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今日は天気がいいから家事をやろう。
清々しい朝を迎えてからの、ピンポーンという来訪者の音。




Spring Splice




「急に来られたら片付いてないよばかー!」
「急じゃねぇっての!この間ちゃんと連絡しただろ!?」
「う…サッチ私肉じゃが食べたーい!」
「話を逸らすんじゃありません!」


サッチが来る日をすっかり忘れてた。私を心配してる様子見もあるけど、サッチとは元々仲が良い。第二のお父さんでありお兄ちゃんみたいであり、友達のようだ。だからほんとはお父さんに任されなくたって、しょっちゅう遊んだりしてると思うんだよね。今もそうだし。
…ん?遊ぶのと面倒は違うか。まぁどっちも似たようなもんだよね。


「なんだ、言ってる割りに片付いてんじゃん」
「今日は丁度片付けしてたの!女の勘かなこれ」
「絶対違うと思う。つか、そこは普段から綺麗にしてるって誤魔化すとこだろ」
「あ!」
「はっははーおばかさんめー」


サッチがくしゃくしゃと頭を撫でてきた。撫でるというより押し付けるに近いかもしれない。痛い。
サッチは冷蔵庫を漁りだした。だいたいサッチがここに来て最初にするのは食材チェックだ。私がご飯をせがむからだと思う。現に今も肉じゃがせがんだし、作ってくれるんだと思う。材料もあったはず。


「家事頑張ってんだなぁ。で、料理は?」
「すぐには出来ないよ!でもこの間シチュー作った」
「それお前もとから作れるやつじゃん」
「まぁね。あ、そういえばそん時にね、店長さんに会ったの」
「店長?」
「美容室の」
「え、マルコ?」


調理器具を出している手を止めて、サッチが振り返った。そういえば店長さんの名前はマルコでいいのかな、なんて今更ながらに思った。名前までは覚えてなかった。美容師と客なら、自己紹介の必要もないし。


「マルコ、さん?美容室 蝶の店長さん」
「あぁ、うん…マルコで合ってる。そうか、名前ちゃんと言ってなかったな」
「うん」


まぁ、知ったところで何かあるわけじゃないんだけど…。
「どこで会ったんだよ」なんて言うサッチにスーパーと答えた。また信じられないという顔をしてきたから、インスタントだってと返した。


「インスタントって…あいつ体壊すぞ…」
「ねー。だからサッチのとこでご飯食べてるのかな」
「それ聞いたら迂闊なもん出せねぇじゃん、まったくよー」


なんて言いながら、サッチは全然困ってないみたいだった。やっぱり仲いいのかなとも思ったけど、サッチ自体良い人なんだなと思った。サッチは良い主夫になりそうだなぁ。
…主夫といえば…。


「ねぇ、サッチ」
「んー?」
「店長さん、結婚とかしてないんだね」


……あれ?
ぴたり、と一瞬空気が止まった気がした。何か言ってしまったかと思ったけど、サッチが特に変わった様子もなく「おー」とだけ返した。…気のせいだったのかな。


「なんで?」
「店長さんね、一人だと作るのが面倒って言ってたの。だから結婚とかしてないんだなーって」
「あぁ…そうだな」
「髪型ちょっと変わってるけど、見た目いいし性格も悪い感じしないのに、なんでだろうね?」
「…そうか?見た目怖いし性格もキツいだろ。語尾によいとかついてるし」
「えー。語尾によいってのは確かに何かと思ったけど、慣れると面白いよ。あ、面白いっていうのも失礼か」
「……」
「まぁ結婚はともかく、お店に人が来ないっていうのは不思議だなぁ。店長さんもそうだけど、従業員の人もすごく良い人だったのに、」
「小春」


サッチが静かに、でもぴしゃりと止めるように言う。


「…一個聞きたいんだけどさ、お前…マルコのこと好きになってたりする?」
「え…?」


何を、いきなり…。
意味がわからなくて、理解が遅れた。好き?私が?店長さんを?それって恋愛対象ってこと?
なんでそんなことを言ったのかと思ったけど、作業を止めて私を見るサッチの顔は真剣だ。冷やかしでも何でもないと思う。


「…ううん。良い人だとは思ってるけど、そんなつもりはないよ」


こういう時のサッチには、ハッキリ言った方がいいということを知っていた。
サッチは「そっか、悪いな急に」と言って笑った。それに対してどもりながら頷いてから、座り込んでクッションを抱き締めた。

――どういう意味なんだろう。聞いちゃいけないことだったのかな。
そういえば、前にもそんな話をした気がする。私が髪を切ってすぐの頃、昔色々あったんだ、ってサッチは言っていた。接客スマイルがどうとかも。もしかしたら、それに関係しているのかもしれない。まだ、終わってなかったりするのかな。
なんにせよ、この話はあんまりしないようにしよう。人の事情に立ち入り過ぎるのは、よくないもの。


暫くして、できたー!と肉じゃがを持ってきたサッチには、いつもとおんなじ笑顔があった。
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