side:バッキー
倒れ伏したラムロウとは対照的に、俺はウィンターソルジャーからバッキー・バーンズとして目覚めていく。
ユイに触れたときに感じていた解かれていくような感覚が、脳をめぐる。
「ユイ、やめてくれ……もう、もういい、俺はもういいから……」
彼女の中にあったはずの作用の消失を起こす力が、いま俺の中にある。
作用を、俺を害する洗脳を、ラブクラックによる脳の破壊を、消失させていく。
ユイを失うくらいなら、洗脳されていた方がまだマシだ。
彼女から伝わる熱は痛みに変わっていく。
「バッキー……大丈夫か……?」
親友の声に顔を上げる。
「スティーブ……ユイが、俺の中に……」
「きっ、記憶が戻ったのか!?」
スティーブに僅かに頷き、ユイに顔を寄せた。
熱い。
焼けるように、蝕むように彼女を焼く熱に、何でも差し出すからユイを返してくれと懇願した。
「ユイ、頼む、起きてくれ……」
どうか、早く。
俺の中の薄暗い闇の部分が、彼女の力によってかき消されていく。
ナノマシンも、洗脳も、塗りつぶすように消え、彼女の力の断片が空いた穴を塞いでいく。
自分の中で起きていることをはっきりと知覚し、そしてユイの力がぴたりと働きをやめたことを感じた。
「ユイ、ありがとう……返すよ」
熱の源、俺が撃ち抜いた胸元に額を当て、祈る。
脳の中に彼女の断片があるからか、ユイの中に僅かながらに残る力の所在を知る。
弾丸が当たったとは思えない少しばかり赤く血管が浮き出た胸元に口付ける。
その瞬間、宇宙のような膨大なエネルギーが、星屑を散らしながら元ある場所へと、ユイの中へと戻っていった。
一瞬だったかもしれないし、永遠に等しい時だったかもしれない。
光の中で力を介し、ユイと繋がった。
けれど俺はその記憶を失い、瞬きの間に現実へと戻る。
「ユイ」