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「アルディア中将、敵船です!」
「……はい、行きます」

簡素なソファから身を起して、壁に立てかけてあった自分の刀を取った。
鞘を払って、すらりとした美しい刀身を陽の下に輝かせる。

「全員配置につけ、相手がなんであろうと油断するな」
「はい!」

海賊の顔が見えた7000万の首。
まずいな。
億越えとはさすがに比べようもないが、7000万だって億越え一歩手前だ。

「陣を展開」
「はっ!」

訓練通りの動き。
一糸乱れぬ連携は、日ごろの訓練の賜物と言えるだろう。

「あいつって、悪魔の実の能力者でしたか」

近くの海兵にこっそり耳打ちすると、小さな頷きが返ってきた。
そうか。
いや、それなら逆に話は簡単だ。
敵船に艦体を寄せ、海兵たちが陣を崩さず畳みかけていく。
俺は敵船の船長をその中に見ると、能力を発動させる暇も与えず、海に蹴り飛ばした。
悪魔の実の能力者であるなら、話は簡単。
海に落としてしまえばいい。
しっかりと海に落ちたのを見届けて、小刀を船長に向けて投げる。
服を貫いて敵船に深く突き刺さったそれによって、既に意識のない海賊船長は沈まずにいた。
近くで敵に囲まれた海兵を助けて、海賊の首を打つ。
俺は、切羽詰まったとき以外はみねうちで伸している。
お偉いさんからは甘っちょろいとか言われるが、俺は気にしていない。
死によって罪を償うか、生によって罪を償うのかは所詮同じことだ。
ただひたすらに、奴らは理不尽な力に屈するだけである。
それが嫌なら、自由を求め、全力で抵抗してくればいい。
それが、海賊というもの。

「武器を捨て、投降せよ!繰り返す!武器を捨て、投降せよ!」
「敵船船長を回収してきます」
「はい、お願いします」

武器を捨てて膝をつく海賊たちを見ながら、長刀は抜き身のままで海兵に頷く。
短く敬礼で応えた海兵は、俺が放った小刀を引き抜いて、海賊に海桜石の錠をはめた。
不用意に動いた近くの青年海賊の首を峰で打って昏倒させた。

「収監が終わり次第、すぐに船を動かす!」

大方の海賊たちが軍艦に内蔵されてある牢獄へと連れて行かれているのを見送り、近くの海兵にねぎらいの言葉をかけながら私室に戻った。
ソファに寝転がって今さらながらに刀を鞘に納める。
電伝虫を取り出し、本部に掛けた。

『はい、こちら海軍本部であります』
「こちら、アルディア。狂犬のジースタを捕縛しました。付近の駐屯所へ受け渡しますので、そのようにお願いします」
『了解しました。損害を補充しますか?』
「いえ、幸いにも今回は損害と言った損害がほとんどありませんので、受け渡し次第このまま航
海を続けます」
『了解しました。ご武運をお祈りします、アルディア中将』
「はい。失礼します」

ガチャリ、と言葉を発して眠った電伝虫の甲羅を撫でてサイドテーブルに置いた。
損害か。それは勿論、海兵やこの軍艦のことではあるが、つまり、海兵の命すらも、海軍の勘定に入っているということだ。
そして簡単に、補充できる。
船が動きだした。
海軍を象徴する青のマフラーを鼻まで引き上げてソファに沈み込んだ。
いつから俺は、補充と呼ばれなくなったのか。
補充を決める人間になったのか。
身体が重い。
瞼を閉じて、あらゆるものを拒絶した。
そうだ、友人が死んだころだ。
今は顔も名前も思い出せない。
惰性でつるんでいた。
惰性で海軍に入った。
俺は、何事にも真剣であった彼を、知らぬうちに侮辱していたのだろう。
だから俺は、俺の罪は、友人にこそある。
全てを投げ捨ててしまえる俺の、たった一つの枷だ。



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