貴方しか見えない


キラキラと輝く金色の髪、海のような青い瞳、健康そうな褐色の肌。そして何よりーー…29歳とは思えないベビーフェイス。容姿端麗、性格も申し分ない、料理も美味しい。そんな人が、私の彼氏だったりする。安室透。最近有名な毛利小五郎の弟子でありながら、ポアロで働いている彼はいつ休んでるのかと不安になるくらい、いつもせかせかと働いている。せめて私の前では安らげれば良いのに。


「なまえ?どうしました?そんなに見つめられると流石の僕でも照れちゃいますよ」
「…ごめんね、私の彼氏はかっこいいなあって見惚れてた」
「っ、…何回言ったら気が済むんです?今日だけで10回は聞いてますよ」
「まだまだ言い足りないくらいだよ?私の彼氏は世界一かっこいいもの」
「…僕の彼女は世界一可愛いですよ。なまえ」
「なあに?」
「可愛い貴女を、抱き締めて良いですか?」

「今更許可なんて要らないでしょ?ん」


くすくす笑いながら腕を広げれば、透は困ったように笑いながら私を抱き締める。まるで壊れ物を扱うかのように優しく抱き締められながら、すんと鼻を動かせば、お揃いの筈のシャンプーが別の香りに感じる。甘くて、魅力的だ。


「はー…落ち着く。やっぱりなまえは凄いですね」
「うん?」
「貴女だけですよ、触れてるだけで癒されるの。…このまま閉じ込めてしまえれば良いのに」
「、…そんなことしなくても、私は透しか見えてないよ?」
「それは分かってますよ、ずっと前から。…でも、もっともっと、と欲しがってしまうのは悪い癖ですね」
「…透に求められるのは、嬉しいよ?でも、加減はしてね?貴方が居ないと生きてけなくなっちゃう」
「…それも良いかも知れませんね」
「透」

「怒った顔も魅力的ですけど、僕は既に貴女が居なきゃ生きていけませんから」


透は何でもないようにさらりと言って退けると、穏やかに笑いながら私の肩に顔を埋める。…透が、私が居ないと生きていけない、のは少し信じられない。透は何でも出来る。彼の料理は美味しい、特にハムサンドは絶品だ。掃除も洗濯も頼まなくても進んでやってくれている時があるし、埃がなければ皺もない。完璧人間だと思う。…睡眠、食事を蔑ろにするという、一面がなければ良いんだけれど。前に風見さんに愚痴られたからなあ…


「なまえ?何を考えているんです?」
「ん?透のこと」
「ふふ、嬉しいですね。でも、本物が居るのに考え事に耽ってしまうのはちょっと頂けないな。俺が居る時は俺だけを見て」
「透、透、降谷零が出てるよ」
「おっと。…いけませんね、なまえの前だとコントロールが難しいです」
「いつもは完璧なのにね、私相手だから気が緩むのかな、私は嬉しいけど」
「…貴女の前だと、自分を偽わるのが嫌なのかも知れません。なまえは“俺”を避けたりはしませんから」
「しないよ、ずっと零だけを一途に想って来たんだもの。零でも透でも、…私は貴方しか見えないよ」
「っ、…なまえには、敵わないな。愛してるよ、なまえ」

「私も、貴方を愛してるよ、零」


先に動いたのはどちらだったか。重ねるだけの短いフレンチキスを交わした後、互いに顔を見合わせ、こつんと額を合わせ、2人で笑い合う。この時間が、堪らなく愛しい。ずっとずっと、この時が続きますように。


END.

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