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CLEAN(1/2)


 
それはなんの皮肉かと問いかけたい。

何故俺が避けて拒んできたものをお前がまたするのか。わけがわからない。やめてくれ。俺はそれを見たくはないのだ。


■□


「あれ、ハンカチどうしたの?」
「……あ?」

いつもの日課、といっても最近少し変化を感じつつあるそれをこなしたあと、多少なりともイラつきながら食事を取っていた。その最中。正面に座っていたハンジが不思議そうに俺を見ていた。

「ハンカチなら……」
「そっちじゃなくて、いつも持ってる方」

言われてはた、と気づく。確かにいつも入れてるポケットには何も入っていなかった。この際何故ハンジがそんな細かいことに気づいたのかは気にしない方向に考え、いつどこでなくなったのか記憶を辿っていく。あのハンカチを出すことは滅多にないというのに……いつなくした。いいや、落とした?
――いや……先ほど、確かに出した。
らしくもなく感傷に浸ってしまい、出して、眺め、そしてその直後にまたあの汚ぇ女にぶつかって……、
…………、投げた。

「……くそ……あの時か……!」
「え?」

咄嗟にそうした行動とはいえ、いつもならあり得ないことだ。俺があれを、誰かに渡すことがあるわけがないのに。しかもよりにもよってあの泥女に。
一つ引っ張り出した記憶は芋づる式に別の記憶まで引っ張りだす。ただでさえ泥というだけで不快になるというのに、これ以上あんな奴に心中乱されてたまるか。今すぐにでも返してもらおう。あんなやつの手にあるなんて、たまったもんじゃない。

「おいハンジ、毎日泥まみれになって帰ってくる女が誰か知ってるか?」
「毎日泥まみれ?……あぁ、新しく入った子でそんな子いるって聞いたなぁ」
「ちっ……新人か……名前は」
「ええっと、確か……」

なんだったか、とハンジは頭を捻らせる。俺も何も新米兵士の名前をいちいち全て覚えているわけではないし、それは恐らく俺以外にも言えることだ。何か特別秀でてるわけでもないのなら、壁外調査に一度も出てすらいない奴らの名前は覚えていられない。けれどその奇行っぷりは一目瞭然だ。ハンジも思い当たるらしく、近くにいたモブリットに確認していた。
早くしろ、と異様にイラつきながらその様子を眺めていた。何故だかわからないほどのイライラを、早々に解決したかったのだ。
しかしその願望は、一瞬にして消えることになる。

「わかったよ。彼女の名前はなまえ。なまえ・みょうじだ」


□■


頭を抱えたくなるほどの嫌悪感が自分を襲う。返してもらうつもりだったハンカチは未だにアイツの手の中で、しかも俺は何をとち狂ったか汚ねぇから捨てろなどと言ってしまった。これほどアホなことがあるだろうか。
動揺のあまりまた何度もぶつかってしまい、それにはやはり腹がたったので二度と来ねぇとも言ってしまった。実際はそんなことができるわけがない。後ろを向いてるわけじゃないが、こればかりはやめられないのだ。だからこそ俺は毎日毎日同じことを繰り返すのだが、それは相手も同じこと。繰り返した日々の中でだんだんと疑問が確信に変わっていくのがわかった。それがまた俺の胸中を抉っていく。何度か行われた壁外調査の時にはそれが更に酷くなり、けれどまだまだ脆いながらも生き残るそいつに安心を抱き、そしてそれはそれで何かが崩れ落ちていくようだった。

その俺の不安は、見事にあたることになる。

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