関係が変わるまであと少し
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「僕は歌仙兼定。風流を愛する文系名刀さ。どうぞよろしく」
桜が舞い散る中現れた美しい神様に、私の心は奪われた。今思えば、一目惚れだったんだと思う。歌仙は料理は美味しいけど、姑のような五月蝿いところや首を差し出せとか物騒なとこもあったけど、小夜に対する態度とか、叱りながらも兼さんの良いところをちゃんと褒めるところとか、気に入らないと言いながらもちゃんと倶利伽羅のピンチには真っ先に駆け付けたりとか、そんな部分がどんどん好きになっていった。叶う訳ない、恋だけど。神様だし。それでもーー…想うことは自由でしょ?
最初は歌仙と2人きりだった本丸も今は賑やかになった。有り難いことに、現在確認されている刀剣男士は全振り来てくれた。庭を駆け回る短刀達に手を振られたり振り返したりしながら、私は縁側に座りながらお茶を啜る。小さく溜息を付けばふ、と影が差す。不思議に思って視線を向ければ、ーー思わず湯呑みを落としそうになった。
「、歌仙?どうしたの?」
「驚かせてしまったかな、一緒にお茶を楽しみたくてね。練り切りを作ったんだ、一緒に楽しんでくれるだろう?」
「…強引だね、相変わらず。お茶のお代わり貰えるなら一緒にお茶会でもしようか」
「君ならそう言ってくれると思っていたよ!お茶なら大丈夫さ、急須ごと持って来たから遠慮しなくて良いよ」
「…やけに準備が良いね?」
「用意周到、と言ってくれるかい?文系だからね」
ふわりと笑みを浮かべながらお茶の準備を楽しそうにする歌仙に、ああ好きだなと改めて思う。お代わりは要らないかい?と聞いてくる歌仙に、お願いするよ、と湯呑みを差し出す。鶯丸が淹れてくれたお茶も、長谷部も淹れてくれたお茶も、光忠が淹れてくれたお茶も嫌いではないけど、やっぱり惚れた弱みだろうか。どうしても、歌仙が淹れてくれたお茶が一番美味しく感じる。お茶が入ったよ、と湯呑みを返してくれた歌仙にお礼を言ってから受け取り、そのまま一口啜る。うん、相変わらず美味しい。更に頂きます、と言ってから練り切りを一口食べる。…美味しいなあ…
「流石歌仙だね、凄く美味しい」
「恐悦至極。主の為に作ったからかも知れないね。料理は愛情と言うだろう?」
「…愛情」
「限られた初期刀の中で、君は僕を選んでくれた。その時から既に、主は僕の特別なのさ」
「、そ、そうなんだ」
「…最近、忙しかったけれども今は落ち着いた訳だし、たまには僕に構ってくれても良いんじゃないかい?近侍は長谷部か博多ばかりだし、たまには僕を指名してくれよ」
「えー…だって歌仙、私がダラダラしてたら怒るじゃない、計算事も苦手でしょ?」
「当たり前だろう?主がダラダラなんて許されないよ、長谷部も博多も君に甘いからね…計算は…文系だから仕方ないだろう?」
「むー、私だって頑張ってるのに…」
「それは僕だって分かっているよ。君は若いのに良くやっている。それはこの本丸に居る全振りが認めてる。でも、刀剣男士は男なんだよ?取って食わないとも限らない、長谷部なんて極めているし僕じゃ太刀打ち出来ないかも知れない…少しは警戒して欲しいと言ってるんだ」
「、長谷部は私に欲情したりしないだろうし、したとしても歌仙には関係ないじゃない」
「あるよ、誰だって好意を持っている相手が他の男と2人きりなんて気が気じゃないに決まってるだろう」
「…好意?」
信じられない、と言わんばかりに聞き返せば、歌仙はきょとりとした後ー…ぼん、と表情を真っ赤に染め上げる。耳まで赤い。…これは、期待しても良いのだろうか。素直になれないし、グータラな私を彼が好ましく想ってくれてると信じて良いんだろうか。ちらっと視線を向ければ、彼もまた私を見ていたようでカチリと目が合う。ーー好き。その言葉を先に告げたのはどちらだったか、それは知る人ぞ知るーー…
END.
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