▽ 01

「アマツマガツチ!!お願いです!この身一つでどうかお許しを……どうか北へお戻りください!!」

嵐龍・アマツマガツチ。
あまりに猛々しく、そして美しい姿に私は最後の瞬間だというのに今生でこの光景を見ることが出来た喜びに体を震わせた。
暴風に耐えながら、顔を上げる。
天災と呼んで然るべき、人間にはどうすることもできない脅威に、神を感じた。
私には、その羽衣の一端に縋ることしかできない。

「お願いです……この先には村が……」

アマツマガツチは私に目を向けると、泳ぐようにしてゆっくりとこちらに来た。
ヒレのような翼を少し動かすたび、地形を変えるほどの嵐が吹き上がる。
私の声など、きっと届いていないだろう。
村は、もう終わりだ。
すでに緊急の避難は進んでいるはず。
少しでも、私が時間を稼げれば、それでいい。

「アマツマガツチ……」

両手を広げ、来るべき最期に目を閉じた。
その時、嵐の中に咆哮が響いた。
腹の底から湧き上がる、恐怖。
アマツマガツチの神々しさとはまるで違う、悍ましい、悪夢。
まさか、そんなことがあるのだろうか。
伝説の、空想上の生き物、黒龍・ミラボレアス。
私は、絶望に目を瞠った。
この世の終わりを見てしまった。
ああどうか、叶うなら、あの邪龍ではなく、この美しいアマツマガツチに喰われたかった。
吹き抜ける風、凄まじい痛み。
それ以上に感じたことのない浮遊感に私はハッと目を見開いた。
晴天。

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