▽ 八話
夕食の片づけを終えた私は、手入れ部屋の前で閉じられた襖をじっと見つめるこんのすけを見つけて声をかけた。
「こんのすけ、おおくりからさん起きた?」
「まだお休みです。疲労が溜まっておいででしたから明日の朝までは起きないでしょうね」
今日の晩御飯は秋田くんが捌いてくれたお刺身とまんばさんが作ってくれた味噌野菜炒めと私のお味噌汁だ。
せっかく作ったが、晩御飯の時にはまだおおくりからさんが起きて居なかったため、彼の分はこんのすけにあげた。
この狐何でも食べる。
「そっか」
起きたらお腹空いているだろうかと思い、一応おにぎりを夜食として持って来たのだが、こんのすけに聞いてからにすればよかったかな。
三つ握ったおにぎりのうち一つをお皿からとって、残り二つが乗った皿を手入れ部屋にそっと置いた。
その横に用意しておいたメモを置き、辛そうな顔で眠るおおくりからさんを少しだけ眺めて襖を閉じた。
「審神者様、何を置かれたのです?」
「おにぎりとメモ」
メモだけこっそりと取ってこんのすけに見せる。
『おはようございます。お腹が空いていたら食べてください。外で寝ているので、何かあればお声がけください』
「ここで一夜を過ごすおつもりですか」
メモを皿の傍に戻して、頷く。
「危険です」
「それは何となく分かってるよ」
縁はそうそう切れるものではないと秋田くんが言っていた。
だとするならば、おおくりからさんはきっと審神者に良い感情を抱いていないのだろう。
それはおそらく、縁を、断ち切りたいと思ってしまうほどに。
「おい、近侍が近くにいなくてどうする」
「毛布持ってきました!」
ずいぶん聞きなれた声がして顔を上げると、まんばさんと秋田くんがいた。
まんばさんが私の隣に腰を下ろすと、反対側には秋田くんが座って大きな毛布を二枚かけてくれた。
まんばさんと秋田くんが一枚ずつ取って、必然的に間に座る私には二重掛けになる。
ありがとうございます少し暑いです。
「……ありがとう」
「それは?」
「ああ、夜食。おおくりからさんに作ってみたんだけど、朝まで起きないらしいから一個食べちゃおうと思って」
食べる?とまんばさんに差し出せばぱくりと一口食いついた。
可愛いな。
餌付けしている感じある。
まんばさんの顔が緩んだ様子を見て、少し嬉しくなった。
「秋田くんもどう?」
「いただきます!」
おにぎりを食べた秋田くんは満面の笑みで私に抱き付いてきた。
「主君だいすきです」
「こんな塩握りで懐柔されちゃうなんて秋田くんが心配だなぁ」
柔らかな髪の毛を撫でてそういえば、まんばさんが小さく首を傾げ、ふと思い立ったように口を開いた。
「あんた無意識か」
何がだろうとまんばさんを見返すと、その反応で何を察したのか、まんばさんは布を被りなおして鼻のあたりまで隠してしまった。
彼の顔が少し赤く見えるのはなぜだろう。
「主君のつくるご飯には優しい気持ちがたくさん詰まっていますよ。大倶利伽羅さんが早く治りますように、元気になりますように、って思って握ってくれたんですよね」
「ダダ漏れ恥ずかしいです」
「付喪神は、末席といえど神の部類だからな。そういう祈りは、力になる」
「そう、よかったー」
「……本当だぞ」
「ん?疑ってないよ」
私があんまり軽く返したからか、まんばさんは念押しをするように言葉を重ねた。
私に凭れてうつらうつらとしている秋田くんの頭を膝に乗せて、毛布を掛けなおす。
夏は夜冷えするから、風邪ひかないようにね。
ゆっくりと頭を撫でていると、すぐにかすかな寝息が聞こえてきた。
池には蛍が飛んで、水面に移る月がとても綺麗だった。
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