22
「緊張するな。本当に俺でよかったのか?」
「ラムロウさんにお願いしたら泣き崩れちゃったんで……」
ホークアイさんも遠い目をした。
分かるよその気持ち。
大の大人が目の前で泣き崩れた時は本当にどうしようかと思った。
スタークさんに、バッキーさんと結婚するんだ、とフラグじみた話をしたところトントン拍子に事が進み、正直私もバッキーさんも流れについていけないまま今日この日が来た。
行動力お化けじゃん。まじで。
扉を前に、それにしてもあっという間だったな、と息を吐き出した。
「マリッジブルーか?」
「いや、なんか感慨深いなぁと」
「俺も感慨深いよ。娘もいつか嫁に行く日が来ると思うと……うっ」
「ホークアイさん!?」
「悪い……さあ、行こうか」
「え、ええええぇ……」
一瞬目元を抑えたホークアイさんだったが、気を取り直して私に腕を差し出した。
少し照れくさいけれど、私はその腕にそっと手を置いてちゃんと前を向き直す。
音楽が鳴り、スタッフが扉を開けてくれる。
ああ、緊張する。
「大丈夫、綺麗だ」
「うっそ惚れそう」
「悪いがもう妻子持ちでな」
軽口を叩きながら一歩踏み込み、バージンロードの先にいるバッキーさんを見て、あまりのかっこよさに言葉を失う。
肩ほどまであった髪も短くなっており、整った顔立ちがいつもよりずっとよく見える。
うわあ、カッコ良すぎる。
もう、彫刻とかそう言うレベルじゃないな。
むしろバッキーさんの彫刻作って神殿に飾ろうかな。
「行くぞ」
バッキーさんの神々しさに惚けているとホークアイさんに手を引かれた。
みんないる。
微笑ましそうなロマノフさんにバナー博士、ちょっと泣きそうなロジャースさん、いつもと変わらないスタークさん、こちらにきて知り合ったたくさんの人たちが、私たちの結婚を祝うために来てくれている。
き、緊張する……!
先ほどよりずっと強くホークアイさんの腕を握って、どうにかバッキーさんのところまで登った。
階段で躓きかけたのをさりげなく支えてくれたホークアイさんはマジで一流のエージェントだ。
いや、嬉しくないだろうけど本当に感謝しかない。
「ユイ」
「ぴえ」
変な声漏れた。
直視できなくて斜め下に視線をやっていると鋼の指先が私の頬を撫でた。
くっ、イケメンだけに許される仕草。
「ユイ、綺麗だ」
「バッキーさん、も、あの、めちゃくちゃ、かっ、カッコいい、です……」
「ありがとう。キスしていいか?」
「ちょっと早くない?」
純白のウェディングドレスを引き寄せ、バッキーさんは誓いのなんたらなどお構いなしにキスをした。
「病める時も、健やかなる時も、俺の命ある限りお前を愛すよ」
「私も。バッキーさんの髪が長い時も短い時も、変わらず愛すよ」
「安心した」
バッキーさんは嬉しそうに私を左腕で抱き上げた。
急に上がった目線に怖くなってバッキーさんにしがみつけば、ロジャースさんが額に手を当て、スタークさんが口笛を吹いた。
ラムロウさんを中心に汚染された多くの人たちが泣き崩れながら拍手をしている様子は、感動的というよりカルト教団のそれだが見て見ぬ振りをする。
「俺を暗闇から連れ出してくれて、ありがとう」
首を振って、キスに応える。
私の手を引いて、連れ出してくれたのも、バッキーさんだ。
左手の薬指に、きっとこの後の人生で見る何よりも美しいリングがきらめいた。