可愛い仔犬

 常に優位でありたい。愛するより愛されたいし、大切にされたい。甘えられたいし、全幅の信頼を向けられたい。
 ああでも。愛してくれるなら、その分可愛がってあげたいとも思う。
 だからこそ、この状況はわりと本意なのだけれど。

 「ジャック、暑い」

 読書をしていた私の腹には太い褐色の腕が回っていた。

 「俺も暑い」

 狼の獣人であるジャック・ハウル。彼はその恵まれた体躯を擦り寄せ、鼻先を私の頭に埋めるとふんすと鼻を鳴らした。その後、肩口に頬を乗っける。触れるところ全てからじっとりと熱が移ってくる。

 「なら離れてほしい」
 「…嫌か?」
 「暑いから嫌だね」

 はっきりと言い放つと、狼はふん、と拗ねたように鼻を鳴らして鼻先を肩にぐりぐりと押しつけてきた。その様子に、今日はいつにも増して甘えただなと内心で首を傾げる。
 褐色の太い腕は腹回りを緩く締めつけてはいるが悪戯をしようとする気配はなく、純粋に甘えてきているのだとわかる。
 読書を邪魔してくるわけでもないが離れてくれる感じもない。ジャックの性格を考えると、本当は構って欲しいけれど素直に言うのも恥ずかしい、でも邪魔をするのは悪い気がする、といったところだろうか。

 「しょうがないなあ」
 「!」

 ため息をついて本を閉じれば、肩口からこちらの様子を伺っていた金色の目が輝やいた。彼の尻尾がぱたぱたとベッドを叩く音がする。どれだけ嬉しいんだと愛おしい気持ちが湧き上がる。

 「ジャックは私のことが本当に好きだねえ」
 「………」

 肩口にあった顔を掌と頬で挟んですりすりと撫でる。頬と頬がくっついている感じだ。少し顔を離して様子を伺う。拒絶をしない反応が全てを物語っていたが、念の為の確認だ。嫌がられていたら不味い。
 彼の眉尻は下がり、眉間に皺が寄っている。目が合った瞬間にきゅっと唇を尖らせて、おずおずと私から目を逸らしたのは照れているからか。

 ああ、可愛い。

 衝動に任せて晒された頬に唇を押しつけてやれば密着している体がぴくんと震えた。驚いたようにこちらを見てくる彼の顔を覗き込むと、堪えようとして失敗したのか、ふにと唇の端がちょっと緩んだ。
 これも可愛い。
 思っていた以上の可愛らしい反応が返ってきて気分が上がる。
 腹を抱いている腕の力が強くなったと感じた時には、既に彼の顔が間近にあった。かぷ、と齧るように唇を食まれる。ちゅっちゅと軽く押しつけられる柔らかいそれに、かなり嬉しかったんだなと微笑ましくなった。

 「確かに、俺はお前が好きだな」

 当たり前のことを言うように平然と。
 笑い混じりの声でそう言い放った可愛い男に、私はもう少し構ってあげることにした。