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5
めげめげ。面白そうな物語が始まると思ったら、何もなかった悲しみ。期待値はどこへ。
しょげる気持ちを引き摺りながら、城内を歩くカタクリさんのあとをついていく。やることないなら勝手に散歩してていいんじゃないかと思ったけど、それで知っちゃいけない話を得てしまったら過去のカタクリさんが大変なのかもしれない。
実際、私にはカタクリさんの過去や未来の影響は関係ない。しかしさっき真剣に説明してくれたことを思えば、無下にすることも出来ず、気が引ける思いがある。
うーん。迷子になっちゃいそうだし、誰とも話せないのはさみしいし。いっか。
すいすいと前へ進みながら、思考をぽいと投げた。
「これから、何かするんですか?」
「ペロス兄に会う。この国がどんな島で、どんな人間か知るまで、お前はおれから離れるな」
「あ、確かに」
「……許可するまで出歩くなよ」
訝しげな目をされた。う。見抜かれてる。さっきまで散歩しようか考えてたとは言えない。
はいともいいえとも言えず、曖昧に笑って誤魔化した。
(……それにしても)
顔は逸らしながら、ちらりと横目で様子を伺う。──目が、わかりやすい人だな。
関わった時間は僅かだけれど、カタクリさんはマフラーで顔半分が見えない分、目で感情を語る気がした。
それは身長差のある他の人たちにとってわかりづらく、目に入りにくい変化なのだろうけど、浮くことの出来る私にとってはよく見える変化だった。
有りがたいなあ。わからなかったら、たぶん、怖い人だと思ってた。
ほっとしながら、弛んだ口許で笑みを浮かべる。よくできた夢の作りには感心するし、純粋に嬉しさもある。意思の疎通は、結構大事なことだ。
「…………」
「……? なんですか?」
「……いいや」
……な、なんだ。今の、何の目だ。
妙な空気に狼狽えて観察するも、カタクリさんはもう正面を見ている。見られていたのはわかるのに、意図がわからない。な、なに、なんですか、その目は……!
仕方なく、がくりと肩を落とす。
前言撤回だ。距離が近くて顔が見えていても、わからない時はある。
ちょっとわかった気でいただけに、なんとなく落ち込むけど……まぁ、そういうものだろう。まだまだ初対面だってことで、気持ちを切り替えるしかない。
「着いたぞ。今から兄に会う。ペロス兄は長男でおれは次男だ」
言われて顔を前へ向けると、相変わらず大きな造りの扉。素材もお菓子のようで、板チョコっぽい。
「すぐ上のお兄さんですね」
「ああ。極力話しかけるのは避けろ。おれは二人いっぺんに話を聞けない。ペロス兄もお前を認識してない」
「はーい」
「妙なことはするな」
「はーい」
「……」
本当にわかってるのか。と言いたげだ。
失礼な、それくらいわかりますよ──反論したい気持ちをぐっと抑える。私に反応してたら、ペロスお兄さんがカタクリさんを変に思うってことでしょう?
声に出せば余計疑われそうな気がしたので、表情だけでわかってますよアピールをした。それを信用してくれたのか、別にどうでも良いと思ったのかはわからないけど、カタクリさんは何も言わず扉へ向き直る。
コンコン。お菓子とは思えない、木のドアみたいな音が響く。
えらいなぁ。兄弟なら気にせず入っちゃいそうなもんなのに、ちゃんとノックするのかー。やっぱりお城に住んでるだけあって育ちがいいのかもしれない。
──あれ? 育ちといえば。
ふと、疑問が頭にわいた。
首を傾げてしまった動作はカタクリさんにも見えていただろうけど、反応はない。もうノックしてしまったし、聞かない方がいいのか迷う……けれど、いつ目が覚めるかわからないし、返事がなかったらないでいいか、ととりあえず疑問を口に出してみる。
「カタクリさんって、いま何歳ですか?」
「……二十一」
思ったより若い。というか、あっさり答えてくれたな。
小声でもらった答えに頷いていると、扉が開いた。
部屋の中は、光が差し込んで僅かに眩しい。見れたのは小さな使用人らしき人が二人。真ん中にある大きなソファーに一人。
それから、
「よォ、カタクリ。遅かったじゃねェか、ペロリン?」
──……ペロリンって、なんだ。
随分楽しそうに話しかける、声だった。← →
しょげる気持ちを引き摺りながら、城内を歩くカタクリさんのあとをついていく。やることないなら勝手に散歩してていいんじゃないかと思ったけど、それで知っちゃいけない話を得てしまったら過去のカタクリさんが大変なのかもしれない。
実際、私にはカタクリさんの過去や未来の影響は関係ない。しかしさっき真剣に説明してくれたことを思えば、無下にすることも出来ず、気が引ける思いがある。
うーん。迷子になっちゃいそうだし、誰とも話せないのはさみしいし。いっか。
すいすいと前へ進みながら、思考をぽいと投げた。
「これから、何かするんですか?」
「ペロス兄に会う。この国がどんな島で、どんな人間か知るまで、お前はおれから離れるな」
「あ、確かに」
「……許可するまで出歩くなよ」
訝しげな目をされた。う。見抜かれてる。さっきまで散歩しようか考えてたとは言えない。
はいともいいえとも言えず、曖昧に笑って誤魔化した。
(……それにしても)
顔は逸らしながら、ちらりと横目で様子を伺う。──目が、わかりやすい人だな。
関わった時間は僅かだけれど、カタクリさんはマフラーで顔半分が見えない分、目で感情を語る気がした。
それは身長差のある他の人たちにとってわかりづらく、目に入りにくい変化なのだろうけど、浮くことの出来る私にとってはよく見える変化だった。
有りがたいなあ。わからなかったら、たぶん、怖い人だと思ってた。
ほっとしながら、弛んだ口許で笑みを浮かべる。よくできた夢の作りには感心するし、純粋に嬉しさもある。意思の疎通は、結構大事なことだ。
「…………」
「……? なんですか?」
「……いいや」
……な、なんだ。今の、何の目だ。
妙な空気に狼狽えて観察するも、カタクリさんはもう正面を見ている。見られていたのはわかるのに、意図がわからない。な、なに、なんですか、その目は……!
仕方なく、がくりと肩を落とす。
前言撤回だ。距離が近くて顔が見えていても、わからない時はある。
ちょっとわかった気でいただけに、なんとなく落ち込むけど……まぁ、そういうものだろう。まだまだ初対面だってことで、気持ちを切り替えるしかない。
「着いたぞ。今から兄に会う。ペロス兄は長男でおれは次男だ」
言われて顔を前へ向けると、相変わらず大きな造りの扉。素材もお菓子のようで、板チョコっぽい。
「すぐ上のお兄さんですね」
「ああ。極力話しかけるのは避けろ。おれは二人いっぺんに話を聞けない。ペロス兄もお前を認識してない」
「はーい」
「妙なことはするな」
「はーい」
「……」
本当にわかってるのか。と言いたげだ。
失礼な、それくらいわかりますよ──反論したい気持ちをぐっと抑える。私に反応してたら、ペロスお兄さんがカタクリさんを変に思うってことでしょう?
声に出せば余計疑われそうな気がしたので、表情だけでわかってますよアピールをした。それを信用してくれたのか、別にどうでも良いと思ったのかはわからないけど、カタクリさんは何も言わず扉へ向き直る。
コンコン。お菓子とは思えない、木のドアみたいな音が響く。
えらいなぁ。兄弟なら気にせず入っちゃいそうなもんなのに、ちゃんとノックするのかー。やっぱりお城に住んでるだけあって育ちがいいのかもしれない。
──あれ? 育ちといえば。
ふと、疑問が頭にわいた。
首を傾げてしまった動作はカタクリさんにも見えていただろうけど、反応はない。もうノックしてしまったし、聞かない方がいいのか迷う……けれど、いつ目が覚めるかわからないし、返事がなかったらないでいいか、ととりあえず疑問を口に出してみる。
「カタクリさんって、いま何歳ですか?」
「……二十一」
思ったより若い。というか、あっさり答えてくれたな。
小声でもらった答えに頷いていると、扉が開いた。
部屋の中は、光が差し込んで僅かに眩しい。見れたのは小さな使用人らしき人が二人。真ん中にある大きなソファーに一人。
それから、
「よォ、カタクリ。遅かったじゃねェか、ペロリン?」
──……ペロリンって、なんだ。
随分楽しそうに話しかける、声だった。