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一人暮らしは全然いいんだけど、たまに寂しくなるのと家事がちょっと難点。たまに来てくれるサッチが救いだけど、出来れば毎日ちゃんとしたの食べたい。もっと料理覚えなきゃだよなぁ、でもどっちにしろめんどくさくて作らない気もする。意味ないなぁ。

そんなことを考えた、ある日の夕方。





spring splice




「あれ」
「ん?」


とりあえず何かに挑戦してみようかと思いたってやって来たスーパー。来てから何を作るか決めてなかったことに撃沈して、そういえば飲み物がないなと思ってお茶と牛乳をいれたところ。
見知った姿が見えた。


「うわ……お久しぶり、です?」
「そんなには経ってないがねい。まぁ、こんばんは。買い物かい?」
「まぁ……スーパーなんで」
「……そうだねい」


お互い僅かながらに動揺した素振りを見せながらも、大分落ち着いた会話ができた。これで会うのは三回目かぁ。初めて会った時はすごく心配した覚えあるけど、こうしてみると普通に大人の人だ。
買い物かい?の流れは、流してあげることにして。


「店長さんも、買い物ですか?夕飯とか?」
「あー…まぁ、そんな感じだねい」
「……インスタントラーメン…」
「………1人だと、作るのが面倒なんだよい」
「あ、それはわかりま、す……けど」


居酒屋に通ってる人が、そんなでいいのだろうか。サッチの知り合いで大人の人だから、勝手に料理とか出来るんだと思ってた。思いこみはよくないよなぁ。ちょっと申し訳ない。でもやっぱり、インスタントはどうかなとも思ってしまう。自分のこと棚にあげてって感じだけど……。


「サッチがいると、どうも自分で作る気になれねェ」
「それもわかります!まぁいっかなーみたいな」
「ああ。けどそれはそれで癪にさわるからなんか作ってはみるけど、どうも上手くいかなくてよい」
「ですよね。サッチあれでもプロだし」
「居酒屋いって注文した方が早いしねい」
「そ……れはしたことないですけど、やっぱり作ってもらった方がいいですよね」
「よい」


そこまで話して、あれ?と固まる。本来の目的が飛んでいってしまった…!


「どうかしたかい?」
「いえ……私それをなんとか自分でご飯作れるようになろうと思ってスーパー来たんでした」
「そうかい。そりゃあ悪いことしたねい」
「いえ店長さんのせいでは……でもすっかり作る気なくなっちゃったなぁ」


サッチのご飯がおいしいのには、別の訳もある。
サッチが作ってくれるということは、だいたいはサッチも一緒に食べてくれるのだ。お店よりやっぱり手作りがいいし、1人で食べるよりは複数で食べた方がおいしいに決まってる。サッチの料理はあったかいんだ。心が、あったまる。だからサッチの料理は、おいしい。

誰かとご飯を食べれるのは、幸せだと思う。


「なんか簡単に作れるのってないですかねぇ…」
「作る気失せたんじゃなかったのかよい?」
「そうですけど……やっぱり貰いっぱなしもいやだなぁって」
「あー……そうだねい……」


店長さんは顎に手を当てて考える素振りを見せた。……そういえば、すごく長く会話に付き合わせてしまっている…!店長さんにだって予定があるのに、迷惑なことしてるなぁ。いつもだったら会ったばかりの人にはこんなことしないのに。うわぁもう何してるんだろう私……!

1人で大反省会を繰り広げて、でも店長さんは簡単な料理を考えてくれてるみたいだから今は引けない。何か答えを貰ったら、じゃあそれにしますっていって引き上げよう。よし、それなら多分大丈夫……!


「鍋、とか」
「え、1人で?」


……………あれ!?

たった今決めたはずなのに、さっそく会話を広げてしまった。でも、でも、鍋って……!確かに簡単だしおいしいし満足出来ますけど1人鍋って…!


「あ、や、1人鍋…も、いいですよね!1人占めーみたいな!」
「いや、今のは完全におれが悪いよい…」
「いやそんなえっと…!」


必死にフォローしてみれば、店長さんはそれを見て笑いだした。笑われてる私……。複雑な気持ちだ…何してるんだ私……。


「わかった、じゃあ鍋は今度食べます!」
「1人で?」
「違いますって!そんな楽しそうにしないで下さいっ!えーっと、じゃあサッチ…は、でも…うーん……」
「……」
「あ、店長さんと私で作ってサッチに食べてもらうとか!そしたら解決です!」


言ったとたんに、ぎょっと開かれる目。あれ?私今なに言った…?またしても疑問を感じて振り返ってみれば、これは遠回しというかダイレクトに誘ってしまったことに気づいた。うわなにそれ恥ずかしい…!本当に今日は何してるんだろう私……!
店長がぶっと吹き出して笑いだした。解決ってなんだよい、と至極楽しそうだ。ごめんなさい、ですよねそうですよね…!


「あ、あの……っ」
「くっ……いい、よい。鍋は作るとは言わない気もしたけどねい、おれが言い出したことだし、責任はとるよい」
「え、そんな無理しなくても…!」
「無理じゃないし、飯は人と食った方がうまいだろい?」


まぁ、いつかな。店長さんはそう言ってまた笑った。よくよく考えたらこれ社交辞令でよかったな……多分向こうはその気だったんだろう。

顔が熱い。恥ずかし過ぎた。動揺して心臓がばくばくいってる。


本当に今日は何をしてるんだか、私は……。
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