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「──だから! 次のお茶会のメインはシュークリームだって言ってるでしょう!」
「そうとも! だからこそ、この生地で試してみるべきだ!」
「いやいや、それには材料が不十分じゃないか? 従来のシュークリームが一番口に合うのでは……」
「何の変化もないんじゃ、許されないんじゃないの? もうちょっと別の案を──」
(うーん……私は右の奴の方が気になる)
ふよふよ、ふよふよ。またしても夢の中独特の浮遊感を堪能しながら、大きな部屋の、大きな長机の上にある、様々な種類のシュークリームを眺める。
三日ぶりに見た夢は、前回の夢で見た城っぽい造りとよく似ていた。珍しいことに続きでも見ているのか、深層心理の現れなのか。……もし深層心理なら、随分ファンシーな世界観が出てるものだ。
前回のような、巨人が住むような大きなお城。今回は窓から入る日差しが眩しい。
造りはカラフル。見たところお菓子の家、みたいだ。匂いは感じないのでわからない。残念ながら触ることもできなかった。
そして前回との違い。まず、人が小さい。私と同じサイズの人もいれば、小人のような人もいる。大きい人はいない。
それから──私に気づかない。
(話に集中してるから……ってわけでもないよねぇ……)
シュークリーム議論を続けるパティシエ姿の人々は、私が気がついた時には既に話し合いがヒートアップしていた。
ぱちりと目を覚ました……と夢の中で使うのは変だけど、まぁ、とにかく私が目を開けた時に、私は彼らの目の前で、ふよふよ浮いていたわけで。
大声に驚いて肩を揺らしても、私が「え?え?」と混乱していても、終いには顔の前で手を振ってみてもノータッチときた。そうなると、私に気づいていないとしか言えないだろう。
いま、私はこの夢の中で、まさしく幽霊視点なのだ。
それはそれで、寂しいものがあるけれど。
「前回は、私の名前知ってる人いたのになー……」
「甘えるんじゃない! 一人で作業する時のことも考えな!」
「お、おぉう……」
初老の女性が、若い男性に向かって杖をかざしながら力説している。なんだか自分が言われた気になって、つい背筋を伸ばしてしまった。
──確かに。その通りだ。夢の中で臆病になって、どうするんだ。
めげていた気持ちをグンと引き上げて意気込む。よし、まずは探検でもしようじゃないか。どっちに行こう。扉はすり抜けられるかな?
せっかくだから偉ぶって、誕生日席のような大きな造りの上座に腰かける。普通に座ったら高さでテーブルが見えなくなるので、背もたれのへり部分だ。
足を組んで顎に手を当てて見ると、なんだかドキドキした。
と、そこで。
「──カタクリ様ッ!?」
ぴたっ!
室内が一気に静かになる。
身を強張らせたパティシエさん達が、みんな一斉に扉へ視線を向け、ぴりぴりした空気に包まれた。
──かたくり?
ついとつられて視線を扉へ向ければ、大きな扉に釣り合った大きな身体。
見覚えのあるような姿に、音にならないまま「あ」と口が開いてしまう。
「カタクリ様……!! 如何なさいましたか!?」
「……様子を見に来た。揉めていると聞いたが」
「い、いいい、いえ! 順調に進んでおります! ……その、ただ……」
「材料の不足は補える。従来のものも、気に入っている妹たちが多い……両方用意しろ」
「は、はい! 畏まりました!」
敬礼のようにビシィ!と手をあげたパティシエさんを確認することなく、大きな人は踵を返した。
すごい。一瞬で終わってしまった。
どうやら偉い人らしい。
思わず、うんうんよかったねー、両方採用だねーと拍手をしながら、ちらちらと誰もいない扉を見てしまう。
たぶん、視界には入ったはずなんだけど……あの人も私に無反応だった。
(雰囲気が似てる違う人だったか、見えなくなったか……どっちだろう)
なにぶん、夢の中の記憶だ。とても曖昧だし、覚えている情報は少ない。暗かったこともある。
第一、似たような夢をまた見て、同じ人が出てくるのって、なかなか無い気がする。
「──おい」
「ひえ!?」
ドシン、と響く立ち止まる音に、パティシエさん達がまたも固まる。
ばちん。──目が、合ったような──気がした。
「カタクリ様……?」
パティシエさんが呼び掛ける。大きな人の視線は相変わらず私がいる場所へ向けられている。
え……? 眉を潜めて首を傾げると、大きな人もぴくりと片眉が動き、僅かに息を吐き出したようだった。
「……この部屋は三十分後、会議に使われる。すぐに一階の空き部屋に移動しろ」
「か、会議……ですか!?」
「緊急だ」
「はいッ!! 急げ、すぐにだ!」
そう掛け声が上がると、パティシエさん達はバタバタと机に広げてあったシュークリームを片付け始めた。
大きな人は壁の隅に寄りかかり、目を瞑って待っている。
透けちゃうから別に邪魔にはならないだろうけど、習慣的にぶつかったら大変だと思って上空へ浮かびあがる。
ほどなくして、広い部屋にはぽつり。私と大きな人だけになった。
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「そうとも! だからこそ、この生地で試してみるべきだ!」
「いやいや、それには材料が不十分じゃないか? 従来のシュークリームが一番口に合うのでは……」
「何の変化もないんじゃ、許されないんじゃないの? もうちょっと別の案を──」
(うーん……私は右の奴の方が気になる)
ふよふよ、ふよふよ。またしても夢の中独特の浮遊感を堪能しながら、大きな部屋の、大きな長机の上にある、様々な種類のシュークリームを眺める。
三日ぶりに見た夢は、前回の夢で見た城っぽい造りとよく似ていた。珍しいことに続きでも見ているのか、深層心理の現れなのか。……もし深層心理なら、随分ファンシーな世界観が出てるものだ。
前回のような、巨人が住むような大きなお城。今回は窓から入る日差しが眩しい。
造りはカラフル。見たところお菓子の家、みたいだ。匂いは感じないのでわからない。残念ながら触ることもできなかった。
そして前回との違い。まず、人が小さい。私と同じサイズの人もいれば、小人のような人もいる。大きい人はいない。
それから──私に気づかない。
(話に集中してるから……ってわけでもないよねぇ……)
シュークリーム議論を続けるパティシエ姿の人々は、私が気がついた時には既に話し合いがヒートアップしていた。
ぱちりと目を覚ました……と夢の中で使うのは変だけど、まぁ、とにかく私が目を開けた時に、私は彼らの目の前で、ふよふよ浮いていたわけで。
大声に驚いて肩を揺らしても、私が「え?え?」と混乱していても、終いには顔の前で手を振ってみてもノータッチときた。そうなると、私に気づいていないとしか言えないだろう。
いま、私はこの夢の中で、まさしく幽霊視点なのだ。
それはそれで、寂しいものがあるけれど。
「前回は、私の名前知ってる人いたのになー……」
「甘えるんじゃない! 一人で作業する時のことも考えな!」
「お、おぉう……」
初老の女性が、若い男性に向かって杖をかざしながら力説している。なんだか自分が言われた気になって、つい背筋を伸ばしてしまった。
──確かに。その通りだ。夢の中で臆病になって、どうするんだ。
めげていた気持ちをグンと引き上げて意気込む。よし、まずは探検でもしようじゃないか。どっちに行こう。扉はすり抜けられるかな?
せっかくだから偉ぶって、誕生日席のような大きな造りの上座に腰かける。普通に座ったら高さでテーブルが見えなくなるので、背もたれのへり部分だ。
足を組んで顎に手を当てて見ると、なんだかドキドキした。
と、そこで。
「──カタクリ様ッ!?」
ぴたっ!
室内が一気に静かになる。
身を強張らせたパティシエさん達が、みんな一斉に扉へ視線を向け、ぴりぴりした空気に包まれた。
──かたくり?
ついとつられて視線を扉へ向ければ、大きな扉に釣り合った大きな身体。
見覚えのあるような姿に、音にならないまま「あ」と口が開いてしまう。
「カタクリ様……!! 如何なさいましたか!?」
「……様子を見に来た。揉めていると聞いたが」
「い、いいい、いえ! 順調に進んでおります! ……その、ただ……」
「材料の不足は補える。従来のものも、気に入っている妹たちが多い……両方用意しろ」
「は、はい! 畏まりました!」
敬礼のようにビシィ!と手をあげたパティシエさんを確認することなく、大きな人は踵を返した。
すごい。一瞬で終わってしまった。
どうやら偉い人らしい。
思わず、うんうんよかったねー、両方採用だねーと拍手をしながら、ちらちらと誰もいない扉を見てしまう。
たぶん、視界には入ったはずなんだけど……あの人も私に無反応だった。
(雰囲気が似てる違う人だったか、見えなくなったか……どっちだろう)
なにぶん、夢の中の記憶だ。とても曖昧だし、覚えている情報は少ない。暗かったこともある。
第一、似たような夢をまた見て、同じ人が出てくるのって、なかなか無い気がする。
「──おい」
「ひえ!?」
ドシン、と響く立ち止まる音に、パティシエさん達がまたも固まる。
ばちん。──目が、合ったような──気がした。
「カタクリ様……?」
パティシエさんが呼び掛ける。大きな人の視線は相変わらず私がいる場所へ向けられている。
え……? 眉を潜めて首を傾げると、大きな人もぴくりと片眉が動き、僅かに息を吐き出したようだった。
「……この部屋は三十分後、会議に使われる。すぐに一階の空き部屋に移動しろ」
「か、会議……ですか!?」
「緊急だ」
「はいッ!! 急げ、すぐにだ!」
そう掛け声が上がると、パティシエさん達はバタバタと机に広げてあったシュークリームを片付け始めた。
大きな人は壁の隅に寄りかかり、目を瞑って待っている。
透けちゃうから別に邪魔にはならないだろうけど、習慣的にぶつかったら大変だと思って上空へ浮かびあがる。
ほどなくして、広い部屋にはぽつり。私と大きな人だけになった。