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押しても引いても
―――誰だって平穏を望んでいるはずなんだ。
右を見ても左を見ても海海海海海海海!
なんだこれは!と叫んだのは記憶に新しいが、そこから何時間も経っては叫ぶ気力すらない。だいたい何で焦らずもせずに叫べたのか。叫べるだけ余裕だったんじゃないかとすら思えるくらいに、私は疲れていた。いや、逃避し始めていた。もうなんなんだこれは。
「せめて説明してよ……」
小さく呟いたはずなのに、一人ぼっちで海を浮遊していると妙に大きく聞こえた。はははなんて乾いた笑いが無意識に出て、それがまたいい感じに響くからもう何とも言えない気持ちにさせられる。
――――全く憶えがないのだ。私は明日提出するレポートが終わってやったぜコノヤロウなんて言いながらノンアルコールシャンパンに手出して、気持ちだけ大人ぶってゆっくりしていたのだ。それなのに気がついたら海の上にぽつりと浮かぶ小舟で寝ていて、勿論海に出た記憶すらない。夢かと思って頬をつねったり気長に待ってみたけど、現状は変わる事がなくてだんだんと焦りを感じ始めている。なんだ、何が悪かったんだ。やっぱり大人ぶってノンアルコールシャンパンなんか飲んだからか?どうせなら成人してから飲めってか?何言ってんだ、それならそんなもん作り出した会社に問い合わせなさい。私を巻き込むな!それともあれか、昨日授業中に携帯やってたのをバラされた腹いせによっちゃんの昼飯全部取ったのが悪かったのか。いや、流石に私もあれはやり過ぎたと思ってる。それについてはちゃんとお詫びして三日くらいよっちゃんに昼飯奢ってやる気でいた。こんな事にならなくたって充分反省してる。それでもまだ足りないって事?
はぁ、なんて溜め息吐いた所で現状は全く変化なし。けれども吐かずにはいられなくって、もうこの数時間の中で何回溜め息吐いたんだろうってくらいである。
「………ん?」
ふと、遠くに見えた船……………船?船にしては、でかくないだろうか。第一金属で出来ているようにも見えない。例えるならそう、昔の海賊船のような。ついに幻覚でも見ているのだろうかという気にもなったけど、波の強さはその船が近づくにつれだんだんとでかくなっているようだから、実在しているのだろう。
――助けて貰えるかもしれない。
一瞬過った考え。けどなんか、……まずそうな気もするのだ。どう考えたって普通の船じゃない。だけど、このまま助けを求めなければ流されるままだ。
どうしようか、なんて頭を悩ませていたら―――
―――――バシャン!
はぁ!?と思わず声が出る。だって、だって!落ちた!あの高さの船から一直線に!一瞬しか見えなかったけど、明らかに人の形をしていた。落ちたら普通に浮かぶし自分でも水面に出ようとしてくるはずだけど、一向に顔を出す気配がない。心なしか船の上でも騒がしげな声が聞こえ始めた。でも体格も良さそうだったし、多分大丈夫。………うん。多分。
「ああああ!上がってこないじゃないか!!」
ポジティブに考えてみたって全然ダメだった。ぶくぶくと泡っぽく息が漏れてるのも視界に入っちゃって、そこまできたらもう気のせいでも大丈夫でも何でもない。溺れてるのが確定的だ。
仕方ないなぁもう!意気込んで上着を小舟に放り投げて携帯やら財布やらも投げ出す。――大丈夫、これでもちゃんと体育の水泳は成績取ってた。人並みに泳げるはずだ。一度深く息を吸い込んで水の中に飛び込んだ。当然ながら無理矢理目を開けて水の中を探せば海水が目に染みて痛かった。冗談じゃない、飛び込んだなら助けなきゃ意味がないじゃないか。痛くて痛くて仕方ないけど、自分を奮い立たせて目を見開く。
―――居た。
海の底へ底へと、誘われていく上半身裸の男の人の姿を捉えた。両手両足がだらりと投げ出されていて、やっぱり溺れていたんだと確信。良かった、あのままにしてたら私はこの人を見殺しにする事になるとこだった。異性に半裸というのは少し抵抗があったけど、お互い命掛かってるんだからそんなもの一瞬で吹き飛ばす。心配すべきはどちらかと言えば普通に体格の良い彼を私が水面まで持っていけるかということ。とりあえず離さないようにと肩にしっかりと腕を回し、相手の腕も私の肩に回るようにする。そっから先はもうただ必死に足を動かすしかない。浮かべ浮かべなんて祈りながら水面を見上げたけど、不思議といっていい程彼の体は浮く様子がない。なんだこれはカナヅチってやつか。私にカナヅチの知り合いなんていないからどんなものなのかなんてわからないけど、この人がカナヅチだとしたら大変だぞ。いや、それならそもそも海に出るな!
パシャリ。見上げた先にある水面に何かが落とされた。疲れてるし海水で目も痛いしの中で見上げるのもまた大変で、でも先にあるものは見定めなきゃいけない気もするしあわよくば私以外の誰かが飛び込んで助けてくれないかなんて期待したけど、実際私の濁った視界に写ったものと言えば丸の中に更に丸い空間があるドーナツ状のそれ、どこからどう見ても浮き輪。
(ちっくしょ……!)
ふよふよと優雅に浮かぶそれを見て、無性に悔しくなった。私だって出来る事ならあんたみたいに浮かびたいんだってば!
頭ん中で悪態つきながら更に上へ上へと行く。悔しさやらなんやらでなりふり構わずになってひたすら向かって行った。そこまでくると勝手に慣れてくれたのかなんとなく抱えながら進む方法もわかってきて、こつがわかれば楽勝と調子に乗る。更にがむしゃらに動かしていけば浮き輪に手が届く範囲まで近付いた。
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右を見ても左を見ても海海海海海海海!
なんだこれは!と叫んだのは記憶に新しいが、そこから何時間も経っては叫ぶ気力すらない。だいたい何で焦らずもせずに叫べたのか。叫べるだけ余裕だったんじゃないかとすら思えるくらいに、私は疲れていた。いや、逃避し始めていた。もうなんなんだこれは。
「せめて説明してよ……」
小さく呟いたはずなのに、一人ぼっちで海を浮遊していると妙に大きく聞こえた。はははなんて乾いた笑いが無意識に出て、それがまたいい感じに響くからもう何とも言えない気持ちにさせられる。
――――全く憶えがないのだ。私は明日提出するレポートが終わってやったぜコノヤロウなんて言いながらノンアルコールシャンパンに手出して、気持ちだけ大人ぶってゆっくりしていたのだ。それなのに気がついたら海の上にぽつりと浮かぶ小舟で寝ていて、勿論海に出た記憶すらない。夢かと思って頬をつねったり気長に待ってみたけど、現状は変わる事がなくてだんだんと焦りを感じ始めている。なんだ、何が悪かったんだ。やっぱり大人ぶってノンアルコールシャンパンなんか飲んだからか?どうせなら成人してから飲めってか?何言ってんだ、それならそんなもん作り出した会社に問い合わせなさい。私を巻き込むな!それともあれか、昨日授業中に携帯やってたのをバラされた腹いせによっちゃんの昼飯全部取ったのが悪かったのか。いや、流石に私もあれはやり過ぎたと思ってる。それについてはちゃんとお詫びして三日くらいよっちゃんに昼飯奢ってやる気でいた。こんな事にならなくたって充分反省してる。それでもまだ足りないって事?
はぁ、なんて溜め息吐いた所で現状は全く変化なし。けれども吐かずにはいられなくって、もうこの数時間の中で何回溜め息吐いたんだろうってくらいである。
「………ん?」
ふと、遠くに見えた船……………船?船にしては、でかくないだろうか。第一金属で出来ているようにも見えない。例えるならそう、昔の海賊船のような。ついに幻覚でも見ているのだろうかという気にもなったけど、波の強さはその船が近づくにつれだんだんとでかくなっているようだから、実在しているのだろう。
――助けて貰えるかもしれない。
一瞬過った考え。けどなんか、……まずそうな気もするのだ。どう考えたって普通の船じゃない。だけど、このまま助けを求めなければ流されるままだ。
どうしようか、なんて頭を悩ませていたら―――
―――――バシャン!
はぁ!?と思わず声が出る。だって、だって!落ちた!あの高さの船から一直線に!一瞬しか見えなかったけど、明らかに人の形をしていた。落ちたら普通に浮かぶし自分でも水面に出ようとしてくるはずだけど、一向に顔を出す気配がない。心なしか船の上でも騒がしげな声が聞こえ始めた。でも体格も良さそうだったし、多分大丈夫。………うん。多分。
「ああああ!上がってこないじゃないか!!」
ポジティブに考えてみたって全然ダメだった。ぶくぶくと泡っぽく息が漏れてるのも視界に入っちゃって、そこまできたらもう気のせいでも大丈夫でも何でもない。溺れてるのが確定的だ。
仕方ないなぁもう!意気込んで上着を小舟に放り投げて携帯やら財布やらも投げ出す。――大丈夫、これでもちゃんと体育の水泳は成績取ってた。人並みに泳げるはずだ。一度深く息を吸い込んで水の中に飛び込んだ。当然ながら無理矢理目を開けて水の中を探せば海水が目に染みて痛かった。冗談じゃない、飛び込んだなら助けなきゃ意味がないじゃないか。痛くて痛くて仕方ないけど、自分を奮い立たせて目を見開く。
―――居た。
海の底へ底へと、誘われていく上半身裸の男の人の姿を捉えた。両手両足がだらりと投げ出されていて、やっぱり溺れていたんだと確信。良かった、あのままにしてたら私はこの人を見殺しにする事になるとこだった。異性に半裸というのは少し抵抗があったけど、お互い命掛かってるんだからそんなもの一瞬で吹き飛ばす。心配すべきはどちらかと言えば普通に体格の良い彼を私が水面まで持っていけるかということ。とりあえず離さないようにと肩にしっかりと腕を回し、相手の腕も私の肩に回るようにする。そっから先はもうただ必死に足を動かすしかない。浮かべ浮かべなんて祈りながら水面を見上げたけど、不思議といっていい程彼の体は浮く様子がない。なんだこれはカナヅチってやつか。私にカナヅチの知り合いなんていないからどんなものなのかなんてわからないけど、この人がカナヅチだとしたら大変だぞ。いや、それならそもそも海に出るな!
パシャリ。見上げた先にある水面に何かが落とされた。疲れてるし海水で目も痛いしの中で見上げるのもまた大変で、でも先にあるものは見定めなきゃいけない気もするしあわよくば私以外の誰かが飛び込んで助けてくれないかなんて期待したけど、実際私の濁った視界に写ったものと言えば丸の中に更に丸い空間があるドーナツ状のそれ、どこからどう見ても浮き輪。
(ちっくしょ……!)
ふよふよと優雅に浮かぶそれを見て、無性に悔しくなった。私だって出来る事ならあんたみたいに浮かびたいんだってば!
頭ん中で悪態つきながら更に上へ上へと行く。悔しさやらなんやらでなりふり構わずになってひたすら向かって行った。そこまでくると勝手に慣れてくれたのかなんとなく抱えながら進む方法もわかってきて、こつがわかれば楽勝と調子に乗る。更にがむしゃらに動かしていけば浮き輪に手が届く範囲まで近付いた。
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