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妄想カンタレラ(1/2)


※わけわからない世界観でのパロディ。流血グロ注意





電源を機動。すぐについたそれを慣れたように操作しメールのチェック。ざっと目を通したあと迷わず消去しメール画面を閉じる。そしてまた迷わずワード画面を開き、キーボードに指を滑らせた。



――その人は誰もが認める異常性を持っていた。

いや、その言葉を私たちが言える立場ではない。裏の世界で法と罪、もっと言えば人の生死すら扱って生きている私たちも十分異常であり異端者なのだが、それは十分わかっているのだが、それでもその話題が出てしまう。それほどまでに、噂に聞くその人は異常であるらしい。
しかし、その人が誰かを私たちは知らない。同じ生業にいて一蓮托生である私たち組み合いに一切個人の情報としてそれが与えられず、ただ同じ生業に異常と呼ばれる人がいるということだけが広まっている。よくある都市伝説のようだと昔は笑ったものだが、最近になって一人、また一人とその噂を信じる者が増えてきた。つまりは異常性あるその人が実在すると信じられ始めていた。根拠はわからない。何故なら信じた者は自ら辞めていってしまったからだ。
その原因はわか



「おい、諜報部が暢気になにやってやがる」
「あ、先輩おざまーす」
「……ここがお堅い社会じゃなくて命拾いしたな、グズが」

……っていない。――
カタカタと夢中で打っていたタイピングに句読点をつけたところで振り返る。言葉に含まれた嫌悪感がそのまま顔にも出ていて、この人は将来ハゲた頑固シジイになるなと思いながら、大して高くもない背丈をしたその人を見上げた。

「失礼、リヴァイ執行。儀礼は逆に失礼に値するかと思い怠りました。みょうじ諜報、先ほど勤務を開始。本日鑑定義務を承っています」
「……了解した。言い分を認める。気持ち悪いから解け」

立ち上がって姿勢を正し敬礼すれば、案の定彼、リヴァイ執行は更に不愉快そうに私を見上げた。このチビがと言いそうになるのをこらえながら、儀礼無視の許可を得た私はまた椅子に座りデスクに向かう。後ろからため息をはくのが聞こえた。

「こんなのが諜報のエースっつーんだから、わからねぇ世界だな」
「実力主義サイコーです。でも私もあなたみたいな執行部エースと組んでも休み取れないんで、五番手くらいになりたかったっすわー」
「執行部と諜報部でそれぞれ実力に合う奴と組むのが決まりだ。死ぬぞ」
「先輩がね」
「俺は死なねぇ。今まで一人で十分だった。俺と同じレベルの奴はいないからな」
「執行部と諜報部はそれぞれ実力に合う奴と組むのが決まりだ。残念ながら私と組んじゃった時点であなたと私は対等ですぅ」
「あぁ……わかってる。エルヴィンの査定は狂わねぇ。お前の実力は認めてる」
「それは良かった。私も信じてますよ先輩」
「……そうかよ」

それこそまさに儀礼になりかけているような悪態をお互いに吐き合ったのち、今日行うべき業務をざっと伝えた。本来補足しなければならないものを先輩はざっとの説明で理解し是と頷く。なんだよ私の意味ねーじゃんと思うところだが、これが先輩にしか伝わらないことであり、他の人間に伝えたところで理解に時間がかかる上うまくはいかないことはわかっている。
実力に合う奴同士で組め。
まさしくそれは正しいもので、実力が合わなければうまくいかず死ぬだけなのだ。仕事内容に大きく違いはあれど、その関係に相手の命と自分の命が全てかかっていることにはかわりない。諜報部の情報が狂えば執行部は成り立たず、執行部のしくじりは諜報部が露見されることに繋がる。失敗のその先にあるのは死だ。そんな世界で、私たちは生きている。

「じゃ、先輩おねがいしゃーす」
「あぁ、片付けはいつもの時間に」
「あいはーい」

私の情報を得た先輩が軽い足音と共に扉に向かう。先ほどの続きを書こうとまたパソコン画面に向かった私の背に、視線を感じた。それ自体はいつものことで先輩の習慣みたいなものなので、いつも通り気にしないふりをした。
けれど今日はその上で、言葉を投げ掛ける。

「あ、せんぱーい」
「……あぁ?」
「昨日、雑務処理ちゃんとしました?」

振り返ることなく、しかし確かに視界に先輩を入れながら言う。窓の反射越しに見る先輩の表情が変わることはなかった。

「…文句あんなら、てめぇでやれ」
「あはは、ざけんなチビ」

明らかにムッとした顔をした先輩が勢いよく扉を閉めた。バタン!となんともうるさい音がして、あれで本当に執行部エースかを疑いながらキーボードに触れた。

「……うそつき」

信じますよって、言ったのに。

呟いた言葉は空気に沈んだ。
再び滑らせたキーボードは先ほどより冷たい気がして、それのせいか続きを書くのには集中することができた。
部屋に響く音は、タイプするその音だけだ。




――よくある都市伝説のようだと昔は笑ったものだが、最近になって一人、また一人とその噂を信じる者が増えてきた。つまりは異常性あるその人が実在すると信じられ始めていた。根拠はわからない。何故なら信じた者は自ら辞めていってしまったからだ。
その原因はわかっていない。

……しかし、某日某所。情報提供がなされる。理由は不明。利益、目的、共に不明。尚この情報は不確かなため真偽が問われる。よってこれを重大項目とし私が記す重要鑑定義務とする。上記の状況から私はパートナー、リヴァイ執行への報告を拒否する。
そしてこの情報を、私単独での諜報活動とし、私個人の記録とし、個人的理由と原理として書くことを定める。


これは私の業務を無視した、私的な行いだ。――

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