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進めないのは誰のせい


「………いいのかィ?」
「いいんです。それで」
「………なら、おれも他言はしねェさ…」
「あはっ…………ありがとうございます、」


―――約束ですよ、イゾウさん





戒めのような言葉が、頭に響いた。








ぱちり、目を覚ます。
頭が、痛い。
いつからかと言うと、一昨日から。家に帰ってきた途端に風邪ひいて、その余韻がまだ残ってるらしい。朝の目覚めは、最悪だ。

そう―――帰って、来たんだ。

どこから、なんてわからない。あの世界がなんだったのか、私が経験した出来事はなんだったのか、わからない。ただこっちの世界ではちゃんと時間が流れていて、弟には泣きつかれた。失踪したと思われていたらしい。………まぁ、当たり前か。
向こうで過ごした時間は、こちらの世界の一週間分らしい。風邪ひいて休んでた分も入れて、約二週間分に学校にも行ってみた。そこではよっちゃんが待ち構えていて、抱き付かれた。私は間抜けなことに、「お昼ご飯ごめんね」という言葉が真っ先に出てしまったけれど、よっちゃんは何も突っ込まなかった。ただただ、力強く抱き付くだけで。

ずっとずっと、よっちゃんに謝らなきゃと思ってたの。


「――姉さん、」
「…………あぁ、おはよう」
「体調は?まだ痛い?」
「うん、まぁ…ちょっとはね」

土曜日の、家。本物の我が家。
随分久しぶりに感じる弟は、未だにどこか心配そうにしてる。普段はツンツンしてる子だけどまぁ、今は仕方ないかな。
私は、今までどこで何をしてたのか一切話してない。捜索願が出されてたみたいだったから、そこでは自分探しの旅に出てましたと言ってみた。物凄く怒られたけど、特に怪しまれもしなかった。そんなんでいいのか警察………。

「ご飯、食べる?」
「んー…いいや、いらない」
「…薬飲めないじゃん」
「お腹空いた時に食べて飲むよ」

むすっとした弟は、何か言いたげだ。このまま放っといてもいいけど、その場合は後が怖い。きっと無理やり食べさせられて、無理やり薬を詰め込まれると思う。いくら心配してたからといって、こいつの私に対しての遠慮のなさは変わってないと思う。ツンデレかお前は。

「わかった、食べるよ……食べるから、無理矢理とかはやめろよ〜」
「姉さんは俺をなんだと思ってるの」
「うっわ、最近まで僕とか言ってたのに!俺って!まぁやだ、お姉ちゃんそんなみづめ君知らないわっ!」
「は?なめてるの?」
「………ごめんて」

遠慮どころか手加減もなかった。ガチで睨み付けてきたよこいつ……なんなのこの小学生…。十歳にしちゃマセてない?やんなっちゃうなぁもう。
ついでに、と洗濯物を渡したらまた睨まれた。けど、文句を言わない辺り持っていってくれるらしい。全くもって素直じゃない。ツンツンどころかツンツンツンツン並にツンしかない。………いやそれ、ツンデレじゃねぇな…。

「あ……姉さん」
「ん?まだ用?」
「ちゃんと待っててね」
「は?」
「……ちゃんと、…此処にいてね」

ばたん。無情にも閉められた扉をポカンとした顔で見つめる。返事なんか聞く気はないようだ。いい逃げかコノヤロウ……。

(――ツンツンツンツン、……デレ、ですか…)


何処にも行かないで。
そう、聞こえてしまった。

ぼふりと、這い出たはずの布団の中に潜りこむ。意図したわけでもない渇いた笑いが出ては、繊維に吸収される。
なのに、中にいる自分には逆に大きく聞こえてしまった。

「行かないし……行くわけにも、いかないっての」

誰に言ってるわけでもない言葉。弟にかもしれないし、自分にかもしれない。でも、結局弟に言ったところで知らないのだから意味がない。自分に言ってるなら……もっと、意味がないことだ。
未練がましいにも程がある。

――ただいま、おかえり。
そう交わしたその時を思い出しては、相殺する。
だって、違うから。


「ただいまは………この世界だけ、だよ」


そうじゃなきゃ、でしょ?


――小さな囁きは、やっぱり私には大きく感じた。
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