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或夜星(2/2)


 
なまえに、好きだと言われた。
すごく困って、すごく嬉しくて、…俺は。

ただどうしていいか、わからなかっただけ。




***




「10代目、」
「おはよう」
「…おはようございます」

気まずそうに言う獄寺くんを見ないふりした。何を言いたいかはわかっていた。けど、獄寺くんがそれを言わないこともわかっていた。

やめなさい、とは骸に言われた言葉。俺はやめないよと返した。実験だからと押し退けた。間違ってない。守護者でやっては実験じゃなく本番になってしまう。だから、関係のないなまえにした。なまえなら俺達とボンゴレのことに理解あるし何より、…ううん。やっぱり俺が、会いたかっただけかもしれない。

「なまえね、」
「……」
「帰っちゃったんだ。ここにいてって、言ったのに」
「……」
「…やっと…あえたのに…っ!」

目頭が熱い。さっき泣いたくせに、どうしてまた涙が出てくるのか。
結局獄寺くん達の心配は当たって、俺が望んだ答えは得られなかった。10年前のなまえもこんな気分だったのだろうか。俺に告白して、曖昧に返されて、泣いたのだろうか。悲しかったのだろうか。
今となっては、聞く手段がない。

――あぁ、全く。どうやって伝えろっていうの。

俺がなまえを好きだと気づいたのは、なまえに告白されたずっとあと。それに気づいたきっかけも、かなりばかだった。なまえが、俺以外の人と付き合いだしたからだ。
なまえが好きだったかはわからない。でもなまえはその人と付き合いだした。そして俺たちから離れていった。その時に俺はなまえを好きだったんだって気づいたけど、もう遅かったんだ。なまえはもういなかった。

追いかけていたのは、俺の方。

追いかけて、追い付いて、結局告げられなかった。
再会したなまえは、白い――ミルフィオーレの服を、纏っていたから。


「…10代目」
「……」
「間違って、なかったと思います。10代目も…なまえも」

なまえが選んだ道も、俺が選んだ道も。
繋がるはずだったのに、絶ちきったのは俺だ。

「…間違えだらけだよ」

白蘭と付き合って、俺たちと戦って。
脅されたって、助けてって、一言いってくれれば良かったのに。そしたら助けられた。例えなにを犠牲にしても、俺たちはなまえを守るために戦ったのに。

「間違ったのは、俺たちだよ」

なまえを殺したのは、俺たちだ。
なまえの気持ちも知らないで、考えないで、最後まで信じ切れなかったのは俺たちだ。…ううん。
俺のせい。

そんな俺が、なまえを好きだって、言えるわけないじゃない。言えたわけないじゃない。なまえが好きだった俺に、戻れるわけがない。なまえを殺した俺が、なんで、

10年前の、俺を好きだったなまえなら傍にいてくれると思った。そんなはずないのに、まるで許しを請うように呼び寄せて。今度は守るからなんて俺のエゴ。本当は過去のなまえにすら、告白する資格なんてなかったのに。
なのになまえは、笑っていた。この時代のなまえがそうであったように、同じように…笑って、俺とさよならしたんだ。



――まだ、やることがある。
白蘭を止めるために、やらなきゃいけないこと。今の俺にはできないこと。
けど、きっと10年前の俺ならできる。俺たちならできる。たくさんの可能性を秘めた俺が、なまえが好きでいてくれた俺が、10年前にはいる。

許して、なんて言わないからせめて

彼女が、笑って過ごせる未来を。



「…俺も、好きだったよ」


過去のなまえが過去の俺を好きなように。

俺も今のあなたが、好きだった。



、さようなら
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