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――――此処が何処だかなんてわからない。遠くから聞こえる声が誰の声で、何を言っているのかもわからない。
私が今わかっているのはたった1つしかない。




――――逃げなきゃ













巡り巡って、また












「じゃあ、またね!」
「うん、ばいばい」

――ひらひらと手を振り、いつも一緒に学校に行っている友達と分かれた。チャラリと、首にかけた二つの指輪が揺れる音を心地よく思いながら、帰る。既に空はオレンジ色が鮮やかな夕方の時刻だけど、ここから自分の家まではそこまで遠くもない。まだ明るい内に帰れるだろう。

(……光、帰ってるかな。)

一つ下の弟である光は、私とは違う中学校に通っている。何でもその学校はテニスがすごく強いらしくて、光はテニスが好きで、しかもそこに実力が伴ってしまっていたためにその学校を選んだらしい。テニスのこともその学校のこともさっぱりわからないが、弟はかなり夢中のようだ。中学生になる前も毎日練習はしていたが、今ではそれよりもハードに毎日毎日遅くまで練習しているみたいだ。
そんな弟の光は、家では疲れきって休みたそうにしている。口には出さないし家事を手伝うとまではいかなくとも、せめて自分のことはやろうとしてくれる。私はそれがわかっているから、出来るだけ光の負担にならないように。テニスに集中出来るように、家で出来ることはしてあげている。光もそれをわかってるし、感謝もしてくれてるみたいだった。

そして、光の学校はテストが近いらしく部活も活動縮小らしい。そんな時は不貞腐れながら家に帰ってきて、ここぞとばかりに家事と勉強を両立させる。我が弟ながら出来た子だなぁ、と思う。……けど。やっぱり何かしてあげたいのには変わりない。

光がいてもいなくても、帰ったらまず洗濯をしよう。夕飯の準備も。それからちょっとリベングの掃除もしたいな…………あれ、あと何を補うんだ?
いつもはもっと少ないはずなんだけど、今は両親が旅行中。普段分担してるものは全部やらなきゃいけない。はぁ、と思わず目を瞑って首を横に振った。教室で残って話してないで、もっと早く帰ってくればよかったなあなんてちょっと後悔。でも過ぎた時間は仕方ないし、ちょこまか動いてれば多分なんとかなるでしょ。うん。

よし!と気合いを入れ、目を開けた。

瞬間。


―――――……、


「……え?」


草木が風に靡く音に、微かに聞こえた誰かの声。目を開けたその先には、辺りにあったはずの住宅地も電柱もアスファルトも何もかもがなくなって、自然だけが広がっていた。
面影なんて、どこにも、ない。

(な…なに………!?)

キョロキョロと周りを見渡しても、やっぱり見渡す限り草や木……小さな、山といってもいいかもしれない。ふふふ、と微かに響く声が後ろから聞こえて弾かれるように目を向ければ、着物を来た黒髪の男の子と茶髪の男の子が仲良さげに遊んでいた。私に気付いてるかは、わからない。


―――――……、


ざあああ、とまた風が吹き抜けて、同時にまた誰かの声が聞こえた。あの男の子たちとはまた違う、誰かの声。

「―――ッ!」

さっきとは比べものにならないくらい強い風が吹いて、思わずぎゅっと目を閉じる。激しい風が落ち着いていくのに合わせるかのように、小さく鼓膜に響いていた誰かの声と、男の子たちの声がだんだんと遠くなっていく。

風が止んで目を開ければ、そこは変わらぬアスファルトがあった。

―――気の、せい…?

白昼夢でも見たんでしょうか……疲れてんのかな…。
なんとなくドクドクとする心臓を抑えつけて、ただ何かに駆り立てられる気がして走った。




――――――………、


―――――…っと…けた…






微かに残って聞こえた声さえも

私は、気付かなかったんだ。
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