人聞きが悪いことを言わないで貰おうか?

数日が経ち、私と長義と八代の為に用意された演練の日がやって来る。パソコンの方に絶対参加しろという有無のメッセージが連日届いて来ていた。ちゃんと参加すると伝えていたのだが、まあ念には念を、ということだろうな。そういうのは嫌いではない。些かしつこすぎではあったがな。あそこまでされると、何かしらあるのだろうと勘繰られるだけなのだと何故気付かないのか。…まあ、そう簡単に気付けるような人の子達であればこんな愚かな真似はしないか。八代には長谷部とこんのすけ、邪見によって既に情報を渡している。上手く演技をして欲しいものだが…まあ、問題はないだろうな。


「姉様。みんな、揃ったよ」
「ああ…有り難う、小夜」
「ん」
「薺、少し襟が曲がっていますよ……これで良いでしょうか」
「有り難う、江雪兄」
「いいえ、可愛い妹の為ですから…」
「薺、あまり無理をしてはいけませんよ」
「分かってるさ、宗兄。少しは信用してくれないか?」
「してますよ、信用は。ただ貴女…かなり怒ってるでしょう?」
「まあ、可愛い可愛い家族に手を出されたのだから仕方ないだろう?…しっかり灸を据えてやらねばな」
「完膚なきまでに叩きのめすのは俺達刀剣男士に任せて下さいね、主。…まあ、俺はしませんけど。あくまで主の護衛ですから」
「分かってるさ、長谷部。うん?暴れたいのなら誰かと変わるか?」
「ご冗談を!!俺は貴女の護衛です!誰にも譲りません!」

「分かった分かった、冗談だ」


あまりに必死な表情を浮かべる長谷部の肩をポンポンと叩く。私の近くにいる左文字と長谷部、そして今日の演練に連れて行く伽羅、光忠、鶴丸、貞ーー私が悩んで選び抜いた、岩融と今剣。索敵は貞と今剣の二振りに任せ、岩融に豪快に斬り込んで貰ってから伽羅と光忠、鶴丸で叩くという風にするのがメインになるかと思われる。まあ、私は彼等を心配していないし、すぐに終わるだろうな、と考えているがな。楽しそうに貞と今剣がぴょんぴょんしている姿は実に愛らしい。因みに隊長は伽羅だ、なかなか譲らなくてな。本当なら鶴丸か岩融に任せようとしていたが……まあ、これもこれで悪くはないだろう。


「…主」
「うん?どうした長義。分かっていると思うがお前は留守番だぞ」
「…それはちゃんと分かっているよ。怪我を、しないでくれ。もしかしたら奴らは、君に危害を加えるかも知れ…「長義」…ああ」
「私が簡単に人の子達に遅れを取るとでも?大丈夫だ、安心しろ。傷一つなく帰って来ると約束しよう。ーーだから、涙を拭ってくれ」
「っ、…すまない…巻き込んで、すまない…!!」
「蜂須賀」
「ああ、長義のことは俺達に任せてくれ。…行ってらっしゃい、薺。気を付けるんだよ」
「当たり前だ。江雪兄、宗兄、小夜、留守は頼んだ」
「…ええ、任されました」
「行ってらっしゃい、薺。なるべく早く帰って来て下さいね」
「行ってらっしゃい、姉様。…怪我、しないで」

「…ああ、約束しよう」


罪悪感からかポロポロと綺麗な涙を流す長義を、1番彼が懐いてるであろう蜂須賀に任せ、大切な兄弟に声を掛ければ、彼等は不安そうな表情をしながらも笑顔で送り出してくれた。小夜の頭を軽く撫でてから、私達のやりとりを黙って見守ってくれていた今回の隊長である伽羅に視線を向ければ、彼等こくりと小さく頷いてからゲートの方に踵を返す。ゲートの両脇には蜻蛉切と山伏が控えており、まるで彼等を従えるかのように真ん中にこんのすけが鎮座している。なかなか絵になるな…流石は私のこんのすけだ。


「薺殿、ご武運を」
「主に何かあれば拙僧達はどうするか分からないのでな」
「薺様〜〜!!!ご迷惑ばかり掛けて申し訳ございませんんんん!!」
「おっと。…案ずるな、山伏。私には頼もしい仲間が着いているのだからな」
「ええ、勿論ですよ。主に指1本触れさせはしませんとも」
「…奴等に触れられたら薺が穢れる」
「そうだよね、伽羅ちゃん。僕達の可愛いくて綺麗な薺ちゃんに一切触れられないようにしないとね!」
「本来なら薺さんを連れて行きたくないんだけどなあ〜〜!あんな奴等に一目でも見せたくない!!!」
「落ち着け貞坊、それはみんな一緒だ。俺達の愛しい愛しい姫さんだからなあ、本丸か向こう行き来するだけで閉じ込めたい限りだ」
「ガッハハ、相変わらず薺は愛されているなあ!!まあ、俺も似たような気持ちだがな!!」
「それはあたりまえですよ、岩融。だってみーんな薺さまがだいすきなんですから!でも……薺さまはぼくたちののぞみをかなえてはくれないのでしょう?」
「んん、その聞き方はずるいぞ?まあ、私も譲るつもりはないがな。だからこんのすけ、そんなに謝るんじゃない。これは私の私怨だ」
「うう……薺様ぁ…」

「私の大切なものに手を出しといて、見逃せるはずがないだろう?」


ああ、腸が煮えくり返る。今は綺麗になった長義も秋紀もこんのすけもーー保護した時はボロボロだった。長義に至ってはいつ折れていてもおかしくなかった。そんな行いをした輩が、今も普通に生活をしている?別に誰と恋仲になろうが知ったことではないがな、別人だと分かっているのに全く非がないあの子を、叶えるつもりもない望みを与え続け、純粋なあんなに良い子の純真を弄んだ政府のクズ達をーーー赦してはやらん。赦す理由がないだろう?神が仮に許したとしてもーー私は赦さん、抗ってやる。
……ああ、そうそう。


「ーー勘違いするんじゃないぞ?私は長義だから怒っているのではない。私の“宝”に手を出したから怒っている。ーーお前達とてその対象なのだからな?」


それだけは勘違いされては困るからな。
飛び込んで来たこんのすけを抱え直し、再びゲートに向かって歩み出した私は、背後で桜を舞わせながら片手で顔を隠していた彼等に気付けなかったことを一生後悔することになる。絶対綺麗だったじゃないか、惜しかった……うん?そういうとこってどういうことだこんのすけ。私は知らなくて良い…??まあ、こんのすけがそういうならそうなのだろうな。なんでかって?私のこんのすけが間違いを言う訳ないだろう?…いっ、何故頭突きをするのだこんのすけ…!!!


「もううう薺様の式神誑しなんですから〜〜!!!!」
「うん?誑したつもりはないんだが…?」
「この無自覚さん!!怖い!!でも好き!!!」
「うん?よく分からんが…私もこんのすけが好きだよ。私のこんのすけがお前で良かった」
「アッ……スウウウウゥッッッ…」
「こんのすけ?」
「あっ、主!?こんのすけに何をしたのですか…?気絶してるみたいですが……」
「さあてな?疲れが溜まっていたのかも知れん」
「…とりあえず寝かせとけば良いんじゃないか。こんのすけが居なくても俺達で政府には行ける」
「そうだね、幸せそうな顔してるし起こさないであげようか」
「本当に幸せそうだよな〜〜!ははっ、可愛い顔してるぜ!」
「俺達の唯一無二の管狐だからなあ、そりゃあ可愛いに決まってるだろー?なんたって主が薺なんだからな」
「うむ、違いない!薺になってから顔も変わったしな」
「ええ、かわいくなりました!もともとかわいかったですが、みがきがかかったきがします」

「そうなのか?私がきっかけなら嬉しい限りだな」


私の腕の中で幸せそうな顔をしているこんのすけを、私の周りにいる可愛い子達は安心したような表情を浮かべながら見守る。こんのすけが起きていたら照れ臭そうに笑うのだろうか、それもまた見てみたいものだ。可愛い子が照れている姿など、眼福でしかないからな。
そっとこんのすけを抱え直し、政府に繋がるげーとへと足を勧める。相変わらずこの動きには慣れん、もう少し何とかならないものか。表情に出さないようにしながら必死にぐにゃぐにゃと目の前が歪むような衝撃に耐える。かごめの世界に近しいものがないか聞いてみるか…


「ーーお待ちしておりました、櫻様」
「ああ、確か八代の側近の……天嵐‪(ソラ)‬だったか」
「はい、天嵐でございます。わざわざ御足労頂き有り難うございます、色々巻き込んでしまい申し訳ございません」
「構わんさ。…例の女はちゃんと来ているか?」
「あのあばず…ゴホン、彼女でしたらちゃんと来ております。親が上層部に居るからと威張り散らしてますので…」
「上層部か………クロ、だな?」
「ーーはい、お恥ずかしいことです」
「上の立場のものは誰とて憎まれるものだ、恥ずべきことではない」
「…有り難うございます」

「構わん。…一掃するいいキッカケだ」


政府に着いた私達を出迎えてくれたのは八代の側近で、秋紀の従兄弟である天嵐。八代が絶対的信頼を置いている所謂仕事が出来る人間であり、彼の相棒は加州だ。加州は私の視線に気付くとにこりと人当たりが良さそうな笑みを浮かべながらひらひらと手を振るので私も振り返しておく。天嵐と加州はまるで痒い所に手が届く、と評されるくらい以心伝心した動きをしているようだ。その動きを実際目に出来るか楽しみなところだな。…まあ、歴史修正主義者が乗り込んで来るのだし見れるか。
演練の為の受付に向かっていると、どこからかキャンキャンと甲高い声が耳に入り、思わず眉間に皺が寄る。ちらりと視線を向ければ、明るい金髪の髪を靡かせる女が恐らく同僚である女に詰め寄っている所が視界に入った。


「アンタ、ブスの癖にあたしの国広に色目遣うんじゃないわよ!!!!!!」
「わ、私そんなつもりじゃ…!!」
「黙りなさいよ!!!!アンタみたいな地味女が国広の目に入るだけで害なの!!さっさと消えて!!」
「……天嵐」
「あの女はまた…!!…ええ、あの女が件の女です」
「……あの国広、瞳の色が違うな、妙な匂いもする」
「…つまり、術式を使用しているということですか、主」
「ああ……それも、毒のようなものの気配も感じる。十中八九、親から譲り受けた違法なものだろうな」
「…櫻、アンタの身体に異変は?邪気は苦手だろう」
「うん?無論対処しているさ、案ずるな」
「流石櫻ちゃんだね!…それにしてもあの山姥切くん、大分魂が穢れちゃってるね…」
「そりゃああんなケバい女の恋人なんて嫌だよなあ、可哀想に」
「…まずは山姥切をあの女から引き離すのが先かも知れないな、闇落ちなんて驚きはごめんだぜ」
「鼻が効く主の前に現れたのがあの女の失敗だったな、どうする主よ」

「…あるじさま?」


ーー腹正しい。
あの綺麗な翡翠のような瞳が穢れている。自分が好いている相手なのに、何故気付かない?全てに絶望したような漆黒な瞳で囁かれる愛の言葉の何処が嬉しいものか。私はこんのすけを天嵐に押し付け、つかつかと周りが遠巻きにしている女達に近付いていく。未だに同僚を詰め寄る女に私の姿は見えていない、滑稽なことだな。詰められている女性と女性を守る安定の不審者を見る目を気にすることなく、私は一直線に国広に近寄る。術式に堕ちかけている姿に、思わず溜息が零れる。


「ーーこの阿婆擦れが。清く気高い刀剣男士を無理矢理従わせて何になる」
「……ぇ……?」
「…無理矢理、?」
「誰よアンタ!!!あたしの国広から離れなさいよ!!!」
「五月蝿い」
「何よアン………っっっ!?」
「ーー俺の主に何をした」
「ほう、まだ刀剣男士としての誇りを失っていないと。流石は山姥切国広」
「俺の大切な人に何をしたと聞いている!!」

「……可哀想に。案ずるな、それが本心ではないと気付いている。ーー戻っておいで」


キャンキャン五月蝿い阿婆擦れを言霊で縛り付け、そんな阿婆擦れを護るために本体を抜く山姥切国広の目の前でパンッッ!と霊力を込めながら手を叩く。所謂ねこだましではあるが、これしきの呪具であれば祓える。私の突然の行為に山姥切国広は驚きから目を瞑る。暫くしてから再び目を開けた山姥切国広の瞳は闇のような漆黒ではなく、全てを癒すような優しい翡翠のような瞳であった。


「………俺は、一体何を……?」
「山姥切!大丈夫??」
「…大和守?」
「…あの、これは一体…?」
「その女の呪具で山姥切国広の意識を奪われ、思うがままに操られていた。もう大丈夫だろう」
「呪具ですって…!?妃夢華‪(ヒメカ)‬さん!政府に呪具の持ち込みは禁止のはずですよ!!」
「〜〜〜〜っ!!!」
「…ああ、忘れてた」
「ぷはっ、アンタねえ!!!!あたしの国広を元に戻しなさいよ!!」
「おかしなことを言う。今の姿が本来の山姥切国広だが?」
「違うわよ!!!あたしの、あたしだけの国広を返しなさいよぉ!!!!ただが審神者如きがァァァ!!」
「…聞くに耐えんな」
「アンタなんかパパに頼んで追放して貰うんだから!!!覚悟しなさいよ!!!!」
「妃夢華さん!!審神者様に手出しはダメですよ!!」
「うっさいわよ、地味女!!」
「…耳障りだ、それと」
「な、何よ!アンタに凄まれたってちっとも怖くなんてないんだ………い゛っ」

「ーー私の可愛い可愛い長義と秋紀、こんのすけが世話になったな?」


あまりにも耳障りだったので、強制的に黙らせることにした。まあ、元は私怨を晴らす為だったからこれが結果おーらい、ということにはなるのだが。私は聞くに耐えん妄言を喚き散らかす女の腹に拳を叩き付け、連絡されたのかこっちに近付いて来る初動が遅過ぎる警備員達の方に吹っ飛ばす。暫くは静かに会話が出来るであろう。ちらりと女と大和守安定、山姥切国広に視線を移してから踵を返し天嵐達の方に戻ると何故かキラキラしたような目で見つめられた。…そんなに大したことはしていないのだがな??殴り飛ばしたのは余計だったか……まあ、これで少しは気が晴れた。残りも解決していかねばな。
4/4
prev  next
戻る