
「私は構わないよ、鶯丸。誰と一緒が良いとかあるか?」
「そうだな、平野。一緒にやらないか?」
「!う、鶯丸様からのお誘い、喜んで拝命します!」
「鶯丸と平野だな。うーん、長谷部と歌仙はこの二振りなら何を任せたいと思う?」
「…正直、平野は真面目ですが鶯丸はサボるかも知れませんので、二振りに任せるのではなく炊事か洗濯に回した方が良いのではないでしょうか」
「そうだね、心配だから僕が監視するよ。後はーー前田、良かったら共にどうかな?」
「洗濯当番ですね、お任せ下さい。必ずや主君のお役に立ちます!」
「期待してるぞ、前田。鶯丸、歌仙達に迷惑掛けるなよ?」
「ああ、勿論だ。薺は口先だけの男は嫌いだろう?君に嫌われるのだけは避けたいからな」
涼しい顔でそう言いながら、酒ではなくお茶を飲む鶯丸に対し、隣に座っている鶴丸はぽかんと呆気に取られている。…明石といい、鶯丸といいーーこういう性格ではないのだろうな。いや、前向きに捉えていけば全然構わないし寧ろ嬉しいのだが。長谷部や歌仙も唖然としており、これは夢かなんて呟いてる。いやいや、現実だからな?
(個体差、というものかな、多分)
まあ、十人十色と言う言葉があるらしいし、皆違って皆良いとも言うし、悪いことではないんだろう。うん、そう思うことにしよう。
うちの子可愛い精神だ、うん。
本丸内では名前で呼んでくれ、誰か客人が来てたり外出してる時は主呼びしてくれた方が助かる。そう言えば、周りは力強く頷いてくれた、自分達以外に神隠しされるのは認めないそうだ。うん、まあ、喜ぶべきなんだろうな。というか、神隠し前提なのか。嫌ではないけどな。
(彼等と共に居れるのなら朽ちるのも苦ではないかもな)
一振りも本霊に戻りたいのが居ないとは思わなかったが。まあ、愛されるのは嬉しいから別に構わないがな。下心がない愛というのは嬉しいものだ。好意しかない愛を与えられるのであれば、私も同じようにしなくてはな。
周りを見渡せば、笑顔が溢れている皆の顔が見え、ーーこの平和をずっと維持出来るように頑張れねばならないな。と改めて思った。
明日の仲間探しーー問題ないと良いんだがな。そんな不安をかき消すように、私は注がれた酒を呷るように飲み干した。
(不安しかないが、何とかなると思いたい)
(今は支えてくれる家族が居るのだからな)
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