▽ 十二話
「結局、おおくりからさんも泣いちゃったね」
「うるさい」
本丸全体の浄化のために札を貼り歩いていると、早朝だというのに昨日重傷を負って帰ってきたおおくりからさんと出会った。
これから寝直す気もないというので、穢れ具合を見るついでに朝ごはん作りを手伝ってもらうことにした私は、本丸内をゆっくりと歩きながら話しかける。
片手で顔を覆い隠すようにして静かに涙をこぼしたおおくりからさんの姿は、おそらくもう二度と見れないだろう。おにぎりは完食してくれた。
「うちの刀剣たちは涙腺ゆるゆるだなぁ」
無言でアイアンクローされた。
なんでや。
触れた指先から伝わる神気が、いつもの清浄なもので、少しほっとする。
穢れは消えたみたいだ。
「ここがキッチン。今日は時間もあるし土鍋で炊こうと思います。普段はあの炊飯器使ってるんだけど、これから人増えたらどうしようか悩んでる。そろそろ業務用の炊飯器注文しようかな……」
起きてすぐに研いでうるかしておいた白米は、良い感じに水を吸っているようだった。
ちなみにこの水、台所の土間にある手押しポンプから汲み上げた物で、よく冷えて質もいいものだ。
下手にミネラルウォーターを使うよりいいかもしれない。
「卵焼き、作れる?」
おおくりからさんは無言で首を縦に振った。
うん、心配だから横目で見ておこう。
とは思ったものの結論から言うと、私より上手だった。
「プロだ」
「この程度造作もないが」
「刀の癖にずるいぞ」
「人間の癖にできないのか」
「できますー余裕ですー」
土鍋を火にかけて、味噌汁を作ろうとしたところ、黄金に輝くふわふわ卵焼きが完成したのを見て私はプライドを打ち捨てた。
「……一口ください」
おおくりからさんが、包丁で切った一切れを私の口に放り込む。
熱いけど美味しい。
プロかな?
「あとは」
「サラダかな。野菜ないし」
「肉はないのか」
「あー、そうだね、生姜焼きでも作る?」
おおくりからさんはすぐに頷き、冷蔵庫からお肉をとりだした。
そうだよねぇ、男の子はお肉とかいっぱい食べないとだもんね。
ご飯多めに炊いておいてよかった。
そうこうしているうちに秋田くんとまんばさんが台所に走ってきた。
あれ、デジャブ。
「あー!大倶利伽羅さんも一緒なんてずるいです!僕たちも一緒に作りたかったです!!」
「起こせと言っただろ……」
ぷりぷりと怒る秋田くんと、何だか朝から疲れている様子のまんばさんを迎え入れ、お盆を持たせた。
「はい、じゃあ運んでくださーい」
「はい!」
綺麗な色をした卵焼きに目を輝かせた秋田くんは、元気よく返事を返してテーブルのほうへ運んでいった。
ふと、まんばさんがおおくりからさんとすれ違う時、「あとで話がある」と言ったのが聞こえた。
なんだか只ならぬ空気を察して私がまんばさんを伺えば、何でもないと首を振られる。
大丈夫かな。
仲悪いってことはないと思うんだけど……。
「主君!大変です!ご飯が炊けてないです!!」
秋田くんが炊飯器を覗き込んでこちらに絶望した顔を見せた。
「それは大変だ。じゃあ今から魔法を使って、3秒でご飯炊くから目をつぶってくださーい」
「えっ!?魔法ですか!?」
秋田くんが手で目を隠したのを見て、私は両手でよいしょと抱き上げた。
おお、手がふさがった。
まんばさんに土鍋開けて、と口パクで伝えると、小さくうなずいて土鍋のふたに手をかけた。
「1、2の3!はい、開けていいよー」
開かれた瞬間広がるお米の美味しそうな香りに秋田くんの顔が輝いた。
私もつい唾液を飲み下した。
お、おいしそう!
「ぅわぁあああ!!す、すごいです!」
「今日は土鍋で炊いてみました!予想以上に美味しそうじゃない?」
「美味しそうです!ほかほかでいい匂いがします!」
「さーあ、じゃあ秋田くんのお茶碗出して下さーい」
秋田くんを降ろしてそういえば、棚から自分のお茶碗を取って差し出してくれる。
可愛すぎかな。
「はい!」
秋田くんが差し出してくれた青空模様の可愛いお茶碗を受け取って、ご飯を山盛り盛ってあげる。
「食べれなかったらまんばさんが食べてくれるからねー」
「おい」
「食べきれます!」
「はい、じゃあまんばさんのお茶碗くださーい」
まんばさんは無言で自分のお茶碗を差し出した。
まんばさんのお茶碗は『傑作』と達筆で書かれた渋いものだ。
あんまり気に入ってないと思う。
「はい、次くりからさんね」
ちょっと縮めて呼んだけど特に何も言われなかったから良いことにしよう。
くりからさんのお茶碗は龍の模様が描かれているちょっと中二病っぽいやつ。
みんなのお茶碗は私が勝手に発注したやつだ。
頼めばすぐ来る審神者通販さん優秀です。
最後に私のお茶碗にご飯を盛って、食卓につく。
「こんのすけー」
私が呼ぶと、どろんという効果音付きでこんのすけが現れた。
カロリーを消費しない移動の仕方だ。
心なしか大きくなっている気がする。
あれ、これもデジャブ?
「はっ!なにやら今日のお米は違いますね!?」
「狐の嗅覚凄いな。今日は土鍋で炊いてみたよ。ほら、くりからさんもそこ座って」
全員が席についたので、いただきますと音頭を取った。
それぞれが私に続いてご飯に手をつける。
「この卵焼き美味しいです……」
ご飯食べてる秋田くんを見ると幸せになれる。
ほっぺに手を当ててふわふわ笑う秋田くんを撫で繰り回してくりからさんを見た。
素知らぬ顔で箸を進めているが、心なしか嬉しそうだ。
あれ、そう見えるだけかな。
「卵焼きと生姜焼きはくりからさんが作ってくれたんだよ」
「そうなんですか!凄くおいしいです、大倶利伽羅さん!」
「……慣れ合うつもりはない」
「喜んでもらえてよかった、って言ってるよ」
「おい」
だって副音声聞こえる気がする。
そもそもそんな顔赤くしてる時点でバレバレだぞ。見え見えだ。
「美味しい」
真顔で箸を進めながら、ぽつりと言ったまんばさんに、褐色の肌を赤く染めてくりからさんは撃沈した。
羞恥プレイかな?
私は生姜焼きでご飯を包んで口の中に放り込み、幸せを食んだ。
うちのおおくりからさん、極度の照れ屋だな。
「はぐー!皆さま料理がお上手でこんのすけは感動しております!」
だめだこのデブ狐早く何とかしないと。
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