menu
top    about    main

歩んでも止まるしか


「姉さん、どうしたの?」

ベッドの上で突然起き上がり、硬直。驚きのあまり膝立ちなんかした私は、多分はたから見たらフェレットみたいだと思う。現に絶賛勉強中のみづめ君が不思議そうに見てるからね。けどきっと彼はそのフェレット状態を不思議がったんじゃない。それは断定出来る。

―――私は、驚くということはあっても、あからさまに出さない。例えば今見たいに、無音とはいえ跳ね起きたり、しない。現にこの間の体験………異世界旅行とでも、言っておこうか。その時だって、そこまでオーバーにはリアクションしなかったはずだ。……まぁ自分視点だから事実はわからないけど。
あれは本来なら取り乱してもおかしくないはずのもので、嘘だって、信じたくないようなもののはずで。でも私は、受け入れられた。ただ居場所がないんだなとしか、思わなかった。あれだけの体験をした時でさえその程度なのに、普段の生活じゃもっとリアクションなんて出るわけない。みづめ君は、だからこそ不思議そうにしたんだと思う。

「どうしたの?それ、なんかあったの?」 
「………いや、」
「本当に?…なんか、そう見えないんだけど」

ぴょこりと、みづめ君が私の手元を覗き込んだ。勿論みづめ君の予想通り、手の中のそれ……一冊の漫画が。原因では、あるけど。

(――言えるわけが、ないだろうよ…)


「…新しく出たキャラが中々にイケメンだったから」
「はぁ?何それ、そんだけ?」
「うん。案外面白いよ、これ」
「そりゃあ人気だからじゃない?俺よく知らないけど」
「読む?」
「人から借りたんでしょ。読まない」

やれやれと、興味がなくなったらしいみづめ君は場所移動を始めた。そりゃ漫画読んでる人の隣で勉強なんて出来ないよな。寧ろ言いたいのは休みの日にやることが勉強とか、小学生じゃないよ君。将来どんだけエリートになるつもりなの。
バタン!と扉をしっかり閉じたみづめ君は、もう多分暫くは此方は気にかけないと思う。
ふぅ、と。思わず息が漏れた。その後落ち着いて座ってから、ちらりと、漫画を覗き込む。さっきまで見ていたページには、変わらず―――テンガロンハットが、居た。 

「おいおいおい……カナヅチって、そういうことだったの………」

我ながらバカっぽい一声だと思う。けど結局そのカナヅチが出会うキッカケとなっちゃったもので。私があの人たちと、出会う序章だったわけで。
忘れられるはずがない、出来事で。

似てるな、とは思ってた。
気分が落ち込まないようにと、よっちゃんが漫画を貸してくれた。せっかくの気遣いを断るのもあれだし、ついでにまぁ、どうも昔から人気らしいのは知ってたから、せっかくの機会にということで読むことにした。一気に全巻……何冊あるの?五十くらい?パッと見そんな感じ。
最初の一冊目を読んだ時点で、似てると思った。悪魔の実とかがあったのかは知らないけど、どうも世界観が似てると。それだけだった。
話自体も面白いし、確かにこれは人気出るなぁなんて、思った矢先。

その姿が、現れた。


「エース、さん……」

見たことあるとか似てるとか、そんなレベルじゃない。
もう、見慣れてしまっていた、姿。

あの時に思わなかったあり得ないという気持ちが、今になって出始めてる。私は夢でも妄想でもなく、確かに存在する世界に行ったんだということ。それから、エースさんが悪魔の実の能力者で、だからこそあの日、沈んでいたんだということ。その二つは納得出来て、スッキリして、安心したのに。
どうしたって解決出来ない新たな疑問まで、浮上してしまった。

「…………世の中、わかんないね」

ボスリと、ベッドに寝転ぶ。
どうやって漫画の世界に行ったんだとか、そんな当たり前のような疑問は大して問題ではなくて……私が思ってしまったのは、もっと、別のことで。

此方からなら、会えなくても元気かどうかくらいはわかるってことが、わかった。
けどその代わり………予想通り、簡単には…いや。

もう二度と会うわけにはいかないって、わかった。


「…私、気にするとこちげー……」



―――それでもどこか、…胸が、つっかえるようで。
- 2 -