懐古と吸魂鬼
ーホシカド・アキラ!……ースリザリン!!
ーホシカド・アマネ!…ースリザリン!!!
「ん………」
ホグワーツ特急の心地良い揺れに揺られて、晶は懐かしい夢を見ていた。
それは、晶と周が入学した時の、組み分けの儀式。
自分がスリザリンに選ばれた理由が解らず不安でいっぱいだった晶を勇気付けたのはいつも、双子の弟である周と蛇寮の先輩、アレイスト・アーチャー・エイブリーだった。
今、同じコンパートメントで揺られている二人だ。
周は晶の隣で晶に寄っ掛かった状態で本を読んでおり、アレイストは二人の向かい側で静かに目を閉じ揺れに身を任せている。
「起きたのか、晶。」
周は顔は本に向けたまま、横目でちらりと見た。
それでも尚、上半身は晶に預けたまま。
「…周、重いわ。」
まだ覚醒したてでややぼんやりとしたまま、晶が非難の声を上げた。
…周は気にせず本を読み続けているが。
「あとどのくらい?」
「まだ一時間しか経ってない。」
「えぇ…」
体感時間では、もう数時間は寝ていたはずなんだけどなぁ
そう呟く晶に、周はまた寝てれば、と声を掛けた。
その言葉に、晶は不満で唇を尖らせた。
「もう、眠気が覚めてしまったの。私も本を持ち込めば良かったわ…」
「じゃあ、これ読めば。」
周は数冊持ち込んでいた中からひとつを取り、晶に渡した。
江戸川乱歩の小説、孤島の鬼だった。
「いやだ、これ、怖いってこの間周が言ったんじゃない。」
「それ程怖くはなかった。大丈夫だから読んでみろよ、読まず嫌いは無くさないとな。」
どうしよう、とあぐねたものの、他にやる事の無かった晶は大人しく手に取り、恐る恐るページを開いた。
その時だった。
ガクンと汽車が止まり、ドサリ、ドシンと荷物棚からトランクが落ちる音が遠くから響いた。
そして突然明りが消え、汽車は闇に包まれた。
「なぁに、どうしたのかしら。」
「全く、相変わらず晶はこんな状況でもマイペースか。…でも本当に、何が起こったのか僕にも解らない。」
双子が思わず小声で話していると、突然辺りが寒くなり、窓が凍りつく。
ふとコンパートメントの扉を見上げた晶は、絶句した。
「…あ、周……ディ、ディ、ディメンターよ……」
「何だって?ディメンターは魔法省が管理してい…嘘だろ?」
そこに居たのは、恐ろしい姿をした、凍てつくような生き物。
ディメンターだった。
魔法省の管理下でアズカバンを守っている、見張っているはずのディメンターが、何故。
学年の秀才と言われる周も、追い払う術は知っていてもそれはまだ使うことができない高等な魔法だった。
晶は周にしがみつき、周は晶を庇うようにディメンターを睨みつけた。
ゆっくりとディメンターがコンパートメントへ侵入してくる気配を感じ、二人は恐怖からか、その方向から目が離せなかった。
冷や汗が、額を伝った。
「伏せて!!!」
突然響いたその声に双子はすぐ反応し、上体を低くして床を睨む。
その一間空いた後、カッと光がコンパートメントを覆った。