「アメリア、電話だぜ」

ホルマジオの声でハッと飛び起きた。
明らかに寝過ぎた。
リゾットは隠れ家についてなお起こしてはくれなかったらしい。
端末を渡してくれたホルマジオに礼を言ってその場で出た。
私が寝ている間の監視兼護衛だったのか、さっさと部屋を出て行くのを見送りながら何だか後ろの騒がしい電話に耳を傾ける。

『あ、やっと出やがったな!アメリア!』
「ああ、なんだ、スクアーロ。元気そうね。ティッツァは元気?」
『元気ですよ、アメリア。楽しい休暇をどうもありがとう』
「お気に召したようで、よかったわ」
『ティッツァ!そうじゃねーだろ!おい、お前何やったんだよ。ボスから暗殺命令でてんぞ』
「でしょうね」

スクアーロは私の返答が気に入らなかったのか少しの間沈黙して迷うように言葉を続けた。

『俺らがたまたま国外にいたからいいものの……いや、お前に追い出されたのか。何にせよ、こっからじゃ数日かかるからその間に逃げるなり何なりしろよ』
『見つけたら殺さざるを得ないですからね』
「ええ、ありがとう」
『では、もう二度と会うことがないように、祈っていますよ』
「……待って。ねえ、ティッツァーノ、スクアーロ、もし……お金が必要になったら、私の会社に電話してちょうだい。話は、通しておくから」
『女に養われるほど困っちゃいねーよ』
「ええ、そうね……言っておきたかっただけよ」
『お前よぉ……死ぬつもりじゃねーよな?先走んなよ、イタリアから出ちまえば俺らだって追いやしねぇんだから』
「分かってる。ありがとう、スクアーロ」
『一週間後……また電話する。それまで生きてろよ』
「そうね……じゃあ、さよなら」
『また、な』

電話を切って小さくため息をつく。
部屋の隅にかけられている上着を羽織り、デジタル時計を見た。
ああ、もう作戦の時間……。
もしかしたらあの電話も何度目かのものだったのかもしれない。
ホルマジオにお礼を言わなければと鈍い頭で思考しながら部屋を出る。
埃っぽい床を進み、軋まない階段を降りてリビングに行く。
新築から何年も放置しているのは、埃を積もらせることで侵入に気づきやすくするため。
思い入れがあるわけではないけれど、この家はこの作戦のために念のため押さえていたものだ。
家を買った時は、こんなことになるだなんて思っていなかったけれど。
手のひらに私の意思とは関係なく咲いた花を砕き、一瞬の懐古に目を細める。

「ごめんね、私なんかのスタンドになったばかりに、あなたまで」

スタンドは精神力の具現化だというけれど、どうなのだろう。
姿の見えないそれが私自身だと言われても、あまりピンとこない。
物言わぬ花は優しい情景と美しい半透明の花びらを散らして消えた。

「おはようアメリア」
「おはようリゾット。誰かさんが起こしてくれなかったせいでぐっすりだったわ」
「そうか。問題なければ作戦を開始したい。いいか?」
「問題ないわ。すぐに出発しましょう」

リゾットは頷き支度の整っている彼らに出発だと声をかけた。
ブチャラティ、アバッキオ、トリッシュと私、メローネ、ホルマジオ、ソルベ、ジェラートが亀に入りそのほかの面々が車に乗り込んだ。
ローマへはヘリで行くのが最も安全ではあったが、あのチョコラータを放置してローマ全域がカビに覆われるのを見ているわけにもいかず、交戦を前提とした陸路で行くことにした。
チョコラータ接触時の主戦闘員はプロシュートとイルーゾォ。
対セッコにはギアッチョとリゾット、ペッシを配置する予定になっている。
ブチャラティチームは温存したいと言ってなんとか戦闘員から外させたが、予備戦闘員としてナランチャのみ借り受けた。
原作ではカビにやられて満足に動けていなかったが、ナランチャは遠隔攻撃ができるため可能な限りトリッシュを中心とした索敵ポジションに置いておきたい。

「難しい顔してんなぁ」

フレーバー付きの水をホルマジオから受け取り方をすくめた。

「そりゃね、大詰めだから」
「あなた、すごいわ。私とそう変わらなそうなのに……すごく場慣れしているみたい」

トリッシュは1人掛けソファで膝を抱き寄せ、居心地悪そうに私見た。
私は思わず笑い、ジェラートたち暗殺チームと視線を交わした。

「ふっ、ふふ、すごく嬉しいけど私、10代じゃないわ。28よ」
「えっ!?そ、そうなの?ごめんなさい、私てっきり……」
「安心しろよアメリア、そのエロさは10代じゃあだせねぇ。なぁ、メローネ」
「太腿がエロい。内股が最高にエロい」
「は?ケツだろ」
「本人目の前にしてセクハラはやめてくれる?」

アジトじゃよくあるやり取りだから普段なら止めないけれど、ここにはブチャラティチームがいるのだからやめてほしい。
一応対外的なメンツというものもあるのだ。

「アメリアは喘ぐタイプ?それとも堪える?」
「俺は恥じらいつつも徐々に声が出る感じが好きだな」
「あんたの好みなんて知らないわよ。ソルベもジェラートも頼むから乗らないで」
「うわ想像した。エッロいなアメリア」

メローネがパソコンを閉じて私の隣に座りなおした。
いや、距離を詰めないで。
ぐっと顔を寄せてきたメローネを押し返して距離をとる。

「ねえ、勝手に私で妄想しないでくれる」
「アメリア、一緒にちょっとトイレ寄らないか」
「いい加減にしないか。女性の尊厳を傷つけるような物言いはこれ以上看過できないぞ」
「お堅いなァ、ブチャラティ。あんたはどーなんだよ。健康な男子なら夜お世話になってる女がいるだろ?」
「あんた達ね……私の部下なら礼節を持ちなさいよ。減俸よ」
「あんたは?アバッキオ。女なんて入れ食いですって顔しやがって、ほんとは童貞とかある?」

怖いもの知らずなジェラートに私がひやりとした。
暗殺チームからしてみればじゃれあいのようなものだが、彼らの口の悪さに慣れていないブチャラティチームには少し刺激が強すぎる。

「今すぐ口閉じねぇと二度と開かねぇようにするぞ」
「ぶっふほぉ!!っく、おま、お前面白いな!……俺にてめーが勝てると思ってんのか?」
「ジェラートお願いだから絡まないで。アバッキオ、相手にしちゃダメよ、彼らはイカれてるんだから」
「イカれてるは酷いな、アメリアはブチャラティとアバッキオがどんな女で抜いてんのか気にならないのか?」
「……そ、それは、ちょっと、気になる……けど、少なくともトリッシュの前で話すことじゃないわ。はい、終わり!続きはメタリカを食らっても元気な子から聞くわ」
「メタリカといえばリーダーとする時はどんなーー」
「リゾット!メローネにセクハラされてるわ!」
「冗談!冗談だぜ!」

次の瞬間メローネの腕から皮膚を突き破って5枚のカミソリが落ちた。

「っく、利き腕だぞ、リーダー!」
「自業自得。いい、あなた達?あと1日だけなんだから、お行儀良くしなさい」
「Si,mamma」
「問題児ばっかり中にいる……トリッシュ、本当にごめんなさいね、彼ら悪気しかないの」
「……あなたの苦労が推し量れるわ」