焦らなくても良いよ
長義を初期刀として迎え入れてから数日が経った。私の判断を刀剣男士達は政府への怒りを露わにしながらも受け入れ、突っかかることなく自然に接していたのを有り難く思いつつ、頭を悩ませていた初期刀問題を解決出来たことを嬉しく思う。鍛刀していたらこうはいかなかっただろうな。秋紀も暫くは政府に行かないように、と告げてからは生き生きと獅子王達に世話を焼いたり焼かれたりしているのを見ると、やはり秋紀も政府に対してあまり良い印象を受けていないのだと理解する。…上手くいかないものだな。
八代に密告したが、該当する役人を探すのになかなか手こずっているらしい。探す能力が低いのか隠れるのが上手いのかは分からんが…早く落ち着いて欲しいものだな。
「…ええと、こういうことであってるかい?」
「どれどれ……うん、良い感じじゃないか。呑み込みが早いね」
「伊達に監査官を任されていないからね」
「成程。…これは俺もうかうかしてられないな」
「達、だろう?…しかし、本当に呑み込みが早いな。ちゃんと寝ているか?」
「隈とかはなさそうだけど…何時くらいに寝てるの?」
「…ええと、日付が変わる前には寝るように心掛けているよ。前に主に叱られたからね」
「あれは貴様が悪い。寝ると言った筈の長義の部屋から灯りが漏れていたからな…」
「暗い隅の方で黙々と本を読み漁っていた長義はなかなかにホラーだったな」
その時のことを思い出してくすりと笑みを零せば、長義は申し訳なさそうな表情を浮かべながら頬を掻く。本日の近侍は虎徹だ。初期刀候補である蜂須賀が色々と長義に教え、長曽祢が私の仕事を見つつ蜂須賀と長義のことを見て、浦島は長谷部と共に私に付きっきりだったりする。…蜂須賀と長曽祢も言っていたが、長義の呑み込みはかなり早いと思う。これだけの能力を持っているのに生かせないのは…やはり、上が悪いんだろうなあ…指導とやらはヘタクソだが、隠すことは何よりも上手いという相手ではないことを願いたい。…可能性はかなり高いがな。
「主、どうした?」
「…ん、…いやあ、まだ長義に手酷いことをした連中が見付かっていなくてな、尻尾すら掴めんらしい。…長義も会ったことがないんだったな?」
「うん、気付いたら見知らぬ部屋の中に居たからね。その後はパソコンでのやり取りだったよ。最初はパソコンの使い方が良く分からなくて叱られたなあ…」
「分からないのは当然だろう!?教わっていないのに分かる訳ないじゃないか!!」
「落ち着け、蜂須賀。…しかし、本当に胸糞悪い話ですね。…奈落が関わっていたりしないでしょうか」
「…それは多分ないと思いたいが…どうだろうな、可能性の1つとして考えても良いとは思うが」
「げえ、また彼奴が関わってるかも知れないの!?嫌だなあ、彼奴嫌い…」
「…俺も同じ意見だよ、浦島。…仮にそうだとしたら、見付けるのはなかなか難しいんじゃないかい?」
「…私が政府に赴けば痕跡くらいは見付かるかも知れんが……どうも嫌な予感が拭いきれなくてな」
「…嫌な予感、ですか?」
「ああ。…誘い込まれているような、そんな気がするんだ」
いずれは政府に行くつもりではあったが、それは今ではないと私は思っている。私の勘は嫌な予感ほど当たるものだし、今は政府に近寄らない方が良いだろう。長谷部の名前を呼び、パソコンに届いている八代からのメールのとある一文をトントンと指で叩く。行儀が悪いのは今は見逃してくれ。長谷部は不思議そうにメールを読みーー…私の指している文面を読んだ瞬間、は!?と声を上げた。…やはりそうなるよなあ…
「主、何ですかこの文章は!!」
「八代の名を騙った第三者だと私は見ているよ」
「そうだとしても腹が立ちます…目の前に居れば俺が斬ります…主に指一本触れさせません!」
「どーどー。…やはりお前の目から見ても異常か。最近の流行りの可能性も捨て切れ……ああ、すまんすまん。冗談だからそんな顔しないでくれ」
「こんなのが流行るなんておかしいでしょう!蜂須賀、長曽祢、真面目なお前達なら俺の気持ちが分かる筈だ。読め」
「ええと…読みたいのは山々だけど、政府からのメールを見ても良いのかい?」
「…何か罰とかが与えられたりしないか?」
「その辺の説明はされていないから知らなかった、で通せるだろう。遠慮なく読んでくれ」
こういうときは引き継ぎで良かったと心から思う。人の子の流行りとかに疎いのも戸惑っているのだと理解して貰えるからな。私はそっと席を立ち、興味深そうにしていた浦島と長義をパソコンから遠避ける。無垢な2振りにあのメールは頂けない。私の反応で悟ったのか、眉間に皺を寄せる長義の頭をポンポンと撫でる。引き離せて良かった…秋紀にも警告しておかねばな。
「何だいこのメールは!!!俺達の主を愚弄しているのかい!?」
「落ち着け、蜂須賀。…いや、気持ちが分からない訳ではないんだが……殺気を抑えなければ他の連中が来てしまうからな」
「ぐ……そういう贋作も、拳を強く握るのをやめた方が良い。血が出ている」
「おっと。…久しいな、こんなにも怒りを抱くのは。薺、浦島と長義を離れさせていてくれて有り難うな」
「礼には及ばんさ。私が浦島と長義に見せたくなかっただけだ」
「…今すぐ圧し斬りたいところです。こんなに頭の悪い文章を書く奴を守る為に俺達が戦っている訳ではないと言うのに…!」
「…うん、大体の反応で予想はしてたんだが…政府がすまないね。全員が全員という訳ではないみたいなんだが…」
「長義はうちの子だろう、政府のことなど気にする必要は皆無だ」
「良く分かんないの俺だけー?まあ、見せたくないみたいだから気にしないけどさっ!蜂須賀兄ちゃんと長曽祢兄ちゃんだけじゃなくて、薺さんもなんだもん。長谷部さんも似たような反応だしさー、過保護過ぎるよ!」
「う、す、すまない浦島…!」
「すまんな、浦島。…だが、俺達は可能であればこれを脇差や短刀達に知って欲しくないんだ、分かってくれ」
「ぶー…因みに長谷部さん、それはどんな傾向?」
「…強いて言うならR指定、だな」
「うえ!?せくはらじゃん!!薺さん、絶対政府に行っちゃダメだよ!!」
「分かった分かった、暫くは行かないから安心してくれ」
盛大に顔を引き攣らせながら抱き付いて来た浦島の頭を撫でながらそう告げれば、不満そうではあるが理解してくれたらしい。にへにへ、とゆるっゆるな笑顔を浮かべる浦島の何とも愛らしいことか。浦島モンペとして名高い蜂須賀もにこにこだし、そんな浦島と蜂須賀が大好きな長曽祢もこれまたにっこり。やはり笑顔は良いな、と思いつつもメールの存在を忘れることは出来んな。…しかし、私には奈落が関与しているとは思えん…寧ろ、長義を軟禁していた輩ではないかと思うのだがな…
「…主、眉間に皺が寄っていますよ」
「ん。…ああ、すまないな長谷部。長義、嫌なことを聞くだろうが…お前をその、軟禁していた輩から八代と言う名を聞いたことがあるか?」
「気にしないでくれて構わないのに……ああ、聞いたことがあるよ。善人ぶってるイカれた奴、とか言ってたかな」
「…それで確信が持てたな。メールを出して来たのは長義を軟禁してた輩だろう。私と長義を捕らえ何らかの罪をでっち上げて八代を引き摺り下ろすのが目的だろうな」
「えっ」
「…胸糞が悪いですね。それに主の端末や連絡先がバレているのが気に掛かりますが……八代側に裏切り者が居るのでしょうか」
「恐らくそうであろうな。まあ、連絡先がバレたとは言え、本丸に来ることは出来ないだろうな。私の世界の結界を三重にしているのだし、私が招かない限りは見付けることすら出来んだろうさ」
「ふふ、主の結界は石切丸さんでさえ引かせてしまうからね。あんなに顔が引き攣った石切丸さんを俺は初めて見たよ」
「最初は少し大袈裟ではないかと思ったりもしたが…これが正解だったな」
「政府って悪い奴等ばかり過ぎなーい!?一生懸命戦ってるのに酷いよね!」
「落ち着け、浦島。気持ちは大いに分かるが……主、何とかならないでしょうか」
「…んん、すぐには難しいだろうな。長義、政府は人が入れ替わったりはしないのか?役職的な意味で、な」
「たまにやっているとは聞いたことがあるけど…大体同じような顔ぶれらしいってことくらいしか分からないかな。あとは…裏で何か取り引きが行われている、とか」
「…賄賂ってことかい?何処までクズなんだ…!!」
「…落ち着け蜂須賀。…一度洗い直しをした方が良さそうだな…」
だが、政府に赴くのは危険だ。私や長義は勿論、私の担当である秋紀、量産型らしいこんのすけももしかしたら特定されてしまうかも知れん。しかし、圧倒的に情報が足りない。潜入して調査が必要になるだろうが、何の策もなしに私が赴くのは勿論、刀剣男士や秋紀、こんのすけに行かせるのもあまり良くはないだろう。恐らくなかなかに腕の立つ呪術師もしくは魔術師のようなものが居る筈だからな。八代が探しても見付からない筈だ、情報を流している鼠が潜り込んでいるのだからな……だとしたら、あまり此方の情報を渡すのは良くないな。
「…此方側から調査する存在が出せれば一番手っ取り早いのだが……私は刀剣男士達をそんな風に使いたくはない。だとしても、私や秋紀がそれをやるのも論外だからな…」
「…俺のせいでごめん、面倒ごとに巻き込んでしまったね」
「長義のせいではないだろう、案ずるな。遅かれ早かれこうなっていただろうさ。…八代の個人連絡先が知れれば、何とかなりそうだが…ううん、この端末に電話番号みたいなのはないのか…?」
「主、見せて下さい。……ふむ、一応あるにはあるみたいですね。この番号をメモしてこんのすけに渡して貰うのが1番良いかも知れませんね」
「えっ、どうやって分かったんだ?…成程、此処を押したら出て来るのか……ハイテクなのは分からんな」
「いやあ、やっぱり長谷部は凄いね!俺も見習わないと…」
「今では博多と並んでメカに強いからな…頼りにしているぞ」
「さっすが長谷部さん!尊敬しちゃうなー!今度俺にも教えて!」
「…ふん、別に構わない」
「長谷部」
「はい、主」
「いつも助かってるよ。私の長谷部がお前で良かった」
「ーー有り難きお言葉…っ!」
蜂須賀達に褒められて満更でもないような顔をしていたが、私からの追い討ちには勝てなかったらしく、顔を赤く染めて桜の花を舞い散らせる長谷部に思わず笑みが零れる。あわわ、と慌てながら違いますからね!と手を振って桜の花を隠そうとしている長谷部が非常に可愛いらしい。美人な長谷部に桜は映えるなあ、と呟けばこれまた嬉しそうにしながら俯いてしまった。蜂須賀(兄ちゃん)も綺麗だし美人だ!と長曽祢と浦島に言われ、突然の流れ弾に顔を赤く染めながら慌てる蜂須賀に、私の刀剣男士に美人じゃない者は居らんが?と言い返し、少しばかり不満気にしていた長義の頭を撫でる。
「…主」
「焦る必要なんかない、無理に長谷部に追い付こうなんざ考える必要なんてないからな」
「…だとしても、俺は君の為に何かしたいよ。保護してくれた恩を返したい」
「真面目だな……ふむ、確か長義は装備?を作るのが得意だったな」
「刀装のことかな?…まあ、器用な方だと自負はしているよ」
「なら、刀装当番に混じって金刀装を量産して欲しい。慣れて来たようだし、そろそろ出陣もしたいだろう?」
「!!出陣しても良いのかい!?」
「無論だ。…そうだな、虎徹の三振りと共に行くのはどうだ?」
「えっ」
「良いじゃないか!真作同士仲良くしたいと思っていたんだ、是非一緒に行かせて欲しいな」
「あー…まあ、盾くらいにならなれそうだからな…」
「長曽祢兄ちゃんは普通に強いんだから自信持ってよ!主さん、他の2振りはどーする?拘りがないなら俺、蛍と愛染が良いな!今度誉を誰が1番取れるか競争して主さんとお昼寝したいってお願いしたいって思ってたんだよねー!」
「何だ、あの褒美がそんなに気に入ったのか?まあ、それくらいなら構わないさ。長義、お前はそれで構わないか?」
「ーーゆ、夢、みたいだ…!」
「…喜んで貰えたようで何よりだよ」
感極まっている長義の頭をポンポンと撫でながら蜂須賀達に視線を向ければ、察してくれたのか囲うように長義の周りに集まり、様々な声を掛けていく様子を長谷部と眺める。…色々と制限されていたんだろうな…幸せにするつもりではいたが、もっと幸せにしようと改めて思う。焦らずゆっくり、幸せになろうな、長義。
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