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妄想カンタレラ(2/2)


 
――兵長、巨人がいなくなった世界になったら何がしたいですか?
――あ゛ぁ?巨人がいなくなったってやることはあんだろ。
――いやいや、何がしたいかですよ!やりたいこと!いっこくらいあるでしょう!?
――……んなもん、


 








噎せ返るほど嫌な臭いが広まっている。視界もよくない。状況は最悪。吐き捨てたくなるような惨劇だ。

「……実力あんのにも、ほとがあるんじゃないですかね……ッ!」

肩で息をしながら、目の前の、この惨劇を作り出した張本人を見つめる。
あぁだめだ、今にでも吐きそう――…元から引きこもって実践を行わない諜報部の心情を察知したのかしらないが、彼が顔をしかめながらやめろと言った。その顔がなんだか気分が良くなるもんだったので本当に吐いてやろうかと思ったが、今の状況じゃ迂闊なことはできないなと堪える。気分は最高によくない。

「なんで来た」
「……逆に聞きたいっすよ。なんでここまでした!?」
「馬鹿言え。悪くないだろ」
「道理を聞いてんだよ!!」
「今更なに言ってやがる」

びしゃ、と重たそうな銃が絨毯に投げ捨てられる。水気を含んだそれは銃をすぐに浸し、その光景を見るだけで呼吸が苦しくなった。
――どうやったら、絨毯を浸せるほど血を流せるんだ。
まるで子供が片付けずに放置したおもちゃのように、無造作に、慈悲なく人が転がっている。直接確認はしていないが、確かめるまでもない。ここに転がってる中で生きている人間などいない。

「……雑務処理なんか、やってないじゃないか……」

声が震えた。

「あれ……あれ、知ってます…昨日の先輩が出した雑務処理……あれ、ハンジさんの字だ……二番手の……!」
「意外だな。接点ねぇのにいつ知り合った」
「知り合わなくたって……情報は全部、私の専売特許だ!」

噛みつくにように言えば、先輩はそうだったなと小さく呟いた。甘く見られていたことに尚も私は腹を立てて、最初から先輩を認めなきゃ良かったと思った。
いいや、先輩と表現するのもおかしいかもしれない。あれは先輩とは言えない。私が知ってる先輩なんてもうここには、この世界のどこにだっていやしない。今目の前に立っている人は、人ですらない。
人の皮を被った、狂人だ。


「……昨日、規約違反の惨劇が繰り広げられた。あなたも知ってますよね!?」
「そうか。初耳だな」
「初耳……そうですか……そう言いますか!なら教えますよあなたが知らないことを教えるのが私の仕事ですものね!?」

持ってきていた鞄から何枚かの資料を取りだし、その場から動かずに見せつけた。

「昨日はターゲット候補No.36〜50までの十四名が潜伏する屋敷に何者かが潜入そして殺害された!ターゲット候補の部下含め六十八人が殺されたことから犯人は複数もしくは相当な実力者とされています。特徴としては全員首と体が切り離され切断されていた!」
「……」
「言わなくたって……わかるでしょう……!?」
「……あぁ」

先輩は、辺りを見回した。
荒れた部屋。
絨毯にまで染み込む血。
転がる息もない身体。


「この状況と同じだな」



目頭が熱くなった。


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