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ばんとうさんと光忠さん


 万屋は基本的に審神者と近侍が二人で訪れるものだけど、最近、とある本丸の刀剣が一人で訪ねてくる。
 来る人は毎回バラバラだけど、そのきっかけを作り、結構な比率で来ているのが光忠さん。
 ただし何か事情があるのか忙しいのか、やって来るのは夕方の閉店間際だけど……。
 審神者とやって来る刀剣と違って、一人で来る彼らは話しやすく、なんかんやで親しくなってきていた。

「番頭さん、僕はこれでもね、間に合わそうとはしてるんだよ……?」
「えー、間に合ったことありましたっけ?」
「……な、い……けど……」
「うん」
「……いつもごめんね、番頭さん」
「いえいえ〜」

 会計場所にある椅子からぴょんと降りて、靴を脱ぎ和室スペースに上がり込む。
 うなだれる光忠さんに向けて、座布団を出しながら「店の扉閉めてくださーい」と告げると、ガっガっぴしゃん!と立て付けの悪い音がすぐに聞こえる。
 常連さんといっても、あの扉を閉めるコツはまだ掴めないんだなあ。ジーパンのポケットに入れていた店の鍵を、何も言わずポイと投げた。

「うわっ、……もう、番頭さん!」
「さすが刀剣男士ですね〜!反射神経が違う!」
「……ありがとう。でも、急に投げたら危ないよ?あと大事な鍵を客に預けるのも、よくないと思うけど」

 困ったように鍵を眺める光忠さんに「何を今さら」とまた吹き出してしまい、誤魔化すように座布団をぺしぺし叩いて急かした。

「光忠さんは信用してるんで大丈夫ですよー」

 だから早く鍵閉めてください、と暗に急かすと、光忠さんはきょとんとした顔をしたあと、苦笑した。

「……そう言ってくれるのは、嬉しいよ」

 でも気をつけてね、とちゃっかり付け足す光忠さんはなんというか、オカン。
 買い物かごを畳にぽんと置いて、よいしょという声と一緒に和室スペースにあがってきた光忠さんに、今日入荷した商品のリストを差し出した。
 顎に手を添え悩む姿は絵になるが、考えている内容が夕飯と明日の朝食の献立だとは、誰が思うだろうか。
 真剣にリストを眺める姿を、じっくり眺める。

「んー、どうしようかなあ……あ、番頭さん、お茶いただいていい?」
「えー、お茶うけあったかなあ」
「あ、お構い無く」

 お構い無くと良いながら茶を要求するあたりが矛盾。
 が、面白いので何も言わずに立ち上がり、従業員用の部屋に行きお茶を煎れた。
 一応お茶うけがないか探してみたところ、店主の差し入れで送られてきていたカステラを棚から発見。賞味期限も大丈夫そうだったから、それを開封しないままお盆に乗せてしまう。

「光忠さん、お茶ですよ〜」
「はーい」
「あ、光忠さん茶柱」
「ほんとだ。番頭さんどうぞ」
「いやいや、光忠さんどうぞ。どうせ本丸では煎れる側で選べないでしょう?」
「……そうなんだよねえ。ついつい鶯丸さんにあげちゃって」
「どうぞどうぞ。私はオールウェイズ自分のものなんで」
「……おーるうぇいず?」

 番頭さん、僕英語はまだ覚えきれてない、とふてくされたように口をへの字にする姿が面白い。
 そっと控えていた英和辞典を差し出してみれば、ちらりと一瞥し「もういいよ……」とため息。

「……顔がにやけてるよ」
「えへへ。かっこよく決めたいって言ってる光忠さんがかっこ悪いと、ほんと面白くて。まあ普段から面白いんですけどね。オカンだし」
「僕は常に格好よく決め、……え、オカン?」
「オカン」

 とんとん、と指で商品リストを叩く。指し示すのは野菜の項目だ。
 ほぼ毎日、スーパーで夕飯を決める母が如く悩む姿はとても笑えて。安売りなんかすると大歓喜するところも、完全に主婦。いや、主夫。

 にこりと笑って見せれば、光忠さんは顔をしかめた。


「……番頭さん、僕もたまにはおこるんだよ」
「えー、おこるんですか?こわいなあ。じゃあ気まずいからお店早めに閉めようかなあ」
「あ、待ってちょっと待って、それは困る!番頭さん今のなし!」
「えー」
「番頭さん!」

 からからと遠慮せず笑い声をあげる。光忠さんが焦り半分、呆れ半分といったふうに見つめてきたが、気づかないふりをした。
 ふふ、と最後に息だけで笑い、カステラを差し出した。

「まあ、これでも食べてくださいよ」
「食べたらさっきの無しにしてくれる?」
「それはちょっと」
「……番頭さん」
「あはは、冗談ですよーう。じゃあ痛み分けってことで、キャベツあげます。今度なんか作ってください」
「カステラとキャベツ料理で交換ってこと?いいよ、なんか作ってきてあげる」
「やったー!」

 毎日お買い物に来るのだから、きっと料理もおいしいんだろうなと興味があった。
 思わぬ約束が出来てほくほくしていると、光忠さんがカステラを手に取り開封し出し――あれ?首を傾げる。
 光忠さんのことだから、持ち帰ってお土産にするのかと思ったのに。
 にやり、といたずらっ子のような笑みを浮かべた光忠さんが、口を開く。


「『オカン』はね、外に行く時くらいしか贅沢出来ないんだよ」


 ぱちり。一瞬反応が遅れ目を瞬いたが、私もすぐににやりと笑い、席を立った。

「フォークとお皿、取ってきますね!」
「番頭さんの分もね」
「もちろん!」


 光忠さんはやっぱり、面白い方だ。
 カステラはしっとりしてて美味しくて、二人してはしゃぎながら食べた。



本日のお買い上げ:キャベツ、カステラ。
売り上げ:ゼロ。
入荷予定:キャベツ料理。
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