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「……帰ったか」

 ──あるいは、また行ったか。

 急に城の廊下に現れたかなでが薄れ、消えていく姿を見送った後、一人そのまま立ちすくむ。
 何で泣いていたか。取り乱していたか。理由はわからずとも、腹に手を伸ばした仕草だけでわかる。あいつの前で怪我を負ったのは、後にも先にもあの時飛び出した出来事だけだ。
 ……ガキの頃話した時は、すぐに気持ちを切り替えて整理出来る、強い大人だと思ったもんだったが。
 おれが傷ついても、動揺しても、向き合うことはやめない。おれより弱そうに見えるかなでは、心の強さじゃ引けを取らないもんだと。完敗を示したものだった。だが。
 ……そうか。おれが、知らなかっただけで。まだあいつの過去に、未来に、追い付いていないだけで。
 あいつも同じように、悩み、苦しみ、そして──おれと共に、あったのか。

「……今更だな」

 は、と笑みを吐いて捨てる。
 二十年生きてきても、まだ気づけないことも多い。かなでの謎なんてもんは、一生かけても解ける気がしない。
 それでも。幻覚だろうと、何だろうと──おれはかなでを。そのままを、受け入れることにした。
 例え周りから何を言われようと。おれが何を思おうと。もうアイツを幻だなんて。おれの作り出した虚像であるだなんて、思っちゃいねェ。
 いつ重なるかも知れない時の中で、おれはおれを知る、数奇な巡り合わせで出会ったあいつに。
 ただ、変わらずに向き合っていくだけだと。あの時、確かに誓ったのだ。

「──カタクリ様! ペロスペロー様から伝言です」
「なんだ」

 駆け寄ってきた伝令係に、すぐに意識を移し替える。息が荒んだ様子はないため、走ってきたのはおれを見かけてからの数十メートルだろう。
 アイツのことを考えるのはおれだけの事情で、おれだけの都合だ。そこに割く時間はおれの自由だが、国や家族のことを置いてまですることじゃない。
 今もおれは、『ビッグ・マム海賊団の船員』であり、そしてこの先も一生、『シャーロット・リンリンの息子である』ことに、変わりはない。

「そのっ、それが……」
「……なんだ。早く言え」

 言い淀む伝令係に、振り返っていた身体を正面に正して向き合う。
 何か様子がおかしい。しかし、火急ならばもっと息を乱し慌てた様子があってもいいはずだ。
 口をはくはくと開閉していた伝令係を暫し観察し予想を立てていれば、やがて伝令係は意を決したように、わけがわからないという表情を張り付けたまま、報告を告げた。


「それが……『お前の幻を保護してる』、と」

「…………は?」


 ──お前と同じ歩みをすることなど。
 一生無いと、思っていたんだ。

エピソードは続く

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