「あら」

目があって思わず声を上げてから、知らないふりをした方が良かっただろうかと口元を押さえた。
が、リゾットはプロシュートを伴ってこちらにきた。
仕事中、ではなさそうね。

「失礼、今度から気をつけるわ」
「何がだ?」
「あなたを見て見ぬふりをするってことよ」
「不都合な時はお前には見えないだろうから構わない」
「ああそう」

プロシュートは煙をよそに吐いてタバコを消した。
気遣いができる上に何をしても嫌味じゃなく様になる男だ。

「お前がこんな美人と知り合いとはな?」
「ああ……紹介してもいいか?表には出てないんだろう?」
「構わないわ。というか表に出てないのはそっちじゃない」
「そうだな。アメリア・バレッティだ」
「よろしく、プロシュート」
「リゾット……」

プロシュートは眉間にしわを寄せて責めるようにリゾットを見た。
暗殺チームのことをペラペラと話したのだろうかという勘ぐりの目でリゾットを見たプロシュートを遮り、首を振る。

「彼じゃないわ。私が知っているだけ。S-Bullet社はご存知?」
「そりゃあな」

まあ世界ランク10位には入る軍需企業だから、知らない人間も少ないだろう。
彼みたいに”特殊”な職業であればなおさら。

「あれは私の会社よ。これで疑問の答えにはなるんじゃないかしら」

プロシュートは本当のことか問うように片眉を上げてリゾットを見た。
リゾットは一も二もなく頷く。
そうでもなければ男一人の一晩を買うためだけに数百万も出せないだろう。

「それよりあなた達これから時間があるならランチでもいかが?」
「俺は構わない」
「ああ、もちろんだ」
「じゃあ決まりね。足はあるの?」
「向こうに車を停めてある」

仕事終わりだったのだろうかと探るような思考を振り払ってリゾットの横を歩く。
期限まで確実に一年を切った。
正確に何月かは分からないから、もしかしたらもう1ヶ月を切っているのかもしれない。

「困っていることはない?」

リゾットはチラリと私を見て不思議そうに僅かに首を傾げた。

「というと?」
「資金繰りだとか、知りたいことがあるだとか」
「何もない」
「そう、なら良いわ」

本当かしら。
待遇を理由に叛旗を翻すつもりがあるだとか、ボスの正体が知りたいだとか、そんなことは1ミリも考えていないの?
既に私から視線を外して黒塗りの車に乗り込むリゾットの背を見て内心だけでため息をつく。
ここ最近、必要以上に期日を意識してしまう。

「ほら、乗れよ」

後部座席のドアを開いて待つプロシュートに頷いて乗り込む。
彼も、2年後には。

「お金で解決できるなら、してみたいものだわ」

けれど好奇心は猫も暗殺者も殺す。
聞こえていたのかプロシュートが問いかけようと口を開いたのに首を振って遮った。

「アメリア、どこへいく?」
「この前話したコバルトにしましょう」