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私が目をあけたとき見た風景は、
まったく身に覚えのないものだった。


「…起きたか?」
「え?うん……え?」
私は見知らぬところで寝ていたようだ。
「アルファ、女が起きましたよ」
インカムだろうか、口元を小さく動かし“アルファ”という人と会話する中性的な容姿の人。
「名前は?」
「…ミライ。」
「そうか。」
それだけで会話は終わってしまった。
貴方の名前は、とはなぜか訊くことができなかった。
 
暫くするとドアが開くような音がした。
そちらを向けば紫系の色の髪色をした、
感情を持たないロボットの様な無機質さを持った人が
歩み寄ってくるのを確認した。
「アルファ、」
どうやら先程コンタクトを取っていた「アルファ」な様だ。
中性的な容姿のその人はアルファと呼ぶその人の斜め後ろへと移動した。
「私はアルファ、」
「…私はエイナムだ」
…私も名乗れということのようだ。
「私はミライ。」
「ミライは何故あんな場所に倒れて居た」
私が名前を告げ、ひと呼吸もないまま問われる。
「何故って言われても…というかどこに…?」
そう私が問えばアルファとエイナムは顔を見合わせていた。何故?
「エルドラドは知っているか?」
「勿論。意思決定機関、でしょう?
ここ最近はセカンドステージチルドレン…
フェーダって言った方正確か。に、
対抗しているだっけ、するだっけ…で
歴史の改変をするんだよね?」
「…何故それを知っている」
「そんなの……あれ、なんでだっけ」
テレビ?は私は見ないし、
伝聞?でも、誰から?
「オマエ、セカンドステージチルドレンのっ」「エイナム」
エイナムが声をあらげて話すのをアルファが制止した。
「ミライ、」
私は返事の代わりに顔をあげる。
「記憶がないんじゃないか?」
記憶はある。
私は幼馴染みと組織を作って、
戦って………
なんで、戦った?なにと、戦った?
「…ルートエージェント」
「えっ?」
「私やエイナムはルートエージェントと呼ばれている。」
「…う、ん。」
「…歴史上からサッカーを消す。それが私たちの目的である。」
「…うん」
アルファの言いたいことは何だろう。
「…行く所がないのなら私たちがミライを迎え入れよう」
「!?」
「ア、アルファ!?」
ほら、エイナムも驚いているよ。
「私はミライを推薦することしかできない。
それでも良いなら協力しよう。」

「ありがとうございます、アルファ様」
 
どうせ行き場などない私は、
何らかの役に立ちたかった。
サッカーの消去が
私を迎え入れると言ってくれたアルファのためになるならば、
私は「アルファ様」の元に跪こう。
 
 
 
エイナムには悪いけれど、
アルファ様の隣を目指させていただこう。
 
 
 
「ベータとガンマには気をつけた方がいい」
 
 
アルファ様が先に部屋を出ていき、
遅れてエイナムが動き始めた、と思ったらこの一言を呟いて出ていった。
 
 
ベータと、ガンマ。
忠告、ということなのだろうか。
いまいちよく分からないまま時間は去った。
 
 
アルファ様に迎え入れてもらえるよう、
私も頑張らないと、な。

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