▽ 30
ヒドラに戻ったのは、奴らがレーナを連れ戻そうとしないようにだ。
どこか晴れやかな気持ちで、洗脳コードを受け入れる。
もっと早く思い出せれば、彼女を傷つけずに済んだのに。
薄れゆくバッキー・バーンズの記憶の中で、俺はレーナを脳裏に描いた。
幸せに、なってくれ。
君を殺してしまった分、俺が全部引き受けてやるから。
頭に靄がかかったような、奇妙な喪失感と、満足感の中で思考が鈍る。
俺は、誰だ。
「ウィンターソルジャー」
目が覚めれば、俺を取り囲んだ男たちが、その虹はどうした、と俺の腹を指した。
虹。
視線を落として、ようやく脇腹に虹色のひび割れがあることに気づいた。
これは、レーナの。
「レーナは」
「お前が逃したんだろう。そのひび割れはどうした。移せるのか?」
レーナは逃げた。
あんなにも固執していたのに、今は手元にない彼女にどこか安堵している。
なぜ。
虹を見下ろせば、それは硬質な光を反射しながら、ひび割れている。
割れると死ぬ。
それだけはわかる。
魂が覚えている。
世界が虹色のひび割れに喰まれ、全てが平等に死ぬ。
そして割れるのは、俺が死んだとき。
「死ねば割れる。割れれば死ぬ」
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