▽ 九話

私はどうやらまんばさんに凭れて寝ていたようで、朝起きると目の前に布を被ったイケメンがいた。
刀を抱えるようにしてまだ寝ている。

「こんのすけ」
「ここに!」
「しー……今何時?」
「朝餉時でございますよ」

何時って聞いたんだけどこのデブ狐め。
はよ作れってことですか。
私の膝を枕に眠る秋田くんの頭の下に座布団を差し込み、こっそり立ち上がってその場を離れた。
危険だと推測されるおおくりからさんの傍に置いておくのはちょっと不安だけど、同じ刀剣男士を問答無用で斬ったりはしないだろうとあたりをつけ、特に未練もなくキッチンへ向かう。
昨日の晩御飯はまんばさんと秋田くんが頑張ってくれたので、私は味噌汁を作る片手間に揚げ出し豆腐を作っておいた。
あとはどうしようかな。
こんのすけに注文して魚やお肉、野菜には経費の3分の1以上をつぎ込んでいる。
今はおおくりからさんを含めて三口の刀がいるが、刀剣の数が増えるとその分経費も増えるらしい。
今使っているのは一般家庭レベルの冷蔵庫だが、いずれあの業務用冷蔵庫まで使わなければならなくなるのだろうか。
あ、ちょっと憂鬱。
懐かしい歌を口ずさみながら、朝食の準備をする。
アジのいい香りがキッチン周辺に漂い始めたころ、まんばさんと秋田くんが揃って走ってきた。

「どうしたの?」
「おい、あんた……起こせ」
「そうですよ!主君一人に朝餉の準備をさせるなんて!」
「じゃあ、お味噌汁配ってくれる?」
「はい!」

まんばさんが鍋を火から下ろし、秋田くんが注ぎやすいようにお椀とお玉も合わせて少し低いテーブルに置いた。
まんばさんは少しだけ慣れた様子で鯵の開きの焼き加減を見て、それぞれの皿に盛りつける。
私がすっていた大根おろしを置く場所を開けてくれるなんて気が利くじゃないか。

「まんばさん、おおくりからさんは?」
「まだ寝ている」

一膳分にラップをかけて、まんばさんはおおくりからさんの分を取り分けていた。
うちの初期刀がこんなにも優秀。
顕現して一晩しか経っていないというのに、さすが神様。
みんな揃って食卓に着くと、いつの間にかこんのすけまで待機していた。
いや、食事はあるからいいんだけど。

「おおくりからさん大丈夫かな」
「きっと大丈夫ですよ、主君」
「疲労も取れているようだったしな」

よほど疲れていたのか、手入れを施した昨日の夕方ごろから泥のように眠り、夜中起きた様子もなかった。
こんのすけは揚げ出し豆腐を喰らいながら、そろそろ目覚めるだろうと告げた。
貪り食う、という表現がぴったりなほどこんのすけは勢いよく食べていた。
この狐、初めて会ったときより太ってないか。

「ダイエットも、思慮に入れなければならないのか……」
「審神者様!おかわりはございますでしょうか!」
「……あるけど太るよ」
「その分働いていますから!」

いや、摂取量と消費量が明らかに違うんですがそれは。
まんばさんのお茶碗におかわりをよそってあげるついでに、こんのすけにも揚げ出し豆腐をあげた。
これ以上太ったら親しみを込めてデブ狐と呼んであげよう。
食事が終われば、すぐに秋田くんが食器を洗い始めてくれる。
当番制にしようかなとも思ったけど、こんな幼気な少年が頑張っているというのにお姉さん(年下)がうだうだいうわけにもいかない。
まんばさんが鍋やフライパンを、秋田くんが食器を洗い、私がそれを拭いて食器棚に入れるという一連の流れが出来た。
水仕事なので私も代わろうとしたのだが、まんばさんに上手く言いくるめられて、何故だか流しに立つ時間もずいぶん短くなった。
手荒れするとぼやいたからだろうか。
だとしたら何か申し訳ないな。
食器を大方片付け終えたところで、こんのすけがピンと耳を立てて私に声をかけた。

「審神者様、大倶利伽羅様が目覚められたようです」


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