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本当に、何なんだろうな、今回は……!
どこかに去ってしまったカタクリくんを追いかけることもなく、そのうち目が覚めるでしょ〜と能天気に構えてみていた。今までを振り返れば、割とすぐ目が覚めてきたのだ。変にカタクリくんを刺激するよりは、時間を潰して次回へ様子見した方が余程いい。そう思った。
……の、だけど。
判断を……間違えたかもしれない。
「全く、目が覚める気配が、ないんだけれど……!」
いつもならこんな長くはない……と言い訳のような言葉をぽつりと呟く。カタクリくんと分かれてから、既に数時間は経過していた。
この数時間で出来たことといえば、カタクリくんに出くわすことがないように船の中を探索し、それでもやることがないからと船の帆まで浮き上がって。ぼんやり海を眺めるに至っても、島が見えることもなく。ただ無暗に時間を使っただけ。
はあとため息を吐く。
いつ帰れるんだろう。というか、何で海にいるんだろう。
──海。
ふと、この前トキちゃんに話した内容を思い出した。
「……いやいや、まさか……」
瞬間、サァっと、血の気が引く。
カタクリさんとペロスお兄さんが口にし、私も気にしていた単語が、あるじゃないか。
いや、しかし。でも、ですね。
いくら、その単語がちょっと気になっていたとはいえ。本当に夢に影響が出ては困る。ものすごく、困るのだ。
お菓子の城と巨人ならまだしも。もし、カタクリくんが……海賊に、なんて、なっちゃってたりしたら。そんなの、更に心労が溜まるに決まってる。だから。
「きっと、勘違いに決まって───、」
…………る。
言いかけた言葉は最後まで発することが出来なかった。
──い……いやいやいや……!
口をあんぐりと開ける。呟きながら俯いて見えた先にある帆。大きな船に見合うだけの大きな帆に、でかでかと何かマークが書かれている気が、する。
ひくり。口角がひきつる。
見たくない。見ちゃいけない。見たら終わりな気がする。いや、でも、ほんと。ダメ、ぜったい。
……、……。
「……も〜〜!!」
見ちゃった……!
顔を両手で覆いながら、その場でじたばたと感情を吐き出す。
ドクロ、というにはちょっぴりおしゃれな。口紅をした女の人のような唇に、ピンク色の髪……? 背景……? のあるデザイン。でも、そうだと言って遜色ないだろう。
船の帆にドクロが描かれている。意味するものはひとつだ。
「……カタクリさん、どういうことですか……」
今は居ない、静かでも親切な成長後の巨人さんを、思い浮かべた。
「……こんにちは、カタクリ、くん」
「回数」
「累計八回目、かな」
「……昨日七回目に会った」
くるり。あっ、と止める間もなくカタクリくんはどこかへ立ち去る。
まさか、そんな、ばかな……! 昨日に引き続き、置いていかれた船内で一人項垂れる。連続して会ったのは私も同じだ。
海賊旗を見てから、昨日どうやって目が覚めたのか。まったく覚えがない。
夢から覚める時はいつも突然で。急にぶつりと現実に戻る時もあれば、こちらの世界で眠くなって、意識がフェードアウトする時もある。夢の中にいる時間は、体感としてはそんなに長くない。
……昨日は、ちょっと長かったけど。
「だからといって、また同じ夢を見なくても……!」
私は別に、マゾでも何でもないんだぞ!
誰に文句を言ったらいいのかわからないけれど、この場合、自分自身の無意識に不満をもらすしかないだろう。
相手は夢に出てくるだけの人で、しかも子供だ。十二歳児だ。なのに、どうでもいいと蹴飛ばすことができない。
視線をさ迷わせながら、途方に暮れる。浮いているはずの身体は、なんだかその場に縫い付けられたかのような感覚がして。
「……今日も探索、しよう」
例え夢でも、人に嫌われて、気分がいいはずはない。
でも、向き合おうと思えるほど、勇気があるわけでもなくて。
「……」
「……こんにち、あっ」
目が合う。挨拶をする。踵を返す。
これで三回目。ぽつんと孤独を感じながら、遠ざかっていく背中を見送った。……私もちょっと慣れてきたぞ。
ああああ〜……と項垂れながら床に座り込む。冷たい空気も近づくなオーラも驚かなくなってきた。周りを見ても、昨日一昨日と変化がない。二日連続で数時間も探索し続けていたんだ。嫌でも見慣れてしまう。
(でも……ですね……!)
ぎりい、と歯を食い縛る。──流石に無視は、ひどいんじゃないかなあ……!
心臓のあたりに重りをつけたかのように、気分がずるずると下がっていく。
今日は回数すら聞かれなかった。目が合ったことすら、なかったことのように踵を返したのだ。
そりゃあ、毎回毎回、自分にしか見えない幽霊がつきまとってきたら、嫌だなと思うかもしれないけれど。……確かに私がカタクリくんと同じ立場だったら、絶対無視するとは思う。現実だと思えないから。
でも、ここは私の夢で、彼は幻だ。主導権が私にあってもいいはずじゃないのか。
ふつり。お腹のあたりに、熱が溜まる。
そうだ──そうだよ、まったく!
今更の文句でも、私からしたら毎回夢に出てくる君の方が、よっぽど不思議だよ! しかも無視なんかされたら、嫌に決まってるじゃんか!
ひとつ堰を切ってしまえばどんどん考えが溢れる。もう細かい姿を忘れつつある成長後のカタクリさんを思い出して、唇をきゅっと噛んだ。貴方の子供時代、あまりにも態度が悪くないですか、カタクリさん。
遥か遠くの人にまで文句を思うのはとばっちりもいいとこだけど、許してほしい。今の彼には何も言えない。
「……あんなに、親切だったのに」
自分の声が、思ったより心もとなく響く。
──筋違いだと、わかっていても。
思わずにはいられないんだ。
何で、邪険にするのかって。
こうなるなら、始めから冷たいほうが……よっぽどよかった。← →
どこかに去ってしまったカタクリくんを追いかけることもなく、そのうち目が覚めるでしょ〜と能天気に構えてみていた。今までを振り返れば、割とすぐ目が覚めてきたのだ。変にカタクリくんを刺激するよりは、時間を潰して次回へ様子見した方が余程いい。そう思った。
……の、だけど。
判断を……間違えたかもしれない。
「全く、目が覚める気配が、ないんだけれど……!」
いつもならこんな長くはない……と言い訳のような言葉をぽつりと呟く。カタクリくんと分かれてから、既に数時間は経過していた。
この数時間で出来たことといえば、カタクリくんに出くわすことがないように船の中を探索し、それでもやることがないからと船の帆まで浮き上がって。ぼんやり海を眺めるに至っても、島が見えることもなく。ただ無暗に時間を使っただけ。
はあとため息を吐く。
いつ帰れるんだろう。というか、何で海にいるんだろう。
──海。
ふと、この前トキちゃんに話した内容を思い出した。
「……いやいや、まさか……」
瞬間、サァっと、血の気が引く。
カタクリさんとペロスお兄さんが口にし、私も気にしていた単語が、あるじゃないか。
いや、しかし。でも、ですね。
いくら、その単語がちょっと気になっていたとはいえ。本当に夢に影響が出ては困る。ものすごく、困るのだ。
お菓子の城と巨人ならまだしも。もし、カタクリくんが……海賊に、なんて、なっちゃってたりしたら。そんなの、更に心労が溜まるに決まってる。だから。
「きっと、勘違いに決まって───、」
…………る。
言いかけた言葉は最後まで発することが出来なかった。
──い……いやいやいや……!
口をあんぐりと開ける。呟きながら俯いて見えた先にある帆。大きな船に見合うだけの大きな帆に、でかでかと何かマークが書かれている気が、する。
ひくり。口角がひきつる。
見たくない。見ちゃいけない。見たら終わりな気がする。いや、でも、ほんと。ダメ、ぜったい。
……、……。
「……も〜〜!!」
見ちゃった……!
顔を両手で覆いながら、その場でじたばたと感情を吐き出す。
ドクロ、というにはちょっぴりおしゃれな。口紅をした女の人のような唇に、ピンク色の髪……? 背景……? のあるデザイン。でも、そうだと言って遜色ないだろう。
船の帆にドクロが描かれている。意味するものはひとつだ。
「……カタクリさん、どういうことですか……」
今は居ない、静かでも親切な成長後の巨人さんを、思い浮かべた。
「……こんにちは、カタクリ、くん」
「回数」
「累計八回目、かな」
「……昨日七回目に会った」
くるり。あっ、と止める間もなくカタクリくんはどこかへ立ち去る。
まさか、そんな、ばかな……! 昨日に引き続き、置いていかれた船内で一人項垂れる。連続して会ったのは私も同じだ。
海賊旗を見てから、昨日どうやって目が覚めたのか。まったく覚えがない。
夢から覚める時はいつも突然で。急にぶつりと現実に戻る時もあれば、こちらの世界で眠くなって、意識がフェードアウトする時もある。夢の中にいる時間は、体感としてはそんなに長くない。
……昨日は、ちょっと長かったけど。
「だからといって、また同じ夢を見なくても……!」
私は別に、マゾでも何でもないんだぞ!
誰に文句を言ったらいいのかわからないけれど、この場合、自分自身の無意識に不満をもらすしかないだろう。
相手は夢に出てくるだけの人で、しかも子供だ。十二歳児だ。なのに、どうでもいいと蹴飛ばすことができない。
視線をさ迷わせながら、途方に暮れる。浮いているはずの身体は、なんだかその場に縫い付けられたかのような感覚がして。
「……今日も探索、しよう」
例え夢でも、人に嫌われて、気分がいいはずはない。
でも、向き合おうと思えるほど、勇気があるわけでもなくて。
「……」
「……こんにち、あっ」
目が合う。挨拶をする。踵を返す。
これで三回目。ぽつんと孤独を感じながら、遠ざかっていく背中を見送った。……私もちょっと慣れてきたぞ。
ああああ〜……と項垂れながら床に座り込む。冷たい空気も近づくなオーラも驚かなくなってきた。周りを見ても、昨日一昨日と変化がない。二日連続で数時間も探索し続けていたんだ。嫌でも見慣れてしまう。
(でも……ですね……!)
ぎりい、と歯を食い縛る。──流石に無視は、ひどいんじゃないかなあ……!
心臓のあたりに重りをつけたかのように、気分がずるずると下がっていく。
今日は回数すら聞かれなかった。目が合ったことすら、なかったことのように踵を返したのだ。
そりゃあ、毎回毎回、自分にしか見えない幽霊がつきまとってきたら、嫌だなと思うかもしれないけれど。……確かに私がカタクリくんと同じ立場だったら、絶対無視するとは思う。現実だと思えないから。
でも、ここは私の夢で、彼は幻だ。主導権が私にあってもいいはずじゃないのか。
ふつり。お腹のあたりに、熱が溜まる。
そうだ──そうだよ、まったく!
今更の文句でも、私からしたら毎回夢に出てくる君の方が、よっぽど不思議だよ! しかも無視なんかされたら、嫌に決まってるじゃんか!
ひとつ堰を切ってしまえばどんどん考えが溢れる。もう細かい姿を忘れつつある成長後のカタクリさんを思い出して、唇をきゅっと噛んだ。貴方の子供時代、あまりにも態度が悪くないですか、カタクリさん。
遥か遠くの人にまで文句を思うのはとばっちりもいいとこだけど、許してほしい。今の彼には何も言えない。
「……あんなに、親切だったのに」
自分の声が、思ったより心もとなく響く。
──筋違いだと、わかっていても。
思わずにはいられないんだ。
何で、邪険にするのかって。
こうなるなら、始めから冷たいほうが……よっぽどよかった。