「寝ろ」
リゾットと名乗った彼の威圧によってアメリアは亀の中で休むことになった。
聞くところによれば、あの島での戦いのためろくに寝ていなかったという。
そこまで賭けてボスを殺そうとしていたのに、俺たちの出現で失敗に終わったのだろうか。
あの島での行動に後悔はないが、彼らはどうなのだろうか。
そう思い見たが、彼ら暗殺チームの面々は特にこちらに対して何を言うことも、視線で投げかけることもなく、アメリアが用意したプライベートジェットに乗り込むと思い思いに寛ぎ始めた。
何とも自由な奴らだ。
俺は苦笑して、彼女が信頼できるというパイロットによろしく頼むと命を預けた。
彼らはあの島からこのジェットに至るまでの間話をした。
これからのこと、作戦のこと、ボスのこと、そして来るべき刺客のこと。
「あと2人、か」
俺の独り言にメローネが顔を上げた。
彼女の予言にも似た言葉通り、1人の男が空港で近寄ってきたが、地面にジッパーで閉じ込めるというなかなか斬新な対処方法で一戦も交えず通過し、そして残る刺客はあと2人だと彼女は言った。
「そういやティッツァは?あのホモコンビもボスの手下だったろ」
「ティッツァーノとスクアーロなら、アメリアがどうしても殺したくないとかで、海外旅行に行かせたぜ。今頃オーストラリアでコアラと遊んでんじゃねーのか」
メローネに突然話を振られたイルーゾォは思い出すように亀の方を見ながら話した。
名前に聞き覚えはないが、ボスの親衛隊の一人なのだろう。
「へえ、それで、あと2人ね。で?ソルベとジェラートはホモコンビよろしく仲良く離脱かい?」
あの島から出て以来、黒髪のソルベと呼ばれる男はひどくふさぎ込んだ様子で相棒の腕の中で呆然としていた。
頭を抱え、時折うめくような声を上げている。
「黙れよ、メローネ」
「役得だねジェラート」
「茶化すな」
リゾットが亀の中から出てメローネの言葉を遮った。
アメリアの様子をしばらく見ていたようだったが、もう気が済んだのだろうか。
「なんであんた、そんな平然と、してられんだよ……リーダーも、死んだんだろ……?」
「アメリアの花は何度も見てきたから呑まれはしなかった。ソルベ、自分の体験とは切り離して考えろ。あれは実際にお前の身に起きたことじゃない」
「分かってるよ!分かってる……!」
「ジェラート。有事の際はソルベを連れて作戦から離脱しろ」
「ああ……」
リゾットは二人にペットボトルの水を渡して俺の方へ歩いてきた。
「リゾット、少し話せるか」
「ああ、俺も話しておくことがある」
聞きたいことは山ほどあるが、二つに絞って問いかけた。
彼女の、アメリアの予言の正体と、あの花の正体だ。
どちらも彼女のものだから、彼女に聞けと一蹴されるかと思ったが、リゾットは少しだけ悩むように亀を見て、程なくしてどちらの答えにもスタンドだと告げた。
「それは分かっているんだが……」
「あの花を砕くと、強制的にアメリアの記憶を追体験させられる。そしてアメリアは、ここにいる俺たち全員の死の記憶を持っているらしい」
リゾットの話で、先ほどソルベが言った「死んだんだろ」という言葉を理解した。
つまり、彼は誰かの死を追体験したのだろう。
ソルベ同様に、リゾットも、ボスも。
だからこそ満足に動けなかったのだ。
「彼女は、未来の記憶を持つのか」
「至極限定的なことだけで、アメリアの未来の記憶は更新されない」
「リーダー、そろそろ時間だ。あいつ起こすぞ」
「あぁ、頼む」
ギアッチョと呼ばれる彼は亀の中に入りアメリアを連れてきた。
結局のところ1時間ほどしか眠れていないのではないだろうか。
「アメリア、いけるか?」
「勿論よ。パソコンをとってくれる?」
頭痛がするのかアメリアはリゾットの隣で難しい顔をしながら眉間を揉んだ。
「アメリア、警察のデータベースに入るくらいなら僕がやります。少し休んでください、それじゃあ保たない」
「……そうね、じゃあ扉を空けてあげるから中を探してもらえる?」
「分かりました」
俺たちが見つめる中、アメリアはまるで何度も行ってきたかのように迷うことなく指を進め、すぐにジョルノに引き渡した。
わいわいと喋る俺たちや暗殺チームの面々に静かにしろと声をかけて、アメリアは花を一輪リゾットに渡した。
「あの時、私はあなたがどの記憶を見たか知らない。けれど、気分の良いものではなかったでしょう。これは、お詫びよ」
リゾットは躊躇いなく砕くと薄く微笑んだ。
余程いい記憶だったのだろう。
一体何の記憶だろうと巡る不躾な思考を止め、ジョルノが作業を進めるのを見ながら、彼女のスタンドについての思考を巡らせた。
スタンドは、精神の鏡だ。
彼女の鏡に映るのは、懐古と、きっと、未来への希望なのだ。
でなければ、おぞましい死の記憶を持つガラスの花があんなにも美しいはずがない。
「来ました。逆探知です」
「それでいいわ。こんにちは、ポルナレフ」
『……君はだれだ?』
「安心して、彼らの味方よ。それよりもディアボロについて話しましょう」
『いいや、君が何者なのかを知る必要がある』
「アメリア・バレッティ。S-Bullet社の創設者よ。スピードワゴン財団にも何度か技術提供をしたことがあるわ。うちの社名は聞き覚えあるでしょう?」
『それは、もちろんだが。私が聞きたいのはなぜディアボロのことを知っているかということだ』
「そういうスタンド能力だからよ。私はあなたがどのようにしてボスを倒そうとしているのか知っているわ。細かい話はいいの。コロッセオで落ち合いましょう。ジョルノ・ジョヴァーナに適性があるわ」
『本当に全てを知っているんだな。一つだけ聞かせてくれ、彼は高潔な魂を持つ人間か?』
アメリアは少しだけ泣きそうな顔で微笑んだ。
堪えるように沈黙し、ええ、と答える。
「ええ、もちろん……。ねえ、その……本当はあなたのことも助けられたらよかった。私は、知っていたのに……あなたも、あなたの高潔な小さいお友達のことも……ごめんなさい……」
『……その言葉だけでいいさ。君が誠実な女性であることはその言葉だけで十分に分かった。ありがとう、君が気を病む必要はない。コロッセオで待っていよう、アメリア・バレッティ』
「……ありがとう。よろしく頼むわ」
通話の相手は優しい笑い声を返してPCへの侵入をやめた。
アメリアは口元を押さえて俯いた。
「彼を傷つけてしまった、かもしれない……思い出させる必要なんてなかったのに……」
「いいえ、傷つけてなんていませんよ。彼は喜んでいました。そうですよね、ブチャラティ」
「ああ、もちろん。アメリア、君の言葉で彼はきっと亡くなった友人を思い出しただろう。けれど思い出というのは悲しいことだけではないさ」
アメリアは自己嫌悪に染まった顔を上げた。
ああ、何を言っても無駄なのだろうと悟る。
リゾットは少し困った様子でジェラートを見たが、彼は相棒の世話で忙しい。
「……アメリア。隠れ家に着くまでまだ時間がある、寝ておけ」
「そうするわ……ねえリゾット、もし、暇だったら私が花を出さないか時折見て欲しい」
「分かった」
「お願いね。……ジェラート。ソルベのこと、本当にごめんなさい。あなたたちも少し眠って」
アメリアは2人の目元に手をかざすと触れるだけで砕ける脆い花を生み出した。
ソルベとジェラートは一瞬震え、すぐに幸せそうな顔で体の力を抜いた。
彼女の見せる幸福な記憶とは一体なんなのだろう。
彼らに花を振りまいたアメリアは亀の中に戻っていった。
「プロシュート、アメリアが花を咲かせ始めたら呼んでくれ」
「ああ。来いペッシ」
プロシュートがペッシを連れて亀の中に入っていくのを眺めていると、リゾットはさっきの話だが、と俺が話を切り出した時のことを持ち出した。
「俺からも話しておくことがある」
「ああ、そうだったな。聞かせてくれ」
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