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「髪切りたいなー」
――何気なく言ったその言葉が。
全ての、始まりでした。
spring splice
春ももう終わりかなぁなんて、ほんの少しとはいえ熱く感じ始めた気候にため息を吐く。さっきから通り道に並んでいる桜ももう散ってしまいそうだ。
今年もお花見はせずに終ってしまった……最後に行ったのは中学の時だろうか。友達とも家族とも時間が合わなくて行けてない。春がもう少し長く続けばいいのに。
……なんて。そう思ってる私だって、夏の準備に向かってるわけだけど。
「もー、サッチー……もう少し丁寧に書いてくれないかなぁ」
ずっと手に握っていた紙を見ればもう、握ってる部分からへろへろになってた。
紙には、とてもわかり安いとは言えない地図。
もう一度、桜の憂いより面倒なため息が出た。
――夏になる前に少し髪を切りたい。そう思ってぽつりと呟けば、ちょうどその時その場にいた父の友人が反応した。駅前におれの行きつけの美容室始があんだけど、なんてオススメされた。値段も学生にはすごく優しかったので、2つ返事で教えて頂いた。……頂いたのは、良かったんだけど……。
(――時間、過ぎそうだなぁ)
ちらりと携帯で時刻を確認すれば、予約した時間の5分前。近くにはいるだろうから、ちゃんと道がわかれば間に合うんだろうけど……生憎私はサッチの地図の理解も出来なければ、ここら辺の住所もわからない。なんせ新しい大学生活のために引っ越してきたばかりなのだから。サッチももうちょっと配慮してくれるべきだと思う。
「美容室 蝶………変わった名前だなぁ」
そんなに美容室に詳しいわけではないけれど……美容室に蝶という発想がよくわからない。でもとりあえず店の名前にちなんで蝶みたいな看板とかあったりするかもしれないなぁなんて、また辺りをキョロキョロと見渡しながら歩みを進めた、
………ら。
「なぁ!」
ぐん!といきなり右腕を引っ張られて一気に頭がフリーズする。え、な、なんです、か……!?私なにかしましたか!?
突然過ぎて内心ひいひい言ってる状態だけど、必死に冷静になりながら後ろを向く。もし怖い人だったらどうしようとか思ったけど、意外にも振り向いた先にいたのは結構カッコいいお兄さんだった。な、何事……!
「お前今さ、美容室 蝶って言わなかった?」
「え……い、いました……けど…」
「やっぱり!」
がしい!と右手を両手で握られた。目の前のお兄さんはものすごく良い笑顔。そしてもの凄いキラキラオーラ。
何が!?心臓がバクバク言ってる。びっくりしてますが!
「その美容室行くのか?道わからないとか?」
「あ、はい……知人が地図を書いてくれたんですが、全くで…」
「どれ?……あぁ、こりゃ確かにわかんねェな」
ちゃんとした地図でもわかりにくいとこにあンだ、なんて冗談ぽくお兄さんが言う。それじゃあどっちにしろ地図書いてもらった意味がないじゃないか……着いてきてくれれば良かったのに、何で仕事いれちゃうのサッチ!
その場にいないサッチに頭の中で文句を言っていれば、あ!とお兄さんが声をあげた。なんだろう?お兄さんに目を向ければ、ぴしっとキレイに90度下げられた頭。え………えぇ…!?
「突然スミマセンでした!おれ、そこの美容室で働いてるんで、つい」
「え、あ!……じゅ、従業員さんでしたか……!」
なんてこった、奇跡的……!
これでもし本当はナンパとかだったらどうしようとか一瞬思ったけど、お兄さんが片手に下げてた袋の中を見て疑惑は吹き飛ぶ。ワックスやらがぎゅうぎゅうに詰まってた。それからこの嘘だとも思えない喜び方ね。きっと大丈、夫…!
「んじゃそのまま案内しますよ」
「あ、ありがとうございます……!」
「いーえ!」
ニカっと笑って歩き出したお兄さんはすごくカッコいいなと思った。美容室で働いてるからかな。何より親切過ぎて泣きたい。お兄さんありがとう。
前を歩くお兄さんの後を追いながら、ふとはっとして時間を確認。す…すぎてる……!
「あ、あの!私予約時間過ぎちゃったんですが、大丈夫ですかね……?」
「わざわざ予約なんかしたンですか。大丈夫!うちの店たいてい人いないんで」
「………え?」
はい到着!なんてタイミングよく着いてしまった。一瞬おろおろしながら店を見れば、なんともお洒落な佇まいだった。わかりにくい場所にあるのが勿体ないくらいだ。尚更人がいないという言葉の意味がわからない。
首を傾げていれば、お兄さんは私の様子に気づかずに店の中に入って行った。慌てて後を追えば、お兄さんが店の奥に向かって声をかける。「マルコー!買ってきたぞー」「よーい」………よい?
「エース!!」
びくり!突然聞こえた大声に驚いて縮こまる。続いて、カツカツという早足の足音。
「お前は買い物にどんだけ時間かけてんだ!!」
「ちっげーよマルコ!道案内してたんだよ!客!!」
「言い訳はッ、………客?」
お兄さんを見るなり遅ェ!なんて叱ったその人は、ばっと体をずらしてお兄さんの後ろにいた私を凝視してきた。こ、怖い……!えっ、なにこの状況!?
困惑して言葉に詰まれば、お兄さんに背中を押される。自然と一歩前に出て、もう一人の人と正面から向き合う形になった。
視線がかち合う。
「え、えっと……13時から予約してた夏目小春です………」
………おちゃめな髪型だ。
春うらら
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――何気なく言ったその言葉が。
全ての、始まりでした。
spring splice
春ももう終わりかなぁなんて、ほんの少しとはいえ熱く感じ始めた気候にため息を吐く。さっきから通り道に並んでいる桜ももう散ってしまいそうだ。
今年もお花見はせずに終ってしまった……最後に行ったのは中学の時だろうか。友達とも家族とも時間が合わなくて行けてない。春がもう少し長く続けばいいのに。
……なんて。そう思ってる私だって、夏の準備に向かってるわけだけど。
「もー、サッチー……もう少し丁寧に書いてくれないかなぁ」
ずっと手に握っていた紙を見ればもう、握ってる部分からへろへろになってた。
紙には、とてもわかり安いとは言えない地図。
もう一度、桜の憂いより面倒なため息が出た。
――夏になる前に少し髪を切りたい。そう思ってぽつりと呟けば、ちょうどその時その場にいた父の友人が反応した。駅前におれの行きつけの美容室始があんだけど、なんてオススメされた。値段も学生にはすごく優しかったので、2つ返事で教えて頂いた。……頂いたのは、良かったんだけど……。
(――時間、過ぎそうだなぁ)
ちらりと携帯で時刻を確認すれば、予約した時間の5分前。近くにはいるだろうから、ちゃんと道がわかれば間に合うんだろうけど……生憎私はサッチの地図の理解も出来なければ、ここら辺の住所もわからない。なんせ新しい大学生活のために引っ越してきたばかりなのだから。サッチももうちょっと配慮してくれるべきだと思う。
「美容室 蝶………変わった名前だなぁ」
そんなに美容室に詳しいわけではないけれど……美容室に蝶という発想がよくわからない。でもとりあえず店の名前にちなんで蝶みたいな看板とかあったりするかもしれないなぁなんて、また辺りをキョロキョロと見渡しながら歩みを進めた、
………ら。
「なぁ!」
ぐん!といきなり右腕を引っ張られて一気に頭がフリーズする。え、な、なんです、か……!?私なにかしましたか!?
突然過ぎて内心ひいひい言ってる状態だけど、必死に冷静になりながら後ろを向く。もし怖い人だったらどうしようとか思ったけど、意外にも振り向いた先にいたのは結構カッコいいお兄さんだった。な、何事……!
「お前今さ、美容室 蝶って言わなかった?」
「え……い、いました……けど…」
「やっぱり!」
がしい!と右手を両手で握られた。目の前のお兄さんはものすごく良い笑顔。そしてもの凄いキラキラオーラ。
何が!?心臓がバクバク言ってる。びっくりしてますが!
「その美容室行くのか?道わからないとか?」
「あ、はい……知人が地図を書いてくれたんですが、全くで…」
「どれ?……あぁ、こりゃ確かにわかんねェな」
ちゃんとした地図でもわかりにくいとこにあンだ、なんて冗談ぽくお兄さんが言う。それじゃあどっちにしろ地図書いてもらった意味がないじゃないか……着いてきてくれれば良かったのに、何で仕事いれちゃうのサッチ!
その場にいないサッチに頭の中で文句を言っていれば、あ!とお兄さんが声をあげた。なんだろう?お兄さんに目を向ければ、ぴしっとキレイに90度下げられた頭。え………えぇ…!?
「突然スミマセンでした!おれ、そこの美容室で働いてるんで、つい」
「え、あ!……じゅ、従業員さんでしたか……!」
なんてこった、奇跡的……!
これでもし本当はナンパとかだったらどうしようとか一瞬思ったけど、お兄さんが片手に下げてた袋の中を見て疑惑は吹き飛ぶ。ワックスやらがぎゅうぎゅうに詰まってた。それからこの嘘だとも思えない喜び方ね。きっと大丈、夫…!
「んじゃそのまま案内しますよ」
「あ、ありがとうございます……!」
「いーえ!」
ニカっと笑って歩き出したお兄さんはすごくカッコいいなと思った。美容室で働いてるからかな。何より親切過ぎて泣きたい。お兄さんありがとう。
前を歩くお兄さんの後を追いながら、ふとはっとして時間を確認。す…すぎてる……!
「あ、あの!私予約時間過ぎちゃったんですが、大丈夫ですかね……?」
「わざわざ予約なんかしたンですか。大丈夫!うちの店たいてい人いないんで」
「………え?」
はい到着!なんてタイミングよく着いてしまった。一瞬おろおろしながら店を見れば、なんともお洒落な佇まいだった。わかりにくい場所にあるのが勿体ないくらいだ。尚更人がいないという言葉の意味がわからない。
首を傾げていれば、お兄さんは私の様子に気づかずに店の中に入って行った。慌てて後を追えば、お兄さんが店の奥に向かって声をかける。「マルコー!買ってきたぞー」「よーい」………よい?
「エース!!」
びくり!突然聞こえた大声に驚いて縮こまる。続いて、カツカツという早足の足音。
「お前は買い物にどんだけ時間かけてんだ!!」
「ちっげーよマルコ!道案内してたんだよ!客!!」
「言い訳はッ、………客?」
お兄さんを見るなり遅ェ!なんて叱ったその人は、ばっと体をずらしてお兄さんの後ろにいた私を凝視してきた。こ、怖い……!えっ、なにこの状況!?
困惑して言葉に詰まれば、お兄さんに背中を押される。自然と一歩前に出て、もう一人の人と正面から向き合う形になった。
視線がかち合う。
「え、えっと……13時から予約してた夏目小春です………」
………おちゃめな髪型だ。
春うらら
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