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それを切り開くための能力ならと思う


 


リリーを追い出してから実に数ヶ月。


文句や下手したら追いかけてくる可能性も考えていたのだが、リリーは「お前私がイナクてもとらふぁる君とがーろー君には旨いパスタ捧げろヨばあかばあか!はげ!!」等と喚き叫んだだけで、特に何をされることもなくすんなりとわかれることができた。おれとしてもそれを望んでいたのだから、もしかしてなんて甘い考えは捨てて前に進み続けた。…それでもやはり忘れきれるわけもないので、とらふぁると、おれが知らない間に作られたらしい、がーろーにはパスタを捧げることにしている。ただし、たまにだ。


「船長ー、いつここ出るんすかー?」
「……」
「…ま、おれは楽しいからいーけどっ!」
「そうか。油断して捕まるなよ」
「あーい!」

シャチが嬉々として酒屋に入っていく。また今夜も飲むらしい。


リリーと別れ、航海を続け、遂にはシャボンディ諸島までたどり着いた。ここまで来てしまえば、あとは魚人島を経て新世界に行ける。

けれど、おれはそこから進めずにいた。

いいや、進めない、進まない理由は他にもある。だが、それを除いた時におれはここから進めるのかと問われたら、どうしても躊躇してしまう。理由は自分でもわかっている…リリーだ。甘い考えは捨てたはずなのに、おれはまだ諦めきれないでいる。
ここから先に進んでしまえば、彼女とはもう二度と会えないだろうという考えが、どうにもおれの進路を妨げる。彼女が追ってくるはずも、ないのに。


「キャプテ〜ンっ!」
「ベポ?」

道端で立ち止まっていれば、見慣れたクルーが息を切らしながら走ってきた。

「船が…っ船が壊されちゃったよう…ッ!!」
「なに!?」
「はやく、はやく!あぁっ!煙まであがってる〜っ!」

チッ、と舌打ちをしてベポと共に走り出す。ベポの言葉通り、船を置いていた場所あたりから煙があがっていた。詳細を聞こうとベポに尋ねてみても、「わかんない〜っ!」と泣きそうだ。…これはその場で判断するしかない。


船のある場所に走りついてみれば、かろうじて浮いてはいるがとても乗れそうな状態ではない。大破し、やはり煙が出ているが、火事ではないらしい。船の見張りをしていたクルーも、唖然としてはいるが怪我はない。

そして壊れかけた船には、恐らくこの状況を作り出したであろう人物が大砲を片手にふんぞり返って立っていた。

その人物には、見覚えがあった。



「やぁ、トラファルガー」



なんとも楽しそうに、彼女は――リリーは告げた。


「な…何してるんだお前は…ッ!」
「何してる?…意味がわからないな、これはお前が言ったことだろう」
「おれが…?おれがお前に、何を言った!?」
「『暇があれば、ここ以外の柔な作りをなんとかしてくれ』…新世界に行くのなら全部柔だなと思ってぶっ壊した。文句はないだろう?」
「!!」

言われて、思い出す。確かに言った。まだ、何もなかった頃に。けれどその時は断られたのだ、確か……『私の心臓を返してくれたら』と、言われて。
けれど、そうだ。…確かにその条件とした心臓は、返した。そのつもりはなかったが、確かに結果的には達成された約束だ。それを思い出してわざわざ果たしにきたとでもいうのか…?このひねくれが…?

「…作り直さなくていい」
「おや?必要ないのか、船は」
「自分たちでなんとか出来る。お前に頼らなくても」
「……それじゃあ、私が困るんだよ」

突き放さなくては、もう一度。
そう思って発した言葉は、予想外のリリーの言葉で打ち消された。

「私としたことが…この!私としたことがだぞ!?重要なことを忘れていたなんて!!全く腹立たシイ!」

ガン!とリリーは大砲を船に打ち付ける。やめてくれ、沈むぞ。しかしそれは止まるどころか、更にガン!ガン!と連続して打ち付けられた。

「トラファルガーっ!」

ガン!と一層大きく、大砲が船に打ち付けられた。

「私はお前を腹立たしく思っているが、嫌いではない!いいや、いいや!むしろ今、私は…そう、今の私は!お前の傍にいてやることを望んでいる!」
「っ!?」
「さぁ、私は答えたぞ!?失念していたが…これは重要な問いだ、トラファルガー!お前は…お前は私を、どう思っているんだ!」

幾度となく交えた目が、避けられないことをおれに伝えている。
この問いは、…違うのだ。過去ではなく、罪でもなく、ただただ、おれの気持ちだけを。今の彼女に対する、おれの今の気持ちだけを問われている。
それが、わかってしまえば。
自分がいかに逃げ、甘え、期待していたのかがわかってしまう。

「…お前…」
「?」
「……話し方、どうした…少しまともになっているな」
「…こんなもの、意識さえ出来てしまえばリハビリが可能だろうが。完全ではないがな」


おれはずっと、大切なことを忘れていたらしい。

昔も、今も、リリーがリリーでない時から、おれはずっと彼女を思っていたじゃないか。
罪の意識に捕らわれようが、それは変わらなかったはずだ。

「…わかった」
「…?」

リリーと距離をつめ、頭の中で、唱えた。
'ROOM'

「教えてやるさ」

そしてリリー。おれは――海賊だ。

'MES'



「おれから心臓を、奪い返せたらな」 


手のひらに、懐かしい鼓動が収まる。
目の前にいる彼女はそれを笑い、挑戦的におれを見た。


「上等ダ、ばかが!」


げし!と蹴り飛ばされ、間一髪落ちなかったとはいえ海水に浸からされる。「私を敵としたことを後悔するがいいぞ」などとばかにしながら笑う彼女に腹が立たなかったのも珍しいが、今回ばかりはそれも良いと思えた。

お前が縛られた運命の糸を壊すというのなら、おれも今度は捨てずに、自分の邪魔な糸さえも、お前と一緒に切って行こう。
それが、互いに満足する生き方だったのかどうか、確かめていこう。この広い海で。


それを切り開くための能力ならと思う

おわり 
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