▽ 05
「つまり、そのミラボレアスっていう龍のブレスを食らった結果、お前とアマツマガツチって言うもう1匹の体が一つになった、とそう言うことか?」
私の要領を得ない推測と朧げな記憶の説明でよくそこまでまとめられたものだ。
感動を覚えつつ私は頷いた。
「ミラボレアスのせいなのかは分かりませんが、おそらく……私はもともと普通の人間でしたし……この傷跡もアマツマガツチの歯型です」
キャプテンさんは額を抑え、しばらく頭の整理をしてから頷いた。
とにかく今は回復に努めるのがお前の仕事だ、と絶対安静の紙を処置室のドアの表と裏に貼られた。
はい……。
せっかく抜糸したところだったのにまた傷を開かせてしまって申し訳ない。
「あの!お世話になります……!」
部屋を出て行くキャプテンさんの後ろ姿に声をかければ、ひらりと手を振られた。
ずいぶん人相の悪いお医者様だがその腕は村の医師をはるかに超え、村長の足の手術に同行した際に見た都市の医者よりもずっと優れているのが素人目にもわかる。
船乗りで船長で医者とは一体どういうことなのだろうか。
目を閉じて微睡むと、やはり体は限界だったのかすぐに眠りに落ちた。
けれど、眠りに落ちた感覚のまま目が開いた。
あれ、明晰夢ってやつかな?
空の上に浮いているような不思議な夢にきょろきょろと辺りを見回していると、私の体から白い何かがずるりと現れた。
風のような、波のようなそれは、次第にしっかりとした形を取り、嵐をまとった。
「アマツマガツチ……!」
威嚇音でもない、ゆったりとした喉を震わす音に体の力を抜いて一歩ずつ慎重に近づいた。
手を伸ばせば触れられる距離まで近づいても、アマツマガツチは理性を宿した目のまま黙して私を見つめている。
「あの……」
一噛みで死んでしまう矮小な人間の声など不快かと思ったが、まだ死んでいないところを見ると続けても大丈夫そうだ。
「あの、申し訳ありません、私の体にあなたを閉じ込めてしまって……傷が治り次第、この体は差し上げますので、どうか今しばらくのご辛抱を」
アマツマガツチは私の頬に顔を近づけると、ふぅ、と風を吹きかけた。
嵐龍と呼ばれる彼にしては随分と優しい風だ。
驚きつつ、一歩下がると、急激に意識が浮上する感覚がした。
「おい、お前、それ……ちょ、ちょっと待ってろ!キャプテーン!」
私に繋がる点滴を見ていたシャチさんが血相を変えて出ていった。
誰も彼も一体何なんだと体を起こすと、シャチさんに連れられたキャプテンさんが処置室に入ってきた。
彼も私を見て僅かに目を見開き、ずんずんと近づいてくると患者衣の裾を捲り上げた。
「わ、うわぁああ!な、なんですか!?」
「ただの診察だ。脱げ」
「そ、そう言ってください!私にも心の準備というものが」
目つきの悪い医者に気圧されながら上を脱げば、なぜ彼らが驚いたのか分かった。
私の体に、アマツマガツチの重殻……黒く硬い鎧のような鱗が傷を塞ぐように現れている。
「ROOM、シャンブルズ」
キャプテンさんの手に太刀が現れた。
えっ、なにそれ。
っていうか、キャプテンさんは医者でありハンターだったのか?
どんどん肩書きが増えていく……。
「スキャン」
切られる、と思ったが、ぞわりとした感覚の後、キャプテンさんは刀を翳しただけで満足したのかパッと刀を消した。
「右頬、胸部左下から鳩尾にかけて、左腕中央、左下腹部から右側腹部にかけて、右足付け根から脛の辺りまで」
シャチさんがキャプテンさんの声に合わせてカルテに何かを書き込んでいく。
「以上だ」
「すげー、重傷だった部分全部っすね」
シャチさんの言葉にキャプテンさんが頷き薄いゴム手袋をはいた。
「触るぞ」
「は、はい」
キャプテンさんの手がアマツマガツチの鱗に触れる。
触診のためか、ぐ、と押された。
「痛みはなさそうだな。感触はあるのか?」
「あると言えば、あるような……爪を押されているような感覚です」
「竜化症に似ているがお前の場合は取り込んだアマツマガツチの影響だろうな。傷の具合は見れなくなったが瘡蓋のようなものだろう」
ふむ、と自分の頬に現れた硬質な外皮に触れて少しだけ体を動かしてみる。
痛みも出血もない。
「動けそうです。掃除からでも働かせてください!」
「お前、大火傷に大量失血した自覚がないのか?絶対安静だって言ってんだろ」
寝てろ、と釘を刺され、壁に絶対安静の紙が貼られた。
3枚目?
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