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 いつか、を知るには。
 きっとまだ、遠いところにいる。

 カタクリさんと未来の私が一体どんな関係を積み重ねて、カタクリくんと今の私がどんな関係であればいいのかなんて、全くわからない。
 わからないけど、今この瞬間全部を。
 大事に、したかったから。




「ダイフクくんとオーブンくんはカタクリくんの弟で……年子か双子っぽいな」

 カタクリくんに勝手にする宣言をして数日。私はといえば、当初決めた通りペロスくんの後をつけまわし、地道にカタクリくんの情報を集めてまわっていた。
 途中から他の兄弟の子も覚えてきて、ちらほらと色んな人のところをまわる日々。書き留めることが出来ないから頭に叩き込むのみだが、それでも収穫はあるといえる。……多分。
 そして今日も今日とて、見かけたダイフクくんの傍に張り付いているわけだけど……。

「っはあ〜……こうも風が無いんじゃ、退屈で息が詰まる……」
「そうだねぇ」

 ぽかぽかと優しい日差しが降り注ぐ甲板の上、のんびりと雲を見上げたダイフクくんに倣って私も顔を上に向けた。きっと今日も快晴だろう。
 足を床に投げ出して座るダイフクくんの横に居る私は、まだまだ退屈する気配はない。しかし、やることが無いと言えば無い。調査と意気込んではいても、結局自分から動けることは少なくて、基本的には待つという選択肢に限られてしまっているからだ。
 もどかしいと思わなくもなかった。焦ってる自覚もある。だからダイフクくんのこののんびりモードに、敢えて私も合わせることにしようじゃないか。

「船は進まない。戦闘もないとなりゃァ、何もすることがねェ」
「うんうん……すごくわかる。私は戦わないけど」
「退屈しのぎもやりつくしちまった気ィするし……」
「本とかあれば時間潰せそうだけどなー。ダイフクくんは本読まないの?」
「釣りでもしてろってかァ?」
「釣りか〜」

 会話になる訳がない。のびのびと適当なことを返す私も私だが、暇なあまり大きな独り言を呟くダイフクくんもなかなか変人だと思う。

(……まぁ、すぐにどうこう出来るわけが無いか)

 じわじわと肩の力が抜ける。やっぱり気合い入りすぎてたみたいだ。
 こういうのは根気勝負である。いつ夢を見られるか、そしてその夢がカタクリくんが何歳の頃のものになるかは全くわからないけれど、今は目の前のことに向き合っていくしかない。
 両腕を空に、伸びをひとつ。
 ゆっくり気楽に、もう一回り、して来ようかな。

「おいダイフク!! おれのおやつをどこにやった!!」
「あ」

 ペロスくん──! 呟く前に、ぽかりとダイフクくんの頭に拳が落とされる。クリーンヒットだ。痛そう。
 たんこぶ出来てないかな? 気になって頭上へと舞い上がってみたけどよくわからない。代わりにとても怒った様子のペロスくんへと視線を移す。

「いくら退屈で食べること以外楽しみがないからといって、おれの! おやつを! とるな!!」
「まてまて、ペロス兄! おれじゃねェ。他の弟や妹じゃねぇか?」
「お前が食ったのを見たって証言があるんだよ!」
「ならそいつがおれに罪を着せようと──」
「怪我でおやつが食えねぇブリュレがそんなことするか!!」

 ぽかり! またダイフクくんの頭に拳が落ちる。うーん、見事なクリティカル。可哀想になってきた。
 カタクリくん以外に目を向けたことが無かったから──というかそれ程多くこの夢を見ているわけでもなかったから──改めて彼ら兄弟をじっくり認識することが出来ているけど。
 どうにも、彼らは『おやつ』が好きなようで。船の中を探索していた間も、おやつに喜ぶ子供たちの姿を度々見かけた。
 それが子供らしいと言えばらしいのだけど、ほんのちょっぴり、意外だなと微笑ましくなってしまう気持ちもある。

 (……かわいい)

 こっそり笑みを溢した。カタクリくんも、おやつは好きなのかな。想像したらふふっと笑みがもれた。
 ダイフクくんもペロスくんも、この場にはいないオーブンくんも、おやつが大好きだ。
 それでいったら、カタクリくんもその要素が有りそうなものだけど……この年頃の彼を見かける時は、だいたいが長い棒を振り回している様子で、鍛練か何かに必死なのかなということしかわからない。
 好きだと良いな。なんとなく、願望でしかないけど。大人びたカタクリくんに子供らしさとか息抜きを求めるのは、私の勝手かな。

「ったく……国が出来たばっかで、まだ安定していない。おれ達だってしっかりしなきゃならねぇ頃合いなんだ」
「それとおやつは別物じゃねェか」
「お前が食ったんじゃねぇか、やっぱり! この野郎〜後できっちり返して貰うぞ!」
「だからおれじゃねェ!!」

 じゃあ誰だっつぅんだ! 響き渡るペロスくんの声に思考が引き戻される。ぎゃあぎゃあと辺り気にせず騒ぐ二人は、本当にただの元気の良い子供で、小学生みたいだなーと笑いが抑えきれなくなる。
 それに、ペロスくん、この頃は思ったより怖くなんてなくて。決して褒められた感想ではなく寧ろ失礼なんだけど、成長後の第一印象と比べてしまうと、本当に子供にしか見えなくなってしまうんだ。

 (カタクリくんのことも、そうだけど……)

 今と未来を、ごちゃごちゃにして考えられなくなってきてるな……。
 成長後にはさん付け、子供時代にはくん付け、と呼び方を変えちゃっているから、私はもうとっくに別物と思っていたんだろうけど。
 でも。

「……ペロスくんも昔から、長男なんだね」

 その印象は、今も成長後も変わらない。
 当たり前なことだ。最初に産まれてきたのだから、彼が長男であることは変わらない事実。この先一生纏わりつく肩書き。
 私は一人っ子だからよくわからないけど、下に弟や妹が居る友達を見ていると、大変だなと思ったりする。勿論、同時に羨ましくもあるんだけど……。

 ペロスくんや、カタクリくんの、未来を思うと。
 苦労が絶えなくて、でもきょうだい思いの、良いお兄ちゃんになるんだろうなっていうのは予測出来る。
 ただ、少し。ほんの少しだけど。
 それが悲しいなと、思う気持ちもある。


「まぁ、ともかく、だ!」

 ぴしゃん。撥ね付けるようにダイフクくんが手を前に出し、ペロスくんの勢いを止めた。

「おれは鍛練でもしてくる! 暇とはいえやることはやらなきゃならねェ、カタクリにも負けてられねェ。ペロス兄の言う通りだ!」
「おい、体よく逃げてんじゃァねぇ!」
「──ブリュレが!」

 一層大きく阻まれた声が、甲板に響く。

「ブリュレがああなったのは、あいつが舐められたからだ! おれ達きょうだいは誰ひとり舐められちゃならねェ! そういうことだ!」

 言い切って、ダイフクくんが駆け出す。
 途端、さっきまでクァクァと鳴いていたカモメも息を潜めたように静かになって、僅かな風にちゃぽちゃぽと揺れて船にぶつかる波の音が広がった。

「……だから、体よく逃げてんじゃねぇ!」

 ペロスくんも駆け出した。ダイフクくんを追い掛けるのかもしれない。けれど、そのスピードに追い付く気力は感じなくて、言葉も最初のような勢いは無くて。もう怒る気はないんだろう。
 ぽつり。残された私は、まるで置いていかれたようだ。

 ……情けない。
 カタクリくんのことは、まだ全然わかってない。頭もまとまってない。なのに。
 何だか、無性に会いたくなった。

 ──すぐに否定するように首を振る。
 まだ会えない。ここで気後れなんかしていられない。

「……よし!」

 顔を上げ直して、ペロスくんを追いかけた。
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