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いつだって此処に
「いやー、助かった!」
ありがとな!なんて笑顔で言うリーゼントさんに、はぁと気が抜けた声で返事をしてしまった。私が助けた人はその後ろで他の人にお腹を押されて噴水の如く水を吹き出していた。見事。
―――どうやら彼は泳げないらしく、それなのに周りとふざけて落ちたらしい。周りも周りだが、気を付けなかった彼も彼だなぁと思いつつとりあえずその恐らく彼とふざけていたであろう人達をすごい形相で叱りつけてる人が視界に入ったので何も言わないでおく。寧ろどちらかと言うと叱りつけてる人の髪に目がいってそれどころじゃない。なんだあの素晴らしいお御髪は。目の前のリーゼントさんといい、個性的なのが多くないか。
ぽへりと説教の様子を見ていれば、リーゼントさんが控えめにあのさと言ってきたので慌てて視線を戻した。
「なんですか?」
「うーん……助けて貰ってちょー嬉しいし、なんかお礼もしてあげたいんだけどさ……」
「はぁ」
「着替え、ないんだよな。女の子が着れる」
頬を掻きながら苦笑いするリーゼントさんに私も苦笑。確かに海水で服はべたべたしてるし出来れば着替えたい所だが、見るからに男ばっかのこの船には最初から大して期待していない。自然乾燥上等。帰れば着替えなんて山ほどあるのだから。女の子としてどうなんだなんてちょっと過ったけど、やっぱり贅沢は言えないしそもそも一応善意で助けたのだからお礼なんてなくてもいい。
その旨を伝えればリーゼントさんは少し目を見開いた後にちょっと待ってなと言って後ろにいるさっきの個性的なお御髪をしてる人の所に行った。個性的と個性的が並んで、うん。なんともシュールな絵面だ。
待ってる間は暇なのでせっかくあまり来ない海にいるのだから、と改めてぼーっと周りを見渡した。知らない人がいっぱいいる中でそんな事してて大丈夫かとも思ったけど、別段気にしなくても大丈夫というか何だか人が良さそうな人達ばかりに見えるからいいかなぁなんて楽観的に思いながら海見たり空見たり。わかっていたが陸は―――――なかった。
こんな大きな船なら見えるんじゃないかと期待していたのだが、やはりそう簡単にはいかないらしい。完全に海の上にぽつん、だ。
「何か珍しいもんでもあったかい?」
声にはっとして見れば、先ほどまで遠くで話をしていた素晴らしきお御髪コンビが目の前にいた。ぼーっとしていたから周りに気付かなかったわけで驚いたが、彼等は全く気にした様子もないようだ。何だこの一方的な恥ずかしさは。相手が反応ないからこそ更に恥ずかしいじゃないか全く。
反射的に緩む口を出来るだけ引き締めて、首がちょっと痛いなぁなんて思いながら視線を合わせた。
空色の目、だ。
「海を見るのが久々だったので、つい」
苦笑のような中途半端な笑みを浮かべながら言ってみたが、変な表情だろうな。せっかく変にならないようにと緩んだ口を引き締めたのに、意味がなかった。
すると目の前にいた二人は一瞬怪訝そうな顔をして顔を合わせた後、疑うような目で見たきた。え。確かにおかしいし気持ち悪い顔だったと思うけどそこまでしちゃう?どんだけおかしかったんだ。今度からちょっと笑うのも怖くなりそうじゃないか後で鏡見てみよう。
「………海を見るのが、久々?」
やっぱり変わらない疑うような視線でそう問いかけられ、その空色の目の中になんとなく鋭さすら感じた。ホントに、なんとなくだけど。
けれどなんとなくでも鋭く感じてしまったら怯んでしまう。表情がおかしかったんだろうと私は思ってたけど、そうじゃなかったのかもしれない。心なしか空気までぴりっとした気がして、私は完全に硬直した。けれど。――――このまま何も言わないのは、もっとまずいのだろう。
「……はい。海から遠い所に、住んでいたので」
なんとか絞り出してそう言えば、空色の目は何も言わずにじっと見つめてきた。
大丈夫。嘘は、言ってない。
これはきっと定められてる。私が嘘を言ったかどうかを。何でそんな事定めるのだろうかとか色々わけわからない事もあるけど、あまり強気でもない日本出身の私としてはやはり色々穏便にすませたい。
………………ちょっと、待て。
日本、人?
「………そうかよい。ならあんたの島は、よっぽど広かったんだねい」
一気にぴりっとした空気が弾けて、最初の時の穏やかな空気があたりに流れた。
リーゼントさんも疑いの目ではなくなって笑ってるし、目の前にいる空色の目の人は世間話のようにさっきの言葉を言った。いや、世間話のようにというか、本当に世間話なんだろう。そういうつもりなんだろう。
だけど―――――もう、駄目だ。今度は私が疑う番。誰に、という訳じゃない。だってこの人達もまた嘘をついてる様子はないもの。別に普段第六感が良いだとかそんなんじゃないけど、なんとなく。私が今抱いてる疑問も相手の反応も。今、起きてる現象も。
何かがおかしいと、心が言ってる。
あぁもう。馬鹿か私は。何で私がいきなり海のど真ん中にいたのか。何でまるで昔の時代のような船がいたのか。何で――――この船に、東洋人を見かけないのか。
そして何で、彼等は島≠ネんて言ったのか。
何で。
――――私は、何も疑問を持たなかったのか。
よく考えたら、おかしい事ばかりじゃないか。
私の疑問は向こうにも伝わったらしい。さっき説かれたかもしれない緊張感がまた戻ってきて、ぴりぴりとした空気は最早一方的でなく私と向こう。両方にまで及ぶ。こうなっては、まともに世間話も出来ないし信用もよくわからない。
「………ちょっと話した方が良さそうだねぃ」
お互いに。
彼はそう言い、私は頷いた。