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ばんとうさん
審神者から届いた書類をひとまとめにし、机でトントンと揃える。裏口から聞こえる「お疲れ様でしたー」というバイト君の声に返事をして、今日の業務は終わり。
時の政府が管轄する審神者御用達「万屋」は、本丸同様にちょっと特殊な空間に設置されている。
外観は昔ながらの茶屋って感じだけれど、中の造りも売るだけでなくちょっと寛ぐことも出来る仕様。茶菓子も扱っている。
室内は、入り口から奥にある会計場所まで真っ直ぐ続く道が部屋を二つに分けている。左側は刀剣に合わせた和室で、畳から家具まですべて和式。逆に右側は審神者に合わせて洋式。フローリングの床に、ソファもある。
個室の居酒屋みたいなもの、と私は認識しているけれど、スペースを完全に閉めてしまうと狭く思えてしまうので、どちらの部屋も内側の壁はなく、扉もない。もちろん設置することも出来るが、わざわざ希望する審神者は今のところいなかった。
売り物は並べることはなく、機械での購入が主。入り口にある端末から購入ボタンを押し、受信した情報を見て店員が用意し、渡す。並べる必要がないのは、審神者にとっては見て選ぶまでもないからだ。
会計場所より更に奥は倉庫付きのワンルームハウスみたいなもので、商品管理の部屋と、店員がごろごろ住める部屋がある。テレビにキッチンにお風呂にベッドにと、設備はばっちり。部屋は畳の部屋だけど、カーペットを敷いたので洋室に思える。全部店主の趣味だ。
万屋は基本的に店の内装もすべて時の政府が決めているけれど、私の担当する相模地区はその辺りがゆるい。
この寛ぎスペースもうちの万屋にしかないもので、三十路越えの厳つい店主が「さびしいから和気あいあいとした店にしたい」と革新的な判断をしたからだった。
(……作って満足して、旅に出たんですけどね……)
あのおっさんいつ帰ってくるんだ、と苦笑してみるものの、店主が帰ってくるわけでもない。
それに、時の政府内の各部署をたらい回しにされていた私を引き抜いてくれたのはあの人で。店を押し付けられたって、やっぱり感謝の気持ちは大きかった。
たまにふらっと帰ってきた時に突飛なことを提案してくるのは、困るけど……。
そういう提案も、最近始めた食料の取り扱いも、店を賑やかにするためだってことを、私は知っていた。
それに、最近は一人で店にいる寂しさも、なくなっていたから。
「あっ、番頭さん待って、もう閉める気だった?」
さてはて、本格的にお店の締め作業に入ろうかな。持っていた書類をファイルにとじ、身体をぐーっと伸ばしたその時。
ひょこり、と顔を出すホスト……もとい刀剣の姿。
入り口から顔を覗かせ、しゅんとしたように様子を伺う姿はかっこいい見た目に合わず、片手に下げたエコバッグが眼帯による怖いイメージも打ち消していた。
思わず、吹き出す。
「……またですか、光忠さん」
「……またです、番頭さん」
困ったように笑い肩をすくめる、最近の常連さんをちょいちょいと手で招き入れる。申し訳なさそうに入ってくる姿も、慣れたもの。
発注受付は24時間営業だけど、店頭販売は夕方で終了だ。
けれどやっぱり今日もまた……時間外勤務のようで。
ゆるゆると締まらない顔のまま、問いかける。
「今日は何の野菜ですか?」
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時の政府が管轄する審神者御用達「万屋」は、本丸同様にちょっと特殊な空間に設置されている。
外観は昔ながらの茶屋って感じだけれど、中の造りも売るだけでなくちょっと寛ぐことも出来る仕様。茶菓子も扱っている。
室内は、入り口から奥にある会計場所まで真っ直ぐ続く道が部屋を二つに分けている。左側は刀剣に合わせた和室で、畳から家具まですべて和式。逆に右側は審神者に合わせて洋式。フローリングの床に、ソファもある。
個室の居酒屋みたいなもの、と私は認識しているけれど、スペースを完全に閉めてしまうと狭く思えてしまうので、どちらの部屋も内側の壁はなく、扉もない。もちろん設置することも出来るが、わざわざ希望する審神者は今のところいなかった。
売り物は並べることはなく、機械での購入が主。入り口にある端末から購入ボタンを押し、受信した情報を見て店員が用意し、渡す。並べる必要がないのは、審神者にとっては見て選ぶまでもないからだ。
会計場所より更に奥は倉庫付きのワンルームハウスみたいなもので、商品管理の部屋と、店員がごろごろ住める部屋がある。テレビにキッチンにお風呂にベッドにと、設備はばっちり。部屋は畳の部屋だけど、カーペットを敷いたので洋室に思える。全部店主の趣味だ。
万屋は基本的に店の内装もすべて時の政府が決めているけれど、私の担当する相模地区はその辺りがゆるい。
この寛ぎスペースもうちの万屋にしかないもので、三十路越えの厳つい店主が「さびしいから和気あいあいとした店にしたい」と革新的な判断をしたからだった。
(……作って満足して、旅に出たんですけどね……)
あのおっさんいつ帰ってくるんだ、と苦笑してみるものの、店主が帰ってくるわけでもない。
それに、時の政府内の各部署をたらい回しにされていた私を引き抜いてくれたのはあの人で。店を押し付けられたって、やっぱり感謝の気持ちは大きかった。
たまにふらっと帰ってきた時に突飛なことを提案してくるのは、困るけど……。
そういう提案も、最近始めた食料の取り扱いも、店を賑やかにするためだってことを、私は知っていた。
それに、最近は一人で店にいる寂しさも、なくなっていたから。
「あっ、番頭さん待って、もう閉める気だった?」
さてはて、本格的にお店の締め作業に入ろうかな。持っていた書類をファイルにとじ、身体をぐーっと伸ばしたその時。
ひょこり、と顔を出すホスト……もとい刀剣の姿。
入り口から顔を覗かせ、しゅんとしたように様子を伺う姿はかっこいい見た目に合わず、片手に下げたエコバッグが眼帯による怖いイメージも打ち消していた。
思わず、吹き出す。
「……またですか、光忠さん」
「……またです、番頭さん」
困ったように笑い肩をすくめる、最近の常連さんをちょいちょいと手で招き入れる。申し訳なさそうに入ってくる姿も、慣れたもの。
発注受付は24時間営業だけど、店頭販売は夕方で終了だ。
けれどやっぱり今日もまた……時間外勤務のようで。
ゆるゆると締まらない顔のまま、問いかける。
「今日は何の野菜ですか?」
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