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(1/2)
「…………どないするん、こいつ」
「んー、わからへん」
「はぁ?考えなしに連れてきたんか、ど阿呆!」
「ははっ………まぁ、なんとかなるやろ」
―――そう言って、誰かが頭を撫でた気がした。
巡り巡って、また
「ん…」
――頭が、痛い……。激痛とか、そんな痛みではないけど、ツキツキとした痛みを感じる。休みの日に寝過ぎた時のような、頭の痛さ。
続いてゆっくりと目を開けば、見えた世界は予想していたものとはまた違って―――白い壁の、私の部屋の天井ではなくて―――茶色い、木目。
…………木目?
ガバリ!と、勢いよく起き上がる。キョロキョロと辺りを見回しても、やっぱり見慣れたものは何もない。私の家にも一応和室はあるけど、家具なんか炬燵が一つあるくらいで他は何もない。断じて、今目の前にある昔ながらの箪笥みたいなのは、ない。
「え…?此処……どこ」
私はしっかり布団の中に潜り込んでて……あ、制服着たまんまとか皺になる……
「…じゃなくて!」
寝起きで若干フラっとしたけど、急いで布団から這い出て、ついでに念のためと布団は畳んでおいた。私は何も知りません知らない場所で寝てません状態を作りたかった。けど、よく考えてみれば自力で人の家に行った憶えも、ましてやわざわざ布団敷いて寝た憶えなんかないはずで。いや、そもそも最後に記憶が途切れたのって――――
「ひか、る……」
――そうだ、そう!光!それからあの…知らない男の人!
じわじわと蘇ってくる記憶。暗い廊下。倒れてる光。着物の人。そしてその人の………不思議な、行動。
全部を思い出して、それからサァっと、血の気が引いた。何をされたか知らないし、何が起きたのかもサッパリわからないけど………きっとあの人が何かしたのは事実。そして今こんな知らない場所で寝てたのも、あの人が何かしたんだと思う。でもそしたら、光は、
(光は………どこに?)
「―――どないしたん?」
びく!と思わず肩が上がって、反射的に振り向いた。話し方が話し方なだけにあの着物の人なんじゃないか、なんて一瞬で恐怖心に駆られたけど、それは杞憂で終った。
後ろを振り向いた先には、確かに着物を着た男の人がいたけど………あの人では、ない。
優しげな雰囲気の、綺麗な人だった。
「今目ぇ覚めたん?顔色悪いし、もうちょい寝といた方がええんやない?」
「………」
「あぁ…驚かせてしもうたか。堪忍な」
ひらひらと手を振りながら、その人は笑った。なんとなく…本当に、ただなんとなくだけど。……悪い人ではないのかなぁと、そんな印象を受ける。
けどやっぱり引っ掛かるのは、家に居たあの人。あの人と同じ関西弁で、あの人と同じように着物を着てるというのが……関係ないとは、言い切れない。疑ってしまう。
きゅっと、胸の前で手を握った。目の前にいる彼は私が警戒してるのがわかったのか、苦笑しながらその場に座り込む。
「なんもせぇへんよ。俺はただ、君が道端に倒れてたから拾っただけ」
「……道端、に?」
「おん。……憶えて、ないん?」
お互いに首を傾げて、彼はまた苦笑した。それも絵になる見た目だなぁなんて、およそこの場に相応しくないことを思ってしまう。
(拾ったって…いやそもそも……倒れて、た……?)
どういうこと?あの人は私が気を失ってる間に運び出して…落とした、とか?いやでもそれじゃあ連れ出した意味がないし……証拠隠滅だとしても道端に落ちてちゃ、そりゃすぐ見つかるよね。
うんうん唸って考えていれば、視線を感じた。ハッとして見てみれば、案の定私を拾ったらしい人が困ったように見ていた。
私が倒れてた経緯はともかく……この人はただ拾っただけだから、関係ない、はず。悪く、ないんだ。
「落ち着いた?」
「はい。えっと……ありがとうございます」
「いやいや、ええよ。どっちにしろ仕事やから」
「…仕事?」
「おん。……目覚めてすぐのところ、悪いんやけど、」
――ぐらりと、視界が回った。
突然のことで頭が付いていかない。ただ私は倒れてて、目の前には天井と、彼が見えて……え?ちょっと待ってこれって…もしかしなくても―――押し倒された、感じ?
うそ、とか思う間もなくまたしても血の気が引いた。それは貞操がとかそんな一般的な危険とは違う。そんなじゃない。私を見下ろす彼が………すごく、冷たい目で笑ったから。
一気に、心臓が押し潰されそうな重圧が広がった気がした。
「なぁ、君………何なん?」
きらりと。
視界の端で、何かが光った気がした。
ごくりと、息を飲む。
「何って……なん、ですか……?」
「んー?せやなぁ、なんでもええで。出身地とか、どこに向かってたとか、何でこの国に来たかとか、どうやって来たかとか……その服装の理由、とか」
「理由って……」
「あぁ待って。やっぱ出身地から答えてや」
ちらりと見えたのは、どう見ても刃物。しかも普通のナイフとかじゃない。よく時代劇とかで出てくる……所謂真剣、みたいな刃物。
それはただちらつかせてるだけで、私に向けてはいない。けど、その存在が見えるだけで私には十分恐怖だ。未だに変わらない冷たい目が、また恐ろしい。
「出身地、は……えと、大阪…でも東京に居たことも、あります」
「……とうきょう、と……おおさか?」
「はい。東京は、小学生に上がる前まででしたけど……」
「……どこ、それ」
「……へ?」
「知らへん。聞いたこともないわ」
「………え!?」
いやそれは嘘でしょ!と彼が持つ真剣の存在さえ忘れて固まってしまった。だってそんな……東京と大阪なんて、日本の中じゃ有名なその二つを、知らないわけがない。というか片方首都だし。しかも関西弁話してるのに大阪知らないって!
おかしいだろうと、彼をじっと見つめるけど、その目は真剣そのもの。全く嘘をついてる気配も冗談をいってるようでもなかった。それはつまり裏を返せば……向こうからしたら、私の回答は不十分だということ。
嫌な汗が流れる。これは多分………相当、マズイかもしれない…!
「え……」
「事情、聞かせてや」
突然彼が私から退いて、チャキ、と刀が鞘に収まった。その時の彼は最初に見た時と同じような優しそうな雰囲気で、今さっきまでの冷たい目も何処にもない。
とりあえず身の安全の為にと、出来るだけ距離を置いて座った。向こうも別にそれを咎める様子もないし、私の後ろには襖がある。何かあった時に逃げるくらいは、出来るかもしれない。
ならダメ元でも―――話してみて、損はないかもしれない。
「……信じてもらえないかも、しれないんですが……」
- 5 -
「んー、わからへん」
「はぁ?考えなしに連れてきたんか、ど阿呆!」
「ははっ………まぁ、なんとかなるやろ」
―――そう言って、誰かが頭を撫でた気がした。
巡り巡って、また
「ん…」
――頭が、痛い……。激痛とか、そんな痛みではないけど、ツキツキとした痛みを感じる。休みの日に寝過ぎた時のような、頭の痛さ。
続いてゆっくりと目を開けば、見えた世界は予想していたものとはまた違って―――白い壁の、私の部屋の天井ではなくて―――茶色い、木目。
…………木目?
ガバリ!と、勢いよく起き上がる。キョロキョロと辺りを見回しても、やっぱり見慣れたものは何もない。私の家にも一応和室はあるけど、家具なんか炬燵が一つあるくらいで他は何もない。断じて、今目の前にある昔ながらの箪笥みたいなのは、ない。
「え…?此処……どこ」
私はしっかり布団の中に潜り込んでて……あ、制服着たまんまとか皺になる……
「…じゃなくて!」
寝起きで若干フラっとしたけど、急いで布団から這い出て、ついでに念のためと布団は畳んでおいた。私は何も知りません知らない場所で寝てません状態を作りたかった。けど、よく考えてみれば自力で人の家に行った憶えも、ましてやわざわざ布団敷いて寝た憶えなんかないはずで。いや、そもそも最後に記憶が途切れたのって――――
「ひか、る……」
――そうだ、そう!光!それからあの…知らない男の人!
じわじわと蘇ってくる記憶。暗い廊下。倒れてる光。着物の人。そしてその人の………不思議な、行動。
全部を思い出して、それからサァっと、血の気が引いた。何をされたか知らないし、何が起きたのかもサッパリわからないけど………きっとあの人が何かしたのは事実。そして今こんな知らない場所で寝てたのも、あの人が何かしたんだと思う。でもそしたら、光は、
(光は………どこに?)
「―――どないしたん?」
びく!と思わず肩が上がって、反射的に振り向いた。話し方が話し方なだけにあの着物の人なんじゃないか、なんて一瞬で恐怖心に駆られたけど、それは杞憂で終った。
後ろを振り向いた先には、確かに着物を着た男の人がいたけど………あの人では、ない。
優しげな雰囲気の、綺麗な人だった。
「今目ぇ覚めたん?顔色悪いし、もうちょい寝といた方がええんやない?」
「………」
「あぁ…驚かせてしもうたか。堪忍な」
ひらひらと手を振りながら、その人は笑った。なんとなく…本当に、ただなんとなくだけど。……悪い人ではないのかなぁと、そんな印象を受ける。
けどやっぱり引っ掛かるのは、家に居たあの人。あの人と同じ関西弁で、あの人と同じように着物を着てるというのが……関係ないとは、言い切れない。疑ってしまう。
きゅっと、胸の前で手を握った。目の前にいる彼は私が警戒してるのがわかったのか、苦笑しながらその場に座り込む。
「なんもせぇへんよ。俺はただ、君が道端に倒れてたから拾っただけ」
「……道端、に?」
「おん。……憶えて、ないん?」
お互いに首を傾げて、彼はまた苦笑した。それも絵になる見た目だなぁなんて、およそこの場に相応しくないことを思ってしまう。
(拾ったって…いやそもそも……倒れて、た……?)
どういうこと?あの人は私が気を失ってる間に運び出して…落とした、とか?いやでもそれじゃあ連れ出した意味がないし……証拠隠滅だとしても道端に落ちてちゃ、そりゃすぐ見つかるよね。
うんうん唸って考えていれば、視線を感じた。ハッとして見てみれば、案の定私を拾ったらしい人が困ったように見ていた。
私が倒れてた経緯はともかく……この人はただ拾っただけだから、関係ない、はず。悪く、ないんだ。
「落ち着いた?」
「はい。えっと……ありがとうございます」
「いやいや、ええよ。どっちにしろ仕事やから」
「…仕事?」
「おん。……目覚めてすぐのところ、悪いんやけど、」
――ぐらりと、視界が回った。
突然のことで頭が付いていかない。ただ私は倒れてて、目の前には天井と、彼が見えて……え?ちょっと待ってこれって…もしかしなくても―――押し倒された、感じ?
うそ、とか思う間もなくまたしても血の気が引いた。それは貞操がとかそんな一般的な危険とは違う。そんなじゃない。私を見下ろす彼が………すごく、冷たい目で笑ったから。
一気に、心臓が押し潰されそうな重圧が広がった気がした。
「なぁ、君………何なん?」
きらりと。
視界の端で、何かが光った気がした。
ごくりと、息を飲む。
「何って……なん、ですか……?」
「んー?せやなぁ、なんでもええで。出身地とか、どこに向かってたとか、何でこの国に来たかとか、どうやって来たかとか……その服装の理由、とか」
「理由って……」
「あぁ待って。やっぱ出身地から答えてや」
ちらりと見えたのは、どう見ても刃物。しかも普通のナイフとかじゃない。よく時代劇とかで出てくる……所謂真剣、みたいな刃物。
それはただちらつかせてるだけで、私に向けてはいない。けど、その存在が見えるだけで私には十分恐怖だ。未だに変わらない冷たい目が、また恐ろしい。
「出身地、は……えと、大阪…でも東京に居たことも、あります」
「……とうきょう、と……おおさか?」
「はい。東京は、小学生に上がる前まででしたけど……」
「……どこ、それ」
「……へ?」
「知らへん。聞いたこともないわ」
「………え!?」
いやそれは嘘でしょ!と彼が持つ真剣の存在さえ忘れて固まってしまった。だってそんな……東京と大阪なんて、日本の中じゃ有名なその二つを、知らないわけがない。というか片方首都だし。しかも関西弁話してるのに大阪知らないって!
おかしいだろうと、彼をじっと見つめるけど、その目は真剣そのもの。全く嘘をついてる気配も冗談をいってるようでもなかった。それはつまり裏を返せば……向こうからしたら、私の回答は不十分だということ。
嫌な汗が流れる。これは多分………相当、マズイかもしれない…!
「え……」
「事情、聞かせてや」
突然彼が私から退いて、チャキ、と刀が鞘に収まった。その時の彼は最初に見た時と同じような優しそうな雰囲気で、今さっきまでの冷たい目も何処にもない。
とりあえず身の安全の為にと、出来るだけ距離を置いて座った。向こうも別にそれを咎める様子もないし、私の後ろには襖がある。何かあった時に逃げるくらいは、出来るかもしれない。
ならダメ元でも―――話してみて、損はないかもしれない。
「……信じてもらえないかも、しれないんですが……」