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(2/2)
―――へぇ、とだけ。彼は呟いた。
ドキドキしながらその先の言葉を待ってはいるけども、小さく相槌のように呟かれた先の言葉は暫く出てきそうにない。顎に手を添えて、そのままの状態をキープしてる。このままなら、精巧に作られた人形だと言っても通じそうだ。
「………一氏」
「え?」
何、と言うよりも先に、私の後ろにある襖が開いた。
瞬間、一気に冷たい風が入ってきて、身体が縮こまる。そして同時に、
「………なんでしょう」
深々と頭を下げた状態の、別の男の人。
かなり落ち着いた口調ではあったけど、それはいっそ通り越して、冷たい。今吹き抜けた、風のように。
――後ろにも人がいたなんて、聞いてない……!
私が彼に話したことが何に繋がるかはわからない。どうにも様子を見てる限り、彼の常識と私の常識は違い過ぎてる。ただ相手が常識知らずで古風な人、というのには収まりきらない程の差。
加えて――新たに出てきた人も、傍らに刀を添えていた。
「――やはり、捕らえますか」
どくん!
大きく心臓が跳ねて、さっきと同じような緊張感が走る。
――この人、本気、だ……。
チラリと私を見た――ヒトウジ、と。呼ばれていた、人。
その人は、私を疎むように見てた。冷たくて、心なんてないかのような目で。
一気に冷たくなった体を無理矢理動かして、さっきまで話していた彼に視線を向ける。恐らくだけど彼は……偉い人、で。
この人の一言で、私の全てが決められてしまう。
「……いや、ええよ。物騒なこと言わんといて。怯えてまう」
「……」
「そないなことより、意見が聞きたい。お前は、どう思う?」
困ったように笑う彼に安心して、強張ってた力が少し抜ける。けれど、いくら建前で引き下がったところで、ヒトウジさんの私を射抜く視線は変わらない。
「―――俺やったら、信じません。今すぐ斬ります」
ヒトウジさんは、わざわざ私を見てから、そう応えた。まるで私に、牽制するかのように。
またもドクドクと早まる鼓動。受け入れる気なんて感じられない。
彼も彼で、ん、と一つ相槌を打っただけで、特に何も言わなかった。
「貴方がどんなつもりで拾うたかは、この際ええでしょう。けれど、先程の話は駄目です。あないなもん、危険としか言い様がないでしょうに」
「せやなぁ」
「……俺は、どうかと、思います。」
そこまで言ってから、出過ぎた真似を、とヒトウジさんは頭を下げた。
彼はそれを見て、満足気だ。
ニコニコと笑いながら、ヒトウジさんを見てる。そしてそれを見たヒトウジさんが、深く溜め息を吐いた。
「堪忍な。俺はこの話、信じてしもうた」
「……予想してました」
「ん。せやけど、やっぱようないしな。俺らは所詮下っぱやから、殿に会わせようかと思ってん」
「……は?」
ポカンと、随分間抜けそうな顔をしてヒトウジさんは顔を上げた。私も話の流れが随分飛躍した気がして、ついていけない。わからない。
私とヒトウジさん、揃って間抜け面を晒して彼を見ていれば、彼はまたもニコリと笑った。
「白石家第十八代目当主、白石蔵ノ介」
「………へ?」
「俺の名前。あぁそれから、君気付く様子ないから言うてやるけど、」
―――ここ、多分君のいた時代より過去や。
恐ろしいくらいの笑顔で、彼―――白石さんは、言った。
***
嘘だぁあ!?
……と、盛大に叫んだのは記憶に新しい。
――話を訳すとこうだ。
白石さんは、私が寝ている間に既に私の服が珍しく、そして高価なものだと断定。
それから起きてからの私の反応と話の中で、今の時代じゃどう考えたってあり得ないものを発見。あとは、勘。
そんなアバウトなもんか、なんて思ったし、ヒトウジさんも警戒心がなさ過ぎる!と反抗。けれど白石さんが、
「じゃあ他に納得いく理由考えて」
なんて言い放ち、しかもそれが有無を言わさない笑顔だった。
……もし仮にここが過去だとしたら、それでいいのかと、問いたい。……いや多分、というか絶対!駄目だと思う!
けど。……残念ながら、その方が私に都合がいいのも確か。
結局、私には何も言える権利はなかった。
「さて。……ほなもう、この先に殿がおるから。とりあえず君は、黙っててや」
「絶対や。何や余計なこと言うたら、斬る」
「……せやから一氏……怯えさせちゃアカンて………」
すみません、と納得いかなそうに、でもしっかりとヒトウジさんは頭を下げた。
―――話を聞いたところ、ヒトウジさんのお家は白石さんの家に代々仕えているらしい。でも幼なじみでもあるし友人だと思ってる………と、これは白石さんの言葉。
ほな、と白石さんが和やかに言ったかと思えば、途端に凛とした声に変わって言葉を吐き出す。
ドキドキと、する。
いくら白石さんが庇ったところで、殿が全てだと二人は言った。私も、それが正しいと思う。
だからこそ―――これは、賭けのようなもの。
「―――入れ」
中から聞こえる声に、事前に白石さん達に教わった通りに入った。
私は、顔を上げちゃいけない。殿の顔もまだ―――見ちゃいけない、はずだった。
「――…え……」
頭も下げず、動きもせず。
ただ固まって座敷の奥――恐らく殿様とやらが座るらしい、席を見つめたままの私に、辺りがざわついた。それでも私は動かない。動けない。
――隣で白石さんとヒトウジさんが息を呑んだのも、聞こえた。
けど、
「………大した度胸やな、アンタ」
―――この姿と声に、生意気さ。
知ってると言わず、なんと言うの?
「ひか…る……?」
心中を離れない姿が
目の前に、あるのならば
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ドキドキしながらその先の言葉を待ってはいるけども、小さく相槌のように呟かれた先の言葉は暫く出てきそうにない。顎に手を添えて、そのままの状態をキープしてる。このままなら、精巧に作られた人形だと言っても通じそうだ。
「………一氏」
「え?」
何、と言うよりも先に、私の後ろにある襖が開いた。
瞬間、一気に冷たい風が入ってきて、身体が縮こまる。そして同時に、
「………なんでしょう」
深々と頭を下げた状態の、別の男の人。
かなり落ち着いた口調ではあったけど、それはいっそ通り越して、冷たい。今吹き抜けた、風のように。
――後ろにも人がいたなんて、聞いてない……!
私が彼に話したことが何に繋がるかはわからない。どうにも様子を見てる限り、彼の常識と私の常識は違い過ぎてる。ただ相手が常識知らずで古風な人、というのには収まりきらない程の差。
加えて――新たに出てきた人も、傍らに刀を添えていた。
「――やはり、捕らえますか」
どくん!
大きく心臓が跳ねて、さっきと同じような緊張感が走る。
――この人、本気、だ……。
チラリと私を見た――ヒトウジ、と。呼ばれていた、人。
その人は、私を疎むように見てた。冷たくて、心なんてないかのような目で。
一気に冷たくなった体を無理矢理動かして、さっきまで話していた彼に視線を向ける。恐らくだけど彼は……偉い人、で。
この人の一言で、私の全てが決められてしまう。
「……いや、ええよ。物騒なこと言わんといて。怯えてまう」
「……」
「そないなことより、意見が聞きたい。お前は、どう思う?」
困ったように笑う彼に安心して、強張ってた力が少し抜ける。けれど、いくら建前で引き下がったところで、ヒトウジさんの私を射抜く視線は変わらない。
「―――俺やったら、信じません。今すぐ斬ります」
ヒトウジさんは、わざわざ私を見てから、そう応えた。まるで私に、牽制するかのように。
またもドクドクと早まる鼓動。受け入れる気なんて感じられない。
彼も彼で、ん、と一つ相槌を打っただけで、特に何も言わなかった。
「貴方がどんなつもりで拾うたかは、この際ええでしょう。けれど、先程の話は駄目です。あないなもん、危険としか言い様がないでしょうに」
「せやなぁ」
「……俺は、どうかと、思います。」
そこまで言ってから、出過ぎた真似を、とヒトウジさんは頭を下げた。
彼はそれを見て、満足気だ。
ニコニコと笑いながら、ヒトウジさんを見てる。そしてそれを見たヒトウジさんが、深く溜め息を吐いた。
「堪忍な。俺はこの話、信じてしもうた」
「……予想してました」
「ん。せやけど、やっぱようないしな。俺らは所詮下っぱやから、殿に会わせようかと思ってん」
「……は?」
ポカンと、随分間抜けそうな顔をしてヒトウジさんは顔を上げた。私も話の流れが随分飛躍した気がして、ついていけない。わからない。
私とヒトウジさん、揃って間抜け面を晒して彼を見ていれば、彼はまたもニコリと笑った。
「白石家第十八代目当主、白石蔵ノ介」
「………へ?」
「俺の名前。あぁそれから、君気付く様子ないから言うてやるけど、」
―――ここ、多分君のいた時代より過去や。
恐ろしいくらいの笑顔で、彼―――白石さんは、言った。
***
嘘だぁあ!?
……と、盛大に叫んだのは記憶に新しい。
――話を訳すとこうだ。
白石さんは、私が寝ている間に既に私の服が珍しく、そして高価なものだと断定。
それから起きてからの私の反応と話の中で、今の時代じゃどう考えたってあり得ないものを発見。あとは、勘。
そんなアバウトなもんか、なんて思ったし、ヒトウジさんも警戒心がなさ過ぎる!と反抗。けれど白石さんが、
「じゃあ他に納得いく理由考えて」
なんて言い放ち、しかもそれが有無を言わさない笑顔だった。
……もし仮にここが過去だとしたら、それでいいのかと、問いたい。……いや多分、というか絶対!駄目だと思う!
けど。……残念ながら、その方が私に都合がいいのも確か。
結局、私には何も言える権利はなかった。
「さて。……ほなもう、この先に殿がおるから。とりあえず君は、黙っててや」
「絶対や。何や余計なこと言うたら、斬る」
「……せやから一氏……怯えさせちゃアカンて………」
すみません、と納得いかなそうに、でもしっかりとヒトウジさんは頭を下げた。
―――話を聞いたところ、ヒトウジさんのお家は白石さんの家に代々仕えているらしい。でも幼なじみでもあるし友人だと思ってる………と、これは白石さんの言葉。
ほな、と白石さんが和やかに言ったかと思えば、途端に凛とした声に変わって言葉を吐き出す。
ドキドキと、する。
いくら白石さんが庇ったところで、殿が全てだと二人は言った。私も、それが正しいと思う。
だからこそ―――これは、賭けのようなもの。
「―――入れ」
中から聞こえる声に、事前に白石さん達に教わった通りに入った。
私は、顔を上げちゃいけない。殿の顔もまだ―――見ちゃいけない、はずだった。
「――…え……」
頭も下げず、動きもせず。
ただ固まって座敷の奥――恐らく殿様とやらが座るらしい、席を見つめたままの私に、辺りがざわついた。それでも私は動かない。動けない。
――隣で白石さんとヒトウジさんが息を呑んだのも、聞こえた。
けど、
「………大した度胸やな、アンタ」
―――この姿と声に、生意気さ。
知ってると言わず、なんと言うの?
「ひか…る……?」
心中を離れない姿が
目の前に、あるのならば
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