思わぬ味方

最初の出陣以来、あんなに緊張したのは初めてだと思う。長義の初陣は無事に完全勝利Sを納めて来たことを労いつつ、1番誉を取った浦島の頭を撫で回す。悔しそうにしている愛染と蛍丸の頭も軽く撫でつつ、部隊長を任していた長曽祢と副部隊長の蜂須賀から詳しい報告を受ける。初陣だと思えないくらい活躍してくれたらしい私の初期刀と誉を誰よりも取った浦島の労いとおめでとうパーティーは、久し振りに歌仙、光忠、堀川の腕によりを掛けた料理達が沢山並び、キラキラと目や表情を輝かせていた長義と浦島がとてつもなく可愛いかったことを此処に記しておこう。…まあ、私の刀剣だから可愛いのは当たり前なのだがな?


「ーーおや、久しい気配が近付いているな」


そんなパーティーから数日が経ち、正国や杵に気に入られた長義は鍛錬に明け暮れていた。まあ、絆を深めるのは悪いことではないから無理をしない限りは多めに見ようか。どうもテンションが上がると互いに命の取り合いになってしまうのがたまにキズではあるが…まあ、監視役を付けていれば少しは軽減されるからそこは良しとしようか。因みに本日の近侍は堀川派だ。長谷部の手伝いを堀川が、書類整理を切国と山伏が手分けしてやってくれているのを眺めていれば、不意に懐かしい匂いが鼻を掠め、私は筆を置いてから札によって繋がっている空間に向かって腕を広げーー…


「ーー薺様っ!」
「りん、久し……泣いているのか?」
「わた、私…!!殺生丸様と喧嘩しちゃったぁ…!」
「…おや」
「わわ、りんちゃん大丈夫ですか!?お菓子食べます?お茶…甘いジュースの方が良いですかね?」
「確か冷蔵庫にオレンジジュースがあるだろう、貰うぞ主」
「兄弟は良く知っているのだなあ!りん殿、そんなに目を擦っては腫れてしまうのであるぞ」
「…一度休憩にしましょうか、主」

「ああ、そうしようか長谷部」


泣きながら飛び付いて来たりんを抱き締めていれば、堀川派の3振りがそれぞれ行動を起こす。そんな3振りを眺めていた長谷部は机に置いてあった書類達を違う場所へまとめて移動させる。聡いお世話係が居て非常に助かる。…それにしても、殺生丸と喧嘩か。りんはりんで心配ではあるが…彼奴、意外と繊細なのよな。まあ、邪見が何とかしてくれることを願いつつ、堀川お手製のクッキーをせっせとりんの口に運ぶ。ぐすぐすしていたが、一口食べるとすぐに泣き止んでいたからやはり堀川は凄いな、と改めて思い知らされた。


「…落ち着いたか?」
「…うん。お仕事の邪魔してごめんなさい…」
「構わんさ。それで?あの馬鹿は何をやらかしたんだ?」
「…お花、育てたの」
「うん?」
「…殺生丸様にね、似合うと思って楓様に教わりながら育ててたんだけど……くだらん、って言われちゃったの…」
「あー…それは殺生丸が悪いな」
「…でもね、私…殺生丸様にね、嫌いだって言っちゃった……嫌われ、ちゃったかなぁ…」
「彼奴はりんが大好きだから嫌いになるなんて有り得んさ。…だから刀を収めろ、堀川」
「…許せないじゃないですか、りんちゃんの好意に対してそんな扱いするなんて…!」
「…アンタは怒って良いんだ。お前の為に育てたんだぞ!くらい言って良かったんだぞ」
「りん殿の育てた花ならそれはもう綺麗であろうなあ、拙僧なら嬉しくて仕方ないであろう!」
「処しますか」

「待て待て待て、とりあえず皆落ち着け」


堀川だけじゃなかった。いや、本体に手を掛けているのは堀川だけなのだが、切国も山伏も長谷部も目が笑っていない。気に入っているりんが愛されているのは非常に喜ばしいが、あまり大事にするのは好ましくない。…何より、りんを愛している彼奴にとっては、な。神楽に心惹かれている殺生丸も嫌いではなかったが、自分を慕ってくれているりんに心を砕いている彼奴もまた悪くはない。…少しばかり庇ってやるとするか。


「りん、殺生丸はお前を嫌いになったりせんよ。例えお前が殺生丸を嫌いになったとしても、彼奴はりんを好いているさ」
「…薺様」
「…内緒の話をしてやろう。りんは私のことも殺生丸に負けないくらい好きだろう?」
「…主、自意識過剰にも程が…「勿論大好きだよ!」…そうか」
「兄弟も好きであろう?勿論拙僧も主殿が好きであるぞ!」
「う、そ、それは…勿論、好ましいとは思っているが…」
「素直じゃないんだから…当然僕も好きですよ!」
「長谷部も主が大好きですよ」
「ふふ、分かってはいたが嬉しいな。…まあ、殺生丸が居ても私に戯れ付く時がたまにあっただろう?その際、殺生丸に凄まれてな」
「…殺生丸様が?薺様に?」
「ああ。まあ、彼奴は元々私を毛嫌いしているから態度は冷ややかではあるが…その時はまるで別人のようでな。りんを私から奪うのか、と聞かれた時もあったな」
「…本当に?」
「私がりんに嘘を付いたことがあるか?」
「…ううん」

「信じてくれ。彼奴は、殺生丸はお前にだけは何よりも清らかな気持ちを抱いておるよ」


村に住む男の子全員に殺気を放つくらいに、な。…清らかな、と言って良いのか悩むが…まあ、清らかで良いだろう。愛しい者には虫が付いて欲しくないからな。徹底的に排除しなければ。私の言葉にりんはぽぽぽっ、と頬を赤くする。初々しい反応に思わず頬が緩むのを感じつつ、殺生丸にしては珍しいな、と思ったりもする。…彼奴が、りんのすることを蔑んだりするか…?そう思考した際、言葉足らずな一面を思い出し、まじまじとりんを眺めた後ーー私は静かに口を開く。


「指、棘でも刺さったのか?」
「え?あ、うん。楓様に気を付けてって言われてたんだけど…綺麗だったから触っちゃったの」
「多分それが原因だな」
「…え?」
「…自分という存在が居るのに、他の存在に現を抜かしているように見えた、ということですか?…自意識過剰過ぎません?」
「長谷部。…まあ、大体そうなんだが。要はな、りん。殺生丸は自分よりも花を嬉しそうに見ているりんを見て、花にやきもちを妬いたのだよ」
「…殺生丸様が、お花にやきもち…」
「ふふ、愛されてるね!」
「…分かり難いだけなんだな」
「カッカッカ、主殿は良く分かっておるのですな!」

「付き合いが長いからな」


因みに犬夜叉の兄だぞ、そう付け足してからお茶を飲む。うん、少し冷めてしまったのが惜しいが相変わらず美味いな。りんの触れてしまったら折れてしまいそうなくらい細く美しい手を取り、蒼葉の柄でちょん、と軽く触れればーー…指に巻かれていた包帯がするりと解け、傷一つない美しく可愛い指が現れる。…これで少しは機嫌が治るか?面倒臭い男だな、相変わらず。


「わぁ…有り難う、薺様っ!」
「構わんさ。お八つでも食べて行くか?」
「お八つ…!…殺生丸様でも食べれるかな?」
「…今日のお八つは何だったか」
「伊達組のゼリーであるな!みかん、ぶどう、桃、梨、苺の5種類である。2個ずつ持って……りん殿には少し重いか…?」
「りん、大丈夫だよ!…あの、3個はダメかな?邪見様にもあげたいの…」
「勿論大丈夫ですよ!りんちゃんは優しいですね」
「…お前も主に似て身体が細いからな、ちゃんと自分の分は食べるんだぞ?」
「うん、大丈夫だよ切国様!」
「健気ですね…主、誰か付けた方が良いのでは?本人の意思を尊重したいですが、流石に15個は幼子には厳しいと思いますが…」
「ーー否、その必要はないようだ」
「?主、それはど…「…りん」…っ、誰だ!」
「殺生丸様っ!」
「お迎えご苦労、と言ったところか?」
「…黙れ」

「おお、怖い怖い」


嗅ぎ慣れた匂いに向かって視線を向ければ、そこにはやはり殺生丸が姿を現していて、ふわりと着地する。相変わらず見目だけは美しいな…りんはぱあっと表情を明るくさせ弾丸のように殺生丸に飛び付く。そんな光景を微笑ましく思いつつ殺生丸に軽口を叩けば思いきり睨まれた。…分かってはいた反応だが、長谷部達からの殺気が凄いな。私を想っていてくれているのは嬉しい限りだが、落ち着いてくれるだろうか。それぞれに言霊で落ち着け、と言えば彼等から力が抜ける。…説教は甘んじて受け入れよう。


「…世話になった」
「おや、珍しいな。貴殿がそんなことを私に言うとは。…槍でも降るか?」
「…その場合、串刺しになるのは貴様だろうな」
「それは怖いな」
「殺生丸様、薺様を虐めちゃダメですよ!」
「……ふん」
「殺生丸様!…殺生丸様がごめんなさい、薺様」
「構わんさ、りん。いつものことだ」
「…それは?」
「うん?ああ、政府…という上からの呼び出し状だ。受け入れる気はないがな」
「…臭うな」
「やはり分かるか。どうも派閥争いに巻き込まれそうでな」
「…貴様はいつも忙しないな」

「それは誤解だ、私は平和に過ごしたいだけだ」


嫌な誤解をされていることに内心慌てながらもそう紡げば、殺生丸に鼻で嗤われる。相変わらずの態度に思わず肩を竦める。言葉を縛っている長谷部達からの殺気が凄い。いくら遮断する結界を張っているとはいえ、漏れそうで怖いくらいだ。怯えているりんの顔が見えていないのだろうな…これは土産どころの話ではないな。そう思って言葉を紡ごうと口を開く前に、そっと殺生丸の口が開く。


「邪見」
「はっ、此処に!おお、りん!怪我はなかったか?」
「邪見様!うん、ないよ!薺様に治して貰ったの!」
「流石薺様ですな!っと、殺生丸様!いきなり紙を突き出さないで下さいませ!」
「読め」
「えっ。しかし、これは薺様の重要な書類なのでは…?」
「邪見」
「わ、分かりましたよう!……胸糞悪い内容ですな、まさか薺様はこれにノるつもりではないですよね?」
「戯け。私とてそこまで阿呆ではないぞ」
「ですよね!この邪見、安心しました!」
「邪見、隠密は得意だな」
「せめて疑問系にして頂けます!?それは、まあ…割りと得意ですけどぉ……殺生丸様、薺様の手伝いをしろと?」
「おや、珍しいことが続くものだ。対価は?」
「…要らぬ。行くぞ、りん」
「えっ、きゃ、殺生丸様!降ろし……薺様、長谷部様、切国様、山伏様、堀川様またねー!」
「私呼ばれただけ!?…まあ、慣れてますけど…」
「…巻き込んだか、すまんな」
「薺様はお気にしないで下さいませ。慣れてますから」

「…酒でも飲むか」


肩を落としている邪見にそう声を掛ければ、邪見は嬉しそうに笑いながら頷く。うん、やはりどんな相手でも笑顔が良いな。そう思いながら、少しばかり気が進まないが言霊を解く。あまり得意な方ではなかったが、此処には神々が集まっているからな。白虎の力もきっと高まったのだろう。そう分析していれば、ガッと肩を切国に掴まれる。…あー、目が笑っていないな…


「主、何で止めた!!彼奴はりんの好意を無駄にしただけではなく、薺に許せない態度を取ったのだぞ!?」
「今から追い掛ければ間に合うかな、兄弟」
「それなら拙僧は馬を借りて来なければならぬな」
「俺が乗せてやる。俺の機動なら山伏を背に乗せても追い付ける。…構いませんよね?」
「構うに決まっているだろう、落ち着け!切国みたいに私に向かえば良いものの……彼奴のあれは性格だから気にするだけ無駄だ。切国とてずっと綺麗だと言われるのは嫌だろう?」
「、…それは、そうだが…」
「堀川も兼定の相手をするなと言われたら嫌だろう?」
「兼さんの!?…難しいですね」
「山伏は山に行くなと言われたら嫌だろう?」
「む、…厳しいであるな」
「長谷部は私の世話係を解に…「嫌です!!!!」勢いが凄いな……まあ、彼奴のあれは気にするだけ無駄だ。昔よりは丸くはなったんだがな」
「ええ…丸くなりましたかねぇ…?」

「邪見まで疑うのか。…まあ、不器用な奴だからな。そこまで敵対しないでやってくれ」


言葉が足りないのがあれだが、そこまで悪い奴ではないんだ。義理は通す方だし。…まあ、それは触れ合わなければ分からないのだし、無理に押し通すつもりもないがな。神楽とりん、2人の女性との出会いが彼奴を変えたのだと私はそう睨んでいる。そんな彼奴を好ましく思っている私としては、殺生丸もこの本丸に受け入れて貰えれば良いが…私を慕ってくれている彼等には厳しいかも知れんな。私はそう思いながら、邪見を彼等に紹介しつつ、邪見に政府のことを説明するのだったーー…
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