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君を連れていきたい


 あるじさまは、ぼくたちにかんしんがないんだ。

 始めにそう言ったのは今剣という短刀だった。
 特別仲が良いわけではなく、言葉を交わすこともあまりしない。けれど、本人の持ち前の明るさと、子供特有の高い声とその容姿が相まって、今剣が居るだけでこの本丸に寂しさはないように思えていた。
 ―――流石、写しの俺とは違う。
 存在感の差。空気の差。本物の名だたる名剣は、やはり俺のような穢れた刀とは違うのだ。
 他の刀はどうか知らないが、たった二人しかいない本丸で、自分以外で会った刀剣男子は今剣だけだ。当然比べる相手も彼しかいない。
 つまらなそうな今剣の横顔を見ながらそう考え、その視線を辿る。
 閉じたままの正門は、開く気配もない。

「やまんばさんは、たいくつではないのですか?」
「……俺の名前は山姥切国広だ」
「しってますよ、あるじさまのまねです。さびしいので、これぐらいゆるしてください」
「……」

 ――あるじ。
 その言葉に、胸がざわつく。

 ぶすーと口を尖らせ、再び正門を眺める今剣は俺の反応は気にならないらしい。
 「やまんばさん」とは確かに主が呼んだものだった。たった一回しか会ったことがない主。たった一回しか呼ばれたことがない呼び名。
 あるじ。
 どくり、どくりと。心臓がうるさくなるのがわかった。
 かぶっている布を、ぎゅっと握る。

「やまんばさん、ぼくは、おもうのです」
「……なんだ」

 歴史を改変しようとする歴史修正主義者。それを阻止するために戦う付喪神……通称、刀剣男子。
 その刀剣男子を束ねる審神者。
 刀剣男子は審神者のもとで、審神者を主として仕え、戦う。審神者がいなければ、何も出来ない存在。
 それは俺達全員が知っている前提で、主さえも知っているはずの設定。
 だから俺達はひたすら、彼女を待つことしかできない。
 それしかしてはいけないというのに。

「あるじさま、こっちにこないかなあって」
「お前……ッ!?」

 ばっと横を向き今剣を見れば、彼は何食わぬ顔で続けた。

「『げーむ』できょうみをもってくれないなら、げんじつにすればいいのです」

 そういうことですよね?と、そこでやっと俺を見た今剣の目にはためらいがない。冗談でも何でもなく、おそらく、いや十中八九本気で、今の言葉を口にしたのだ。

「俺は、っ……その……」

 ――これは、よくないことだ。
 とりあえず何かを口にすべきだと思い口を開いたが、何を言っていいかはわからなかった。
 いや、正確には頭ではわかっている。全く良くない。恐ろしいことだ。してはいけないことだ。駄目だと言わなければならないことだった。
 けれど結局、言葉は出ず。

「ねぇ、やまんばさん」

 赤い瞳が逸らされぬまま、今剣がゆっくりと俺に向き直り、そしてまたゆっくりと、笑顔をつくる。
 心が、揺れる。
 ……あぁもう、どうしようもない。


「かみかくし、しましょうか?」


 にこりと笑った子供も、俺も。
 間違いなく、神だった。
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